今、我々は至るところで様々な著作物に触れることができます。
特にインターネットでは、画像、動画、音楽、絵、文章など様々な著作物が溢れています。非常に魅力的な作品だからこそ、自分だけでただ見たり聞いたりするだけでなく、他の人にも広めたい、こんな形で利用・引用したいという気持ちになることも多いのではないでしょうか。
もっとも、あらゆる著作物は、著作権法という法律で作者の権利が保護されています。どんなに優れた作品であっても、著作者の権利を不当に侵害しないように、また侵害したことによってトラブルにならないように気を付ける必要があります。
そこで、そもそも著作権法とはどういう法律なのか、どういう場合にこの法律に違反することになるのか、違反した場合の刑罰はどのくらいなのかなど、弁護士・坂本一誠が解説いたします。
著作権法とは
著作権法とは、文化の発展に寄与することを目的として、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利とこれに隣接する諸権利を保護することを定めた法律です。ここで「著作物」とは、思想・感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものを指します。
具体的には、以下のようなものが該当します。なお、著作者の権利は、著作物を創作した時点で登録などの手続を経ることなく自動的に付与されます。
- 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
- 音楽の著作物(楽曲、歌詞)
- 舞踏・無言劇の著作物(日本舞踏、バレエ、ダンス、パントタイムの振付け等)
- 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物(書、アニメの原画等)
- 建築の著作物(芸術的な建築物等)
- 地図又は学術的性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
- 映画の著作物(劇場用映画、テレビ番組、ビデオソフト、ゲームソフト、動画サイトにアップされているコンテンツ等)
- 写真の著作物
- プログラムの著作物(コンピュータープログラム)
著作権法違反となるケース
それでは、具体的にどのようなケースが著作権法違反となるのでしょうか。
典型的なのは、著作権者等の許諾を得ず、かつ法定の除外事由がないのに、著作物等を利用するようなケースです。具体的には、他人の著作物を無断でコピーしたり(著作権法21条)、他人の著作物を無断でインターネット上にアップする(同法23条)、あるいは、他人の著作物に無断で修正・加工してそれを使用する、さらには、他人の著作物と類似の著作物を無断で作成する(同法27条)などの行為です。しかし、著作権者に与える影響が少ないと考えられる一定の行為については、著作権の方が制限され、例えば、私的利用の場合は基本的に認められています(同法30条)。
実際に、過去の裁判で著作権法違反とされたものとしては、以下のようなものがあります。
- インターネット上のいわゆるネタバレサイトに漫画の画像等を数回にわたってアップロードしたというもの(東京地裁令和3年3月26日)
- ②ファイル共有ソフトを用いて映画をアップロードし、アクセスしてきた不特定多数のネット利用者に映画の情報を自動公衆送信できるようにしたというもの(京都地裁平成16年11月30日)
- 連載漫画のキャラクターの図柄を付した商品を販売したというもの(最判平成9年7月17日 )
- 日本画家が創作した日本画の偽版画を多数製作し、販売するなどしたもの(東京地裁令和4年3月9日)
- テレビゲーム機のコンピューターシステム(基板)のコンピューター記憶装置(ロム)内に収納されているソフトウェア・プログラムを無断複製して販売したもの(大阪地裁平成2年3月29日 )
- カラオケスナックの経営者が著作権者に無断でレーザーディスクカラオケを再生して客がカラオケ伴奏により歌唱したもの(大阪地裁平成6年4月12日)
ファスト映画は著作権法違反
最近、一本の映画を無断で10分程度に編集してストーリーを明かす「ファスト映画」と呼ばれる違法な動画がネット上のYouTubeに投稿される事案が社会問題化しています。
実際に宮城県警は、令和3年6月、ファスト映画の投稿を巡る著作権法違反の疑いで男女3名を逮捕しました。この事件では、被疑者らが共謀して、複数回にわたり4権利者が著作権を持つ計5作品のファスト映画を動画投稿サイトのYouTubeに公開したようです。
ファスト映画を投稿するアカウントの所有者は動画の再生回数に応じて支払われる広告収入を得ることを目的にしているものと思われますが、いわゆるネタバレを含む投稿は、映画の視聴者が正式な方法で映画を見なくなることにもつながり、著作権者の権利侵害、財産的損害等は甚大なものがあり、このような行為は悪質かつ重大な著作権法違反に該当すると考えられますので、十分注意する必要があります。
著作権法違反の量刑
「著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者」は、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するとされています(著作権法119条1項)。また、両罰規定により、法人については、3億円以下の罰金刑を科すとされています。
具体的にどの程度の刑罰が科されるかは、著作権侵害によって得られた利益の額、違反態様・回数、被害弁償の有無等によって異なります。 なお、著作権法違反は、過失の場合は処罰されず、故意で他人の著作権を侵害した場合のみ処罰されます。
また、従来、著作権等を侵害する行為は親告罪とされており、著作権者等の告訴がなければ公訴を提起することができないとされていましが、法改正により2018年12月30日以降は、一定の要件に該当する場合には、 非親告罪として著作権者等の告訴がなくても公訴を提起することができるようになりました。
著作権法 第123条
第百十九条第一項から第三項まで、第百二十条の二第三号から第六号まで、第百二十一条の二及び前条第一項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
2 前項の規定は、次に掲げる行為の対価として財産上の利益を受ける目的又は有償著作物等の提供若しくは提示により著作権者等の得ることが見込まれる利益を害する目的で、次の各号のいずれかに掲げる行為を行うことにより犯した第百十九条第一項の罪については、適用しない。
一 有償著作物等について、原作のまま複製された複製物を公衆に譲渡し、又は原作のまま公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。次号において同じ。)を行うこと(当該有償著作物等の種類及び用途、当該譲渡の部数、当該譲渡又は公衆送信の態様その他の事情に照らして、当該有償著作物等の提供又は提示により著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合に限る。)。
二 有償著作物等について、原作のまま複製された複製物を公衆に譲渡し、又は原作のまま公衆送信を行うために、当該有償著作物等を複製すること(当該有償著作物等の種類及び用途、当該複製の部数及び態様その他の事情に照らして、当該有償著作物等の提供又は提示により著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合に限る。)。
3 前項に規定する有償著作物等とは、著作物又は実演等(著作権、出版権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権、出版権又は著作隣接権を侵害するもの(国外で行われた提供又は提示にあつては、国内で行われたとしたならばこれらの権利の侵害となるべきもの)を除く。)をいう。
4 無名又は変名の著作物の発行者は、その著作物に係る第一項に規定する罪について告訴をすることができる。ただし、第百十八条第一項ただし書に規定する場合及び当該告訴が著作者の明示した意思に反する場合は、この限りでない。
著作権法違反の時効
著作権等侵害罪は、法定刑が10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこれらの併科なので(著作権法119条1項)、その最も重い刑は「懲役10年」です。したがって、著作権侵害罪は、長期15年未満の懲役に当たる罪なので、公訴時効は7年であり(刑訴法251条、250条2項4号)、違反行為から7年を経過すれば処罰の対象とされません。
ただし、親告罪のものについては、犯人を知ってから6か月を経過すると告訴ができなくなります(刑訴法235条)。
著作権法違反で逮捕されたら
著作権法違反に対する刑罰は、既にご説明したように相当に重いものとなっています。悪質な事案などでは、実刑になる可能性さえ考えられますし、罰金額も相当多額になることもあり得ます。
したがって、逮捕された場合には、早期に弁護士に依頼することによって、著作権者等との間で被害弁償・示談等できないか、また、それができないとしてもどのような弁護活動が考えられるか見通しを立てることができます。
まとめ
著作権を始め商標権、特許権等の知的財産権については、権利の適切な保護と利用の推進を図ることが世界的潮流となっており、ファスト映画のような悪質な著作権侵害行為に対しては、今後、ますます取り締まりが強化されていくことが予想されます。
著作権侵害が経済や社会に及ぼす影響の大きさに注意を払い、そうした行為に及ばないようにすることが何より重要ですが、もし刑事処罰を科されるような行為をしてしまった場合や、それによって逮捕等された場合には、速やかに弁護士にご相談されることをお勧めします。早期に弁護士に相談していただくことにより、刑事処分の見通しを知ることができ、今後の対処方針を立てたり、示談等もスムーズに進めることができます。
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