新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、外でお酒を飲む機会が減った方は多いと思います。しかし、そんなときだからこそ、たまの会食で飲みすぎた結果、トラブルを起こして刑事事件に発展するケースも少なくありません。
トラブルが単なる笑い話で済む内容であればいいですが、時に、それは人生を狂わせるきっかけになってしまうかもしれません。お酒を飲むと気が大きくなってしまう人、頭に血が上りやすくなってしまう人は特に注意が必要です。酔った勢いで喧嘩になり、最悪の場合、刑事事件に発展してしまう可能性があります。
では、酔っぱらって喧嘩をするとどのような罪に問われる可能性があるのでしょうか。弁護士・坂本一誠が解説いたします。
酔っ払って喧嘩になった場合どんな罪になるか
酔っぱらって喧嘩になると、酔っぱらっていない状態に比べ、アルコールの影響で判断力や注意力が低下している為、暴力的な行為に出やすくなる傾向があります。
具体的な行為としては、殴る、蹴る、胸ぐらをつかむ、突き飛ばす、物を投げるなどの行為です。
これらの行為は、刑法上の暴行罪にあたります。暴行の結果、相手に怪我を負わせた場合は傷害罪にあたります。また、酔った勢いで、故意に他人の物を傷つけたり壊したりした場合は器物損壊罪にあたります。
どのような場合暴行罪は成立するのか
暴行罪は人の身体が不法に侵害されないように、つまり、人の身体の安全を保護するために規定されています。
暴行罪(刑法208条)
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
暴行罪は条文のとおり「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかった」場合に成立します。ここでいう「暴行」とは「人に対する不法な有形力の行使」を指します。典型的な行為は、上記のような殴る、蹴る、胸ぐらを掴む、突き飛ばす、物を投げる、などです。これらは皆さんも日常で「暴行」と聞いて想像する行為だと思います。
一方で、塩をかける(福岡高裁昭和46年10月11日判決)なども「人に対する不法な有形力の行使」として「暴行」であると認定された裁判例があります。また、「人に対する不法な有形力の行使」とされる行為は必ずしも人に接する必要はなく、人の手前を狙って石を投げる(東京高裁昭和25年6月10日判決)、狭い室内で日本刀を突きつける(最高裁昭和28年2月19日判決)、自動車運転中に他自動車への追跡、頻繁な幅寄せ(東京高裁平成16年12月1日判決)、後ずさる相手に正面から詰め寄る(平成24年3月13日判決)なども裁判例では「暴行」として認定されています。
これらは、たとえ直接触れていなくても、人の身体を不法な有形力の行使から保護しようという暴行罪の趣旨から「暴行」と認定されています。加えて、光、音、放射線などの物理力を人に向けて行使した場合も「暴行」となります。携帯拡声器を用いて耳もとで大声を発した(大阪地裁昭和42年5月13日判決)ことが暴行と認定された例もあります。
どのような場合に傷害罪が成立するのか
傷害罪は人に「暴行」を加えた結果、人に「傷害」、分かりやすく言い換えれば怪我を負わせた場合に成立する犯罪です。
暴行罪と同じく、人の身体の安全を保護するために規定されている法律です。人に「傷害」を負わせなかった場合は前述の暴行罪が適用されます。傷害罪は暴行罪に罪を加重した犯罪となりますから、暴行罪に比べ、より刑罰も重くなっているのが特徴です。
傷害罪(刑法204条)
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
傷害罪は前述の「暴行」と、その結果「傷害」を負わせた場合に成立する犯罪ですが、傷害罪における「傷害」とはどういった意味なのでしょうか。
通説では、「傷害」とは、人の生理的機能を侵害することと考えられています。
具体的に皆さんがイメージしやすい例としては、外傷(創傷、打撲、骨折)などがあります。また、外傷以外で「傷害」と認定された例として、怒号や度重なる嫌がらせ行為により不安及び抑うつ状態に陥らせた事例(名古屋地裁平成6年1月18日判決)、自身が性病にかかっていると知りながら性行為を行い性病を移した事例(最高裁昭和27年6月6日判決)、監禁下の暴行脅迫で精神的傷害を負わせた事例(最高裁平成24年7月24日判決)など、外傷ではなくても人の健康状態や精神状態を侵害した場合には「人の生理的機能を侵害すること」に該当します。
怒号や度重なる嫌がらせ行為は原則として「有形力の行使」とはいえず、暴行罪には該当しませんが、不安及び抑うつ状態という生理的機能を侵害するにいたれば、傷害罪が成立します。
どのような場合に器物損壊罪が成立するのか
器物損壊罪は「他人の物」を故意に「損壊」、又は「傷害」した場合に成立する犯罪です。器物損壊罪は物の財産的価値を守ることを目的に定められています。
器物損壊罪(刑法261条)
前3条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。
ここでいう「他人の物」とは他人が所有する物のことです。条文中の「前3条の規定するものの他」は公用文書、私文書、それぞれの電磁的記録、建物、船舶のことを指しており、これらを「損壊」した場合は別の罪が適用されます(刑法258条,259条,260条)。
つまり、これらを除いた「他人の物」が器物損壊罪の対象とされています。「損壊」とは「その物の効用を害する行為」のことをいい、分かりやすい例でいえば、店の看板を壊す、グラスをわざと割る、相手のスマホ画面を割る、相手の服を破くなどが挙げられます。また、他人の食器に尿をかける(大審院明治42年4月16日判決)など、その物を壊さなくてもその物の効用を害したといえる場合には損壊に当たるとされています。
相手にお酒をかけた場合も暴行罪になるのか
先ほども述べたように、「暴行」とは「人に対する不法な有形力の行使」をいいます。お酒という液体を人にかけるという行為は有形力の行使にあたり得ます。
事件に巻き込まれたら弁護士に相談を
事件後、何の対応もしないでいると、警察から逮捕されることがあります
酔って相手に暴力をふるった場合、相手や周りの人間に取り押さえられたり、警察に連絡されてその場で逮捕されたりすることがあります。これを現行犯逮捕といいます。
また、その場で逮捕されなくとも、後日相手が被害届を提出し、捜査がなされた結果、裁判所が発行した逮捕状に基づいて逮捕されるということもあります。これを通常逮捕といいます。通常逮捕は、警察から電話連絡があり任意での事情聴取を要請されて、複数回事情聴取を受けた後になされることもあれば、いきなり警察が自宅へきて逮捕される場合もあります。
いずれにしても、事件の記憶がない場合や、大した事件にはならないだろうと思って日常生活を過ごしていた被疑者本人にとっては寝耳に水で、突然捜査を受けることになり生活は一変します。逮捕されれば、場合によっては長期間仕事や学校を休まざるを得なくなり、重大な不利益を受けることも多いです。
そのため、暴行や傷害などに当たる行為に身に覚えがある場合には、不安を感じたらただちに弁護士に相談することが大切です。
弁護士に相談する理由
弁護士に相談することによって、逮捕を回避したり、逮捕されたとしても可及的速やかに身柄を解放したり、相手方との示談によって不起訴処分を獲得して前科が付くのを回避できる可能性があります。
警察に逮捕されると、48時間以内に検察庁に送致されて検察官の取調べを受けます。検察官が24時間以内に勾留(更なる身体拘束の継続)を裁判所に請求し、裁判所が勾留を許可すると、更に10日間身柄拘束が続きます。検察官は勾留の延長を裁判所に請求できるので、更に20日間身柄拘束が続く可能性があります。検察官はこの20日間に被疑者を起訴するか不起訴にするかを決めなければならず、起訴されれば保釈が認められない限り更に勾留が続きます。
このように、逮捕されると長期間身柄を拘束され、仕事や学校など、社会的地位に甚大な影響が出ます。これを回避するためには、逮捕される前に相手方と示談をして逮捕を回避したり、検察官や裁判所に意見書を提出して勾留が決まるのを防いだりする必要があります。示談交渉や意見書の提出は弁護士でないとできないことです。
少しでも長期の身柄拘束を防ぐためには入念な準備が必要です。そのためには、早めに弁護士に相談して弁護活動を始めてもらうことが大切です。是非弁護士にご相談ください。
酔って喧嘩をしてしまった事件の弁護活動の内容
お酒が絡む事件の特徴は、当事者に十分な記憶がなかったり、当事者同士で記憶や言い分が食い違うケースが非常に多いということです。
暴行や傷害の事案でも、被害者の訴える被害事実を被疑者が全く覚えていないということは珍しくありません。大まかに覚えていても、行為の具体的な内容に食い違いがあることが非常に多いです。被害者もお酒を飲んでいる場合には、被害者の記憶が誤っていることも多々あるはずです。そのため、やってもいない事実で処罰されることのないように、弁護活動を尽くしていくことが大切になります。
まずは捜査機関の取調べに対する対応の方針を慎重に決定する必要があります。曖昧な記憶に基づいて供述すると、その内容と矛盾する証拠を捜査機関が集め、裁判で不利になる可能性が高いです。そのため、取調べで黙秘をするのか供述するのか、供述するとしても供述調書に署名押印をするのか、弁護士と依頼人でよく話し合って決める必要があります。適切なアドバイスには、刑事事件の豊富な知識と経験が必要不可欠です。
不起訴処分を狙うための示談交渉にも技術が必要です。弁護人が被害者と示談交渉をする際、酔っているとはいえ被疑者が被害者の主張する事実を覚えておらず認めないことに被害者の方が憤慨することがよくあります。
そのため、事前に依頼人と打ち合わせをして、記憶がないとはいえどの範囲で事実を認めるのか、争うのかを入念に検討して示談に臨みます。争う場合には、被害者の方に対して丁寧に説明し、被疑者の誠意や、示談のメリット・デメリットを的確に被害者に説明して説得する技術が必要になります。
まとめ
酔って喧嘩になった場合に暴行罪や傷害罪、器物損壊罪などの罪に問われる可能性があること、弁護士の示談交渉などの活動が重要となってくることがお分かりいただけたでしょうか。
お酒を飲む機会は我々誰にでもあることです。ですから、お酒にまつわるトラブルはお酒を飲む人ならだれにでも起こりうる可能性があるということです。
万が一、お酒に関するトラブルによって刑事事件に巻き込まれた場合には、速やかに刑事事件に強い弁護士にご相談ください。
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当事務所は、刑事事件関連の法律相談を年間3000件ものペースで受け付けており、警察捜査の流れ、被疑者特定に至る過程、捜査手法、強制捜査着手のタイミング、あるいは起訴不起訴の判断基準や判断要素についても理解し、判決予測も可能です。
- 逮捕されるのだろうか
- いつ逮捕されるのだろうか
- 何日間拘束されるのだろうか
- 会社を解雇されるのだろうか
- 国家資格は剥奪されるのだろうか
- 実名報道されるのだろうか
- 家族には知られるのだろうか
- 何年くらいの刑になるのだろうか
- 不起訴にはならないのだろうか
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上記のような悩みをお持ちの方は、ぜひご相談ください。