現行犯でなければ立件されないのか
盗撮は、被害者に気付かれないようにして犯行に及びます。エスカレーターであれば後ろで誰か見ていないか、書店やコンビニなどの店舗でも周囲を伺って犯行に及びます。目撃者などの証拠がなければ捕まることはないと考えて繰り返し犯行に及びます。
確かに、犯罪が発覚するのは被害者からの申告が最も多く、盗撮が発覚するパターンの典型的なものは、被害者の方に気付かれて警察に通報されるというケースです。スマホの撮影のシャッター音や録画開始音が聞こえたり、何か気配を感じて後ろを振り向くと後ろの男性がスマホをスカートの下に向けたりしているのを見て、盗撮とすぐにわかり、警察に通報します。盗撮が発覚するのはそのようなケースがほとんどです。
逆に言うと、被害者自身が被害に気付かないと被害申告することもなく、発覚する可能性は低いとは言えますが、目撃者がいる場合はやはり現行犯として刑事立件されるでしょう。
では、被害者に気付かれて咎められ、目撃者も振り切って、その場から逃走した場合はどうでしょう。このような人の中には、仮に後で被害者の被害申告によって警察の捜査が自分に及んだとしても、現場遺留品はなく、盗撮に使用したスマホについてもデータを削除したので証拠はないので逮捕されないし、起訴もされないと考えるかもしれません。しかし、盗撮データは復元できるのです。
以下、盗撮した写真や動画の復元や、盗撮データを削除してしまった場合の影響について代表弁護士・中村勉が解説いたします。
盗撮の証拠となるものとは
①盗撮の写真や動画
盗撮が被害者に気付かれたときに、行為者が真っ先に行おうとするのが盗撮データの削除であることからも明らかなとおり、まず盗撮の証拠として考えられるのは、盗撮の写真や動画などのデータです。しかし、盗撮データは後述するデジタルフォレンジックによってある程度は復元可能です。また、復元されなかったり、そもそも録画開始ボタンがたまたま押せていなかったりで、盗撮の写真や動画といった証拠がなかった場合であっても、以下の別の証拠が盗撮の証拠となり得ます。
近年ではほとんどの都道府県の条例において、盗撮目的でカメラ機器を「差し向けた」だけでも罰せられるよう条例改正がされています。したがって、たとえ盗撮のデータがなかったとしても、なお、盗撮として立件され、処罰される可能性は十分にあります。
②防犯カメラの映像
盗撮データと同じくらい、あるいはそれ以上に重要な証拠となりうるのが防犯カメラ映像です。被疑者がスマートフォンを含むカメラ機器を被害者に差し向ける様子を防犯カメラがとらえていた場合には、その映像は盗撮の強い証拠といえます。
③被害者や目撃者の供述
仮に、防犯カメラ映像で盗撮行為が確認できなかったとしても、日本の刑事裁判においては、被害者や目撃者の供述だけでも有罪とされ得ます。更衣室やトイレなど、防犯カメラが設置されていない場所での盗撮の場合は特に、被害者によるカメラ機器の発見状況等に関する供述が証拠となるでしょう。
④被疑者自身の供述
被疑者自身の供述、すなわち自白も証拠となり得ます。もっとも、日本の刑事裁判では、補強法則といって、被疑者の自白だけでは有罪とすることができず、有罪とするには他の証拠を必要とするというルールがありますので、それほど強い証拠とまではいえません。
デジタルフォレンジックによるデータ復元
画像を含むデジタルデータは、紙媒体の証拠等とは異なり、簡単に削除できます。スマホの操作一つで消えてしまいます。
そのような、証拠としての脆弱性を専門的な技術をもって調査・解析するのが「デジタルフォレンジック」という技術なのです。
「フォレンジック」とは、「法廷の」や「法的に有効な」という意味です。フォレンジックは、強力なデータ復元機能を持っており、消されてしまったデータを復元して、証拠データを抽出します。つまり、パソコンやスマホの記録媒体に残されたデジタルデータを、法的な裏付けを持って調査、提供する業務のことを言い、アメリカではかなり前から法廷証拠として扱われ、専門業者も多数存在します。訴訟社会と言われるアメリカでは「証拠の王」としてデジタルフォレンジックを採用しています。
わが国でも警察は、科捜研だけではなく、専門的なフォレンジック業者に業務委託し、大量のスマホ解析を行っています。犯罪捜査には欠くことのできない手法となっています。また、検察庁は、フォレンジック調査ツールとしてこれを採用し、特捜部をはじめとする全国の検事がデジタルデータの証拠調査を行うようになりました。ですから、盗撮した写真や動画を削除したからと言って刑事立件されないと考えるのは危険です。
盗撮データを削除したら証拠隠滅罪となるか
盗撮犯人自身が証拠を隠滅しても証拠隠滅罪にはなりません。証拠隠滅罪はあくまでも「他人」の事件に関する証拠を隠滅した場合に適用されるからです。しかし、第三者が(弁護士を含む)、盗撮した写真や動画を「削除した方がいい」と助言し、実際に本人がデータを削除した場合には、本人には証拠隠滅罪は成立しませんが、その第三者には証拠隠滅罪の教唆犯が成立する余地があるので注意が必要です。
経験の浅い弁護士の中には、盗撮データは削除した方が良いなどと安易にアドバイスをする弁護士もいますが、これは犯罪なのです。
盗撮データを削除してしまった場合の影響
盗撮犯本人が盗撮した写真や動画を削除したとしても、その者に証拠隠滅罪は成立しませんが、情状において相当な不利益を被ります。
まず、証拠を隠滅したということは、逮捕の要件である罪証隠滅のおそれがあるとされ、逮捕される可能性が高くなります。
盗撮は条例違反であり、刑法犯と違って比較的軽微な犯罪ですが、盗撮をし、その場から逃走し、かつ、盗撮データを消去したとなると、逮捕要件である罪証隠滅のおそれと逃亡のおそれの両方に合致してしまうのです。
しかし、人間は弱いもので、ついつい怖くなって現場から逃走したり、焦ってデータを削除したりしてしまいがちですよね。その人間の弱さを主張し、決して狡猾であるがために逃走したり、盗撮した証拠を削除したりしたわけではないと主張してくれるのが弁護士なのです。
当事務所では、実際に証拠を削除してしまった旨の相談を依頼人から受けた際に、そのことが捜査機関に発覚する可能性と、捜査機関に自ら申告した場合のメリット・デメリットを慎重に検討し、削除した経緯にやむを得ない事情があることについて依頼人から供述調書を取るなどして資料を整えたうえ、弁護人から捜査機関に事情を説明した経験があります。
盗撮事件で後日逮捕される可能性
盗撮事件においては、当日逮捕されなかったとしても、
- 被疑者の供述状況
- 捜査の進捗
等によっては後日逮捕される可能性もあります。
例えば、最初は任意で事情を聴かれていたとしても、否認していると、罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれがあるとして逮捕状を請求され、後日逮捕されることもあります。
当時、被害者に気付かれたものの逃走し、当日逮捕されなかったとしても、被害者の被害申告を受けた警察が周囲の防犯カメラ映像や、駅構内での盗撮であれば防犯カメラの映像と犯人が利用していた定期券の情報等を照らし合わせて犯人を特定し、後日逮捕、ということもあります。
後日逮捕された場合であっても、盗撮事件の場合には勾留を回避できる可能性が十分にありますので、お早めに弁護士に相談・依頼することをお勧めいたします。
余罪盗撮事件の発覚
盗撮をしても、被害者に気づかれなかったり、目撃者にも現認されなかったりした場合には、盗撮事件は発覚する可能性は低いですが、前述のとおり後日逮捕も考えられます。
もし、盗撮で逮捕され、スマホ等が押収されたときに、発覚しなかったはずの余罪がその機会に発覚してしまうことがあります。
私の経験ですと、盗撮行為は常習性があり、検挙時に押収されたスマホやパソコンには未発覚の余罪である盗撮の写真や動画が数百枚保存されているのが普通です。
結局、発覚しなかったからといって同じ犯行を繰り返せば、いずれ発覚して逮捕され、それまでの余罪がすべて明らかになって立件されると思ってください。場合によっては単純盗撮罪ではなく、常習盗撮罪として重く処罰されることもあるのです。常習性は誰かが止めてくれなければ止まりません。弁護士に相談する意味もそこにあります。
余罪が発覚した際に、捜査機関がこれらを当初の罪とは別の事件として立件するか、それとも当初の事件の情状として位置付け立件は避けるのかは、捜査機関の裁量により変わり、この余罪の立件の有無が被疑者のその後の刑事処分に大きく関わってきます。
というのも、スマートフォン等に残っている盗撮データのほとんどは、データに写っている被害者を特定することができません。そのため、被害者と示談をすることができず、立件されると示談を理由に不起訴処分となる可能性が皆無に等しく、少なくとも罰金刑は免れないことが多いのです。
余罪が発覚した場合には、余罪に関する取調べに適切に対応し、警察官と折衝するなどして、余罪の立件を防ぐ必要があります。そのためにも、弁護士の力が必要なのです。
盗撮の証拠を削除してしまった場合は弁護士に相談を
既に警察から連絡がきている場合には、弁護士に相談すべきです。
盗撮事件で不起訴処分を獲得するには示談を成立させることが必要です。示談をし、被害者が一定額の支払いを条件に処罰を望まない意向であることが検察官に伝われば、検察官は非常に高い確率でその事件を非常に高い確率で不起訴とするからです。
そして、示談をするには弁護士が必要です。典型的な駅の階段やエスカレーターなどにおける盗撮事案の場合、被疑者と被害者は赤の他人であることがほとんどです。被疑者の側は、被害者の名前も住所も連絡先も知りません。交渉するための連絡すらできないのです。警察も、被疑者と被害者の当事者同士の話し合いのために連絡先を仲介することはほとんどありませんし、被害者が被疑者本人への連絡先の開示を許可することもまずありません。
そのため、弁護士が警察や検察に被害者と話し合いたい旨を丁重に伝え、捜査機関から被害者に連絡先を弁護士に教えても良いかどうか確認してもらう必要があります。弁護士に示談交渉を担当してもらうことによって始めて、話し合いを始められる可能性が生まれるのです。
示談の方針や金額については、当然依頼人と協議のうえで決定し、被害者と話し合いをします。弁護士はご依頼者である被疑者本人の意向もふまえつつ示談交渉を行うので、示談は自分で行わず、弁護士を介すことが得策と言えるでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。盗撮の証拠と立件の可能性について解説しました。盗撮データを削除しても被害申告や、防犯カメラ映像の解析から盗撮事件が発覚し、捜査は行われます。もし盗撮した写真や動画を削除していたとしても、本格的な捜査がはじまれば、復元も可能になります。データを削除したからといって逮捕の可能性がなくなるわけではありませんので、心あたりがある場合には早急に弁護士に相談すべきでしょう。
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