不同意性交等罪で逮捕されると、突然の身柄拘束により職場や家庭生活に大きな影響が及びます。
刑事事件に関わることで生じる社会的リスクや精神的負担も非常に大きく、適切な対応が早急に求められます。
弁護士に依頼することで、身柄解放や不起訴処分の可能性が高まり、家庭や職場への悪影響を最小限に抑えられます。逮捕時には速やかに弁護士へ相談することが不可欠です。
実際に早期に弁護士に相談したケースで、すぐの対応が功を奏し不起訴処分となった事例もあります。事件を起こしてしまった場合や家族が逮捕された場合には、できるだけ早く弁護士に相談することをおすすめします。
今回は、不同意性交等罪での逮捕可能性や、逮捕された場合に弁護士ができる対応について弁護士・坂本 一誠が詳しく解説します。
不同意性交等罪とは?
不同意性交等罪(旧強制性交等罪)の条文には、被害者が性的行為に「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交」等をされた場合に成立する犯罪です(刑法177条1項)。
なお、不同意性交等罪の「性交等」とは、性交(姦淫)の他に、肛門性交、口腔性交、膣・肛門に陰茎以外の身体の一部や物を挿入する行為であってわいせつなものも含まれます。
有罪となった場合は、最低でも5年以上の拘禁刑となります。
不同意性交等罪 第177条
前条第1項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛門性交、口腔性交又は膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第179条第2項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、5年以上の有期拘禁刑に処する。
また前述のとおり「同意しない意思を形成」と、同意の有無が問題になりますが、同条3項によると、16歳未満の者に対する性交等は、被害者の同意の有無に関わらず犯罪が成立します。従前の強制性交では、13歳未満の規定だったものが不同意性交に改正され同意年齢が引き上げられました。
不同意性交等罪が制定された経緯
令和5年7月に不同意性交等罪が制定されましたが、不同意性交等罪になる前には「強制性交等罪」と呼ばれていました。またそれ以前は、「強姦罪」と呼ばれていました。これらは所謂レイプを処罰する趣旨の規定です。平成29年の法改正により名称と刑罰の内容が変化し、厳罰化され、さらには令和5年7月の再度の法改正によって、不同意性交等罪になりました。
親告罪から非親告罪へ|2017年改正
強姦罪であった頃は親告罪でしたが、現行では非親告罪であり、告訴なしでも起訴されることがあります。
親告罪とは、検察官が起訴をする際に被害者(または一定の身分の者)からの告訴が必要な犯罪のことを指します。非親告罪とは、起訴の際に告訴が必要のない犯罪のことを指します。旧強姦罪について起訴する場合には、告訴が必要でした。
元々親告罪とされていた趣旨は、強姦罪の捜査によるセカンドレイプを未然に防止するため、被害者のプライバシー保護の必要性から、その訴追の要否を被害者等の判断にゆだねるべきと考えられていたからです。その後、加害者の訴追の要否を被害者等の判断にゆだねることが、かえって被害者等の重いストレスとなるという報告が多数寄せられたことなどを背景として、非親告罪へと改正されました。
同意年齢の引き上げ|2023年改正
旧強制性交等罪の時には、13歳と定められていた性交同意年齢を16歳とし、16歳未満の者に対するわいせつ行為または性交等は、同意の有無にかかわらず不同意わいせつ罪・不同意性交等罪となるように変更されました。
性犯罪が処罰される趣旨は、自由な意思決定が困難な状態で性的行為を行い、被害者の性的自由を侵害する点にあります。そして、性的行為の意味を認識する能力が欠けている人に対しては、いかなる状況で性行為に及んだとしても、被害者の性的自由を侵害することになります。改正前においては、13歳未満の人は、この行為の意味を認識する能力が備わっていないと考えられてきました。
今回の改正では、性的行為にあたって自由な意思決定をするためには、行為の性的意味を認識する能力だけではなく、「行為の相手との関係で、その行為が自分に与える影響について自律的に考えて理解したり、その結果に基づいて相手に対処する能力」も必要であると考えられるようになりました。13歳以上16歳未満の人では、そのような能力が欠けているという考えのもと、性交同意年齢が16歳に引き上げられました。
参考:法務省 性犯罪関係の法改正等 Q&A〔いわゆる性交同意年齢の引上げについて〕
このような性交同意年齢に関する改正の結果、今まで同意していれば問題がなかった相手との性交渉についても、不同意性交等罪に該当する可能性が高まっているので、不同意性交等罪での立件数は今後増加していくと考えられるでしょう。
不同意性交等罪で逮捕されるケースとは
では、不同意性交等罪で逮捕されるケースについて解説します。
前述のとおり、不同意性交等罪の法定刑は5年以上の有期拘禁刑とされており、厳重に処罰される重大な犯罪です。犯罪が重大であればあるほど、逃亡や罪証隠滅の可能性があるとして、逮捕される可能性は高まります。
例えば、路上や自宅に侵入して突然見ず知らずの人に性交を強いたり、アルコールや薬物の影響で明らかに同意しない意思を形成・表明・全うできないほどの心身喪失状態に乗じて性交したような悪質な事例、複数人で1人の被害者に性交を強いたような事例は、逮捕の可能性が極めて高いといえるでしょう。しかし、飲み会の帰りに知人同士で意気投合して性交に及んだが、実は被害者は行為に同意していなかったというような、同意の余地があり得る事件の場合には、逮捕されずに在宅捜査で手続が進んでいく事案も見られます。
いずれにせよ、ある時点で在宅捜査が行われていたとしても、その途中で突然逮捕されるケースもありますので、警察が関与している場合には速やかに弁護士に相談することが必要です。
不同意性交等罪での逮捕は、社会的信用を大きく損なう可能性があり、会社や家庭などへの影響も深刻です。犯罪の事実が会社や学校に露見した場合、解雇や退学処分になることも十分に考えられます。
逮捕後には勾留が続くことも多く、捜査や裁判が長期化するケースも少なくありません。弁護士としては、依頼者が誤解や過剰な捜査の対象とならないように、証拠や事実関係の確認を綿密に行い、適切な防御を尽くすことが求められます。
また、強制性交等罪の逮捕率は令和5年版の犯罪白書によると令和4年の件数では、57%前後ですが、勾留率は約98%となっており、逮捕された場合には高い確率で勾留される類型です。
強制性交等罪の際には、「暴行又は脅迫を用いて」という要件によって逮捕に至らない可能性がありましたが、令和5年の刑法改正によって、処罰対象が広がったこともあり、逮捕・勾留率は今後さらに高くなる可能性があります。
参考:令和5年版犯罪白書
不同意性交等罪で逮捕されたらどうなる
不同意性交等罪(旧強制性交等罪)で警察に逮捕された場合には最大72時間の身体拘束を受けます。さらに、検察官が引き続き身体拘束の必要性があると判断した場合には勾留を請求し、それが裁判官に認められた場合、最大20日間の身体拘束を受けます。
仕事をしている方であれば、20日間も欠勤しなければいけないとなると仕事に大きな影響が生じ、不同意性交等罪で逮捕されたという事情を隠し切れないケースも出てきます。そうなれば解雇等の重大な不利益を受ける可能性が高くなります。
そのため、逮捕後にあたっては、まず弁護士に今後について相談することが肝心です。もし不同意性交等罪の容疑が事実である場合、基本的には、被害者との示談を目指すことになるでしょう。示談なくして不起訴処分という結果を獲得するのは難しいものとなります。
公務員や医師といった資格をお持ちの方は、その資格に関する法律の定めに従って懲戒処分を受ける可能性があります。例えば、医師については、医師法7条1項、4条3号により、罰金以上の刑に処せられた場合には戒告、3年以上の医業の停止または免許の取消しの処分を受ける可能性があります。
地方公務員の場合には、実刑に処せられると資格を失い失職することとなり、執行猶予が付いたとしても執行猶予期間が満了するまで資格を失います(地方公務員法38条)。罰金刑であったとしても、「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合(同82条)に該当するとして免職、停職、減給又は戒告の処分を受ける可能性があります。このように、国家資格を有する方に前科が付くと、懲戒処分によって大きな不利益を受ける可能性があります。そのような不利益を避けるためにも、早期の不起訴処分を獲得するために弁護士の力が必要です。
記憶にない場合はどうなるのか
「記憶にない」として容疑を否認する場合もあるでしょう。
たしかに、逮捕されたとしても、双方の合意に基づき性交に至ったり、実際には性交に至ってはいなかったり、真の犯人が他にいて自分は関与していなかったりする可能性があります。記憶にない理由にもよりますが、以上の可能性が真実である場合、不同意性交等罪(旧強制性交等罪)は成立しません。
一方、被疑者に記憶がないという状態であると、自白を求め厳格な取調べを受けることになります。本当に記憶になかったとしても「自分がした」と供述した場合、自白調書として証拠とされてしまいます。また、被害者の供述が信頼されやすい状態となり、不利な方向に導かれてしまう可能性もあります。よって、弁護士に相談したうえで記憶を整理し、その上でどのように捜査機関の取調べに対応するのかについて慎重な方針の決定が求められます。
不同意性交等罪で逮捕された場合に弁護士ができること
不同意性交等罪で逮捕された場合、弁護士に依頼することでスピード解決につながるでしょう。身柄解放のための手続きや、被害者の処罰感情を緩和する謝罪文や反省文の作成に対するアドバイス、他にも被害者と示談をすることによって、不起訴処分になる可能性が高まります。
不起訴処分になると前科がつかず、日常生活に戻ることができます。さらに、弁護士が取調べへの対応についてアドバイスすることによって、被疑者の不利な供述を回避することに繋がります。
身柄解放活動
不同意性交等罪で逮捕された場合、まず優先されるのが被疑者の身柄解放です。
逮捕後、最大で72時間は身柄拘束が可能であり、検察官が勾留を請求すると、さらに最長20日間の勾留が認められるケースもあります。これにより、被疑者が職場や家庭生活に戻れず、社会的な立場に大きな影響を及ぼす可能性があるため、弁護士は勾留回避や早期解放を目指して活動します。
身柄解放に向け、弁護士はまず、検察や裁判官に対して「逃亡や証拠隠滅の恐れがない」ことを強調し、勾留の必要性がないことを主張します。例えば、職場や家庭の状況、周囲の支援体制を具体的に説明し、被疑者が逃亡の恐れがないことや証拠が既に揃っていることなど、法的かつ実務的な証拠をもって説得します。
また、仮に勾留されてしまった場合には「準抗告」と呼ばれる異議申立を行い、勾留決定の取り消しを求める手続きを迅速に進めます。これにより、勾留の不当性を主張し、早期の解放を目指すことが可能です。弁護士は身柄解放のためのあらゆる法的手段を駆使して、被疑者の早期社会復帰に努めます。
示談交渉
身柄解放活動以外にも、被害者との示談成立が、事件の解決に大きく影響を及ぼす場合が多くあります。示談が成立することで、早期に身柄が解放されたり、処分が軽減される可能性があり、不起訴処分になるケースも少なくありません。そのため、弁護士は示談交渉を迅速かつ丁寧に進めることが求められます。
示談交渉では、被害者の感情に寄り添いつつも、示談金の交渉では時に毅然とした態度でこちらの提案が妥当なものであることを説明する必要があります。そのためには、刑事弁護の示談交渉に精通している必要があります。被害感情の強い性犯罪では、特にそのような弁護士の経験が重要といえるでしょう。
不同意性交事件においては、弁護士が適切かつ迅速に対応することで、身柄の早期解放や示談成立、裁判での有利な判決に向けた支援が可能です。逮捕された場合には、できるだけ早く専門的な弁護士に相談することが大切です。
不同意性交等罪で起訴されたらもう手遅れか
不同意性交等罪で逮捕された場合には、前述のとおりの弁護活動をしていても、必ずしも不起訴や示談で解決するとは限りません。もし起訴されてしまった場合、弁護士は裁判における防御戦略を立て、被疑者ができる限り有利な判決を得られるよう尽力します。
起訴後の対応として、弁護士はまず検察官から徹底した証拠開示を受け、独自にも被告人の主張を補強する証拠を収集します。
相手方が同意していたなどとして事実を争う否認事件の場合には、被害者の証言だけでなく、第三者の目撃証言や当時の状況を客観的に示す証拠を集めることが不可欠です。防犯カメラの映像、当時の連絡記録やメールの内容などが、有効な証拠となる場合があります。証拠を精査し、検察側の立証が不十分であることを示す説得的な戦略を構築し、法廷活動に臨みます。
事実を認めて執行猶予付きの判決や刑の減軽を目指す場合には、示談未了の場合には引き続き示談交渉を行います。また、被告人が再犯防止に努めていることや、反省の意を示していることを説得的に示すことを目指します。重大な犯罪である不同意性交等罪であっても、示談交渉等によって執行猶予付きの判決が得られるケースはありますので、性犯罪の弁護経験の豊富な弁護士に依頼することが重要です。
不同意性交等罪で逮捕されたが無実の場合
相手方が性交時には同意していたが何らかの事情で感情に変化が生じて被害届を出したり、相手方が性交に同意していなかったのに同意があると誤信し性交に及んだ場合には、不同意性交等罪(旧強制性交等罪)の成立を争うことになります。
その場合、弁護人は、まずは検察官に対しては不同意性交等罪の成立を認めるに足りる証拠が十分でないとして嫌疑不十分を理由とする不起訴処分を求めることになります。
もっとも、起訴前の段階では弁護人も被疑者も検察官が収集した証拠を見ることはできません。そのため、検察官が収集した証拠の全容が把握できないまま嫌疑不十分を理由とする不起訴処分を求めたとしても、検察官に対する訴求力には限界があり、実際にどの程度不起訴処分の可能性があるかは未知数です。
そして、被疑者の側は不同意性交等罪の成立を争っているにもかかわらず、検察官に証拠が十分であると判断して起訴された場合、日本における刑事裁判の極めて高い有罪率を踏まえると、無罪を主張するとしても有罪を受けて実刑になるリスクを抱えて戦わなければならないということになります。
そのため、さまざまな理由から否認している事件の場合であっても示談の申し入れを行う場合はあります。否認している事件では示談交渉ができないという説明をする弁護士もいますがそれは誤りです。否認事件の場合の示談となると、より刑事事件の経験が多い弁護士に依頼することが、ご本人のためになるでしょう。
不同意性交等罪で逮捕された解決実績
当事務所で扱った、不同意性交等罪で逮捕されたが不起訴処分・執行猶予判決を獲得した事案をご紹介します。
まとめ
いかがでしたでしょうか。近年、不同意性交罪に改正されたこともあり性犯罪の厳罰化が進んでいます。被害者のいる犯罪であり強姦罪とされていた頃から「魂の殺人」と呼ばれてきており重罪です。また、容易く許されることではありません。
万が一逮捕されてしまった場合、示談や謝罪文などで被害者の方へ誠意を見せ、被害者の方の心の傷を少しでも和らげることが求められます。何度も繰り返してしまう場合には、専門機関での治療を行う必要もあります。
中村国際刑事法律事務所では、更生の手助けになるような弁護活動を心がけています。