社会において、大学のサークルや合コン、職場、あるいはマッチングアプリなどの付き合いから、恋愛関係や性的関係に発展する機会は非常に多いです。性的な行為は密室で行われることが多く、当事者双方の認識や記憶がくいちがっているということは多々あります。
相手の同意を明確に確認せずに行為を行ったり、実際には同意がないのに、恐怖心や様々な事情から「同意しない」という意思を表示するいとまがなかったりするため、誰しもが性犯罪の当事者になる危険性を有しているのです。
当事務所でも、路上で見知らぬ女性を襲って逃げてしまい、いつ自分の元に警察が来るのか不安な方や、マッチングアプリで出会った女性にわいせつな行為をしたら、後日女性から警察に相談に行くとの連絡があったことから、ご相談に来る方は少なくありません。
その場合には、弁護士がご相談者様から事情を入念に聞き取り、様々な要素を総合的に考慮して、警察が立件する可能性や逮捕の可能性を判断します。そのうえで、警察が立件する可能性や逮捕の可能性が高い場合には出頭を勧め一緒に警察署に出頭することができます。逮捕回避の可能性を少しでも高めるためには、速やかに弁護士に相談することをお勧めします。
不同意わいせつとは
刑法の性犯罪の規定を見直す改正刑法が令和5年6月16日の参議院本会議で可決され、令和5年7月13日に、強制わいせつ罪の名称が不同意わいせつ罪に変更されました。
不同意わいせつ罪は、刑法176条に記載されています。
第176条
次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、6月以上10年以下の拘禁刑に処する。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。
3 16歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。
引用:e-GOV法令検索
不同意わいせつの刑罰とは
不同意わいせつ罪に該当するような行為を行い、事件として扱われた場合には、どのような刑罰が科されるのでしょうか。不同意わいせつ罪には罰金刑は規定されておらず、起訴された場合には必ず裁判になります。前述のとおり、不同意わいせつ罪で起訴された場合、6月以上10年以下の拘禁刑が科されます。
性犯罪は令和5年の法改正によって厳罰化され、不同意わいせつ罪に対する刑罰も、とても重いものとなっています。
なお、令和7年6月1日からは、懲役刑、禁固刑を一本化した拘禁刑が施行されることになっています。拘禁刑とは、受刑者の改善更生に重きを置いている刑罰であり、これにより更生にむけこれまでより柔軟に指導・教育を行うことができるようになります。刑務所内での指導・教育は、例えば特定犯罪に関する更生プログラムを受講したり、義務教育教科の勉強を行ったりするなど、出所後の社会復帰をスムーズに行えるように考えられています。もちろん、対象者は従来の懲役刑や禁錮刑とは変わらず刑務所に収監されます。
どのような行為が不同意わいせつ(旧強制わいせつ)になるか
不同意わいせつ罪の被害に遭った方が警察に被害を訴え出た場合、警察が一旦は被疑者を逮捕しないで在宅捜査を行うときと、逮捕して捜査を行うときがあります。
在宅捜査の場合には、警察による被疑者への電話連絡や、自宅で家宅捜索を行って任意同行の要請があり、その後も何度か取調べのため警察署に呼ばれることになります。
逮捕による捜査を受ける場合には、突然自宅に警察が来て逮捕されることが多いですが、在宅捜査の中で、何度か取調べを受けている途中にいきなり逮捕されることもあります。被疑者の立場からすると、警察から最初に連絡があった時点や、突然自宅に来た時点では、在宅捜査なのか逮捕されるのか判断することはできず、警察から逮捕の予定を教えてもらうこともできません。そのためどのタイミングであっても弁護士への相談は意味のあるものになるでしょう。
不同意わいせつ罪で逮捕される行為とは
では、どのような行為が不同意わいせつで逮捕される事案となるでしょうか。
不同意わいせつ罪で逮捕される事案は様々です。
いきなり背後から抱きついたり、おさえつけたりしてわいせつ行為に及ぶ場合や薬物や酒類を用いて相手方を抵抗不能状態にしてからわいせつ行為に及ぶ場合には、事案を重く見られ逮捕可能性が高まります。
他にも施術と称するなどして相手方を誤信させ、わいせつ行為をした場合にも逮捕可能性は高いでしょう。
不同意わいせつに該当する行為をし、同意の有無を証明できないような事案では、逮捕の可能性は比較的高くなっていると言えるでしょう。
最近は、駅や電車内での痴漢行為についても、事案により不同意わいせつで立件する動きも高まっています。もし、ご不安な事情がある場合は、なるべく早く弁護士に相談をすることが早期解決へとつながるでしょう。
不同意わいせつ(旧強制わいせつ)容疑で逮捕を防ぐ方法
警察から連絡があった場合には、事前に弁護士に相談の上、取調べの際に逮捕の回避を求める意見書を持参するなどして、弁護士が警察官を説得することで、逮捕を回避して在宅捜査で事件を進めることができる可能性があります。
また、既にご本人へ警察から電話等の連絡があった後に弊所への相談に至る事例もあります。
その場合には、弁護士が速やかに依頼人の弁護人となり、警察官に連絡を取るなどしてできる限り捜査状況の把握に努め、警察官と話をして在宅捜査のまま進めるよう説得します。
逮捕状による逮捕は、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由(逮捕の理由)と罪証隠滅、逃亡のおそれ等(逮捕の必要性)がある場合に認められます(刑事訴訟法199条)。不同意性交等罪や不同意わいせつ罪は、重大な犯罪であり、刑罰も重いことから、刑罰を恐れて逃亡する可能性が一般に高いとされています。また、被害者がいる犯罪ですから、被害者に対する働きかけや威迫等による罪証隠滅のおそれがある犯罪という扱いになります。このため、弁護人の活動を行っても身柄を拘束した上で捜査をする必要性が高いと判断され、逮捕される可能性が高い事案です。
逮捕後も、不同意わいせつ罪での勾留請求率は2022(令和4)年は97.9%となっており、逮捕されればほぼ勾留(後述)される事案と言えるでしょう。
逮捕前に弁護士にご相談いただくことで、逮捕された場合に速やかに身柄解放のための弁護活動を開始することができるので、あらかじめ弁護士へ相談することが有効です。たとえば、被疑者が定職に就いていて相当の収入がある場合、家庭を有する場合、日常生活について監督者を有する場合、任意での出頭要請に応じ取調べにも協力している場合、自首により犯行発覚に至った場合など、状況や事情によっては逮捕のリスクを少しでも小さくしたり、逮捕された場合にも勾留を回避するように働きかけをすることができます。
当事務所においても、上記のような事情を適切に伝えることで、逮捕を回避し在宅捜査のまま事件終結に至った事例もあります。
不同意わいせつ(旧強制わいせつ)罪で逮捕されるとどうなるか
事件後、もし逮捕された場合にはどうなるのでしょうか。
逮捕された場合、逮捕の翌日又は翌々日に検察庁に送致され、検察官の取調べ(弁解録取)を受けます。その際、検察官は、被疑者を10日間留置する勾留を裁判所に請求するかどうかを決定します。検察官が勾留請求しない場合には即日釈放されますが、不同意わいせつ罪等は重大事案であり、勾留請求されずに釈放される可能性は極めて低いです。
- 検察官が勾留請求すると、被疑者はその日か翌日に裁判所に行き、裁判官の勾留質問を受けます。
- 裁判官が勾留決定をした場合には、検察官の勾留請求日から数えて10日間、留置施設に留置されることになります。
- 裁判官が勾留請求を却下した場合には、被疑者は釈放されます。
- 勾留された後この勾留は、検察官は勾留が延長の請求を裁判所にすることができます。
- 勾留の延長が認められると、最大で更に10日間の身体拘束が続きます。
検察官は、最大20日間の勾留期間のうちに、被疑者を起訴するか不起訴にするかを決定しなければならず、その決定ができないときは被疑者を釈放しなければなりません。
このように、逮捕されるとそれだけで長期間勾留される可能性があります。勾留を避け、又は勾留されたとしてもできるだけ速やかに身体拘束を解きたい場合には、弁護士が身柄解放に向けた活動を行うことが必要です。検察官が被疑者を有罪にするだけの証拠が十分であると判断した場合には、原則として被疑者を起訴して刑事裁判にかけます。
その後、捜査が進み、検察官が被疑者を有罪にするだけの証拠が十分であると判断した場合には、原則として被疑者を起訴して刑事裁判にかけます。
不同意わいせつの事案において刑事裁判を避けるためには、被害者と示談をするなどして、不起訴が相当であると検察官を説得する必要があります。被疑者やその家族が自ら被害者と示談することは難しく、弁護士をとおした示談等、不起訴処分を得るための活動を行わなければなりません。
不同意わいせつ(旧強制わいせつ)で逮捕された場合の弁護活動
不同意わいせつ罪の捜査段階における弁護活動のポイントは、依頼人の身体拘束を避けること、身体拘束を受けた場合にはなるべく早く身体拘束を解くことと、前科を付けないため不起訴を目標とすることにあります。また、前科がつくことや身体拘束による不利益を避けるための活動も考えられるでしょう。
そのため、弁護人の弁護活動としては、大きく3つにわけられます。
- 身柄解放活動
- 示談交渉
- 前科がつくことや懲戒解雇等の不利益回避活動
①身柄解放活動とは
もし依頼人の方が逮捕された場合、弁護士は勾留を避けるために弁護活動を行います。具体的には、検察官に対しては勾留請求をしないように、裁判官に対しては勾留決定をしないように、説得するための意見書を提出し、時には面談や電話によって検察官や裁判官と話をします。勾留のためには、逃亡や罪証隠滅を疑うに足りる相当な理由が必要とされています。そのため、意見書の作成にあたっては、被疑者となった依頼人の方と今後に関する誓約書を準備したり、その家族に事情を説明したうえで今後の協力を依頼し、依頼人と家族と相談の上、適切な身元引受書を準備したりなど、逃亡や罪証隠滅の可能性が低いことを示す疎明資料を用意し、説得的な意見書を作成します。
勾留が決定されれば、長期間の身体拘束を余儀なくされ、学校を退学になったり職場を解雇されたりすることは珍しいことではありません。依頼を受けた弁護士が速やかに身柄解放のために活動することで、長期にわたる身体拘束を避け、そのような重大な不利益を避けられる可能性が高まります。
②示談交渉
不同意わいせつ罪において不起訴処分を獲得するために最も重要なのは、被害者とされている相手方と示談をすることです。
不同意わいせつ罪の保護法益(刑法が犯罪を法定することで守られる利益)は、被害者の性的自由とされています。
性的自由は、被害者個人に帰属する利益ですから、その被害者自身が被疑者の謝罪や被害弁償を受け入れて示談し、被疑者の刑事処罰を望まないと合意に至った場合には、不起訴となる可能性が高いとされています。
しかしながら、不同意わいせつ罪の被疑者やその家族が、被害者とされる相手方と直接交渉することは拒否されることが多く、原則としてできません。依頼を受けた弁護士であれば、検察官を通じて被害者の連絡先を把握し、被害者と連絡を取って面談し、示談交渉を行うことができます。被疑者への真摯な謝意や反省を伝え、丁寧に交渉を行います。
被害者と接触することができれば、示談交渉を進めて不起訴処分を獲得して前科を避けられる可能性が高まります。
③前科がつくことや懲戒解雇等の不利益を回避すること
刑事事件の被疑者となってしまった場合、勤務先から退職勧奨や懲戒解雇を受けるリスクが高くなります。
逮捕・勾留により長期間の欠勤を余儀なくされた場合や、起訴されて前科がついてしまった場合には、懲戒処分が法的に許容される場合も少なくありません。
刑事事件の弁護人が取り得る活動としては、依頼人の許可を得た上で、勤務先の担当者に対して刑事手続の状況を真摯に説明し、逮捕・勾留中の場合には示談交渉の進展等によって速やかな身柄解放や不起訴の可能性があることや、不起訴処分となった場合には前科が付かず元通りの生活ができることを伝え、依頼人に対する寛大な措置を丁寧に申し入れることになります。
無罪推定の原則のもと、逮捕・勾留されたからといって犯罪事実が実際にあったというわけではありませんから、そのことを率直に勤務先に伝え、安易な懲戒処分を避けるよう説得することも考えられます。
医師や公務員の有資格者は、資格のはく奪の可能性も
医師や公務員など、国家資格を有する仕事をしている方が不同意わいせつ罪で処罰されると、その資格に関する法律の定めに従って懲戒処分を受ける可能性があります。
例えば、医師については、医師法7条1項、4条3号により、罰金以上の刑に処せられた場合には戒告、3年以上の医業の停止または免許の取消しの処分を受ける可能性があります。
国家公務員の場合には、実刑に処せられると資格を失い失職することとなり、執行猶予が付いたとしても執行猶予期間が満了するまで資格を失います(国家公務員法38条)。罰金刑であったとしても、「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合(同82条)」に該当するとして免職、停職、減給又は戒告の処分を受ける可能性があります。
このように、国家資格を有する方に前科が付くと、懲戒処分によって大きな不利益を受ける可能性があります。そのような不利益を避けるためにも、早期の不起訴処分を獲得するために弁護士の力が必要です。
不同意わいせつ事案の解決実績
当事務所で、不同意わいせつ事案に関する弁護活動の結果、不起訴や執行猶予となった事例を紹介します。
まとめ
以上、不同意わいせつ罪について解説してきました。
不同意わいせつ罪を疑われた場合に、長期の身体拘束や前科がつくことを避けるためには、弁護士による速やかな弁護活動が必要不可欠になります。
当事務所では、身体拘束の回避や、示談の成立を目指して活動します。捜査段階で上記のような弁護活動をしてもらえなかったため、起訴された段階で弁護士を変更したいというご相談を受けることもあります。まずは不同意わいせつ事件を多く扱っている弁護士にご相談ください。