住居侵入罪の刑罰や逮捕の可能性を弁護士が解説
住居侵入罪の初犯はどのように処罰されてしまうのでしょうか。初犯であっても警察に逮捕されてしまうのでしょうか。住居侵入罪の前科がある場合や他の前科がある場合は初犯と処罰が変わるのかについて、弁護士・坂本一誠が解説いたします。
住居侵入とは
住居侵入罪とは、刑法130条に規定されています。法定刑は3年以下の懲役又は10万円以下の罰金です。
刑法第130条
正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
住居侵入罪における「住居」とは、人が寝たり起きたりの日常生活を送る場所のことを指します。「邸宅」とは人の居住用に建てられた建物とその囲繞地を指すとされています。
「建造物」とは、上記「住宅」と「邸宅」を除く建物が広く該当します。
これらの建物に「侵入」つまりは、居住者や管理者の意思に反して、「正当な理由なく」立ち入ると住居侵入罪が成立します。
住居侵入は初犯でも逮捕されるか
住居侵入罪は初犯といえども逮捕される可能性は十分にあります。
住居侵入罪は現行犯で逮捕されることが多く、臨場した警察官にそのまま逮捕されるケースが多い犯罪です。現行犯で逮捕されなかった場合であっても、防犯カメラ映像などから犯人が特定されれば、後日逮捕される可能性はあります。
初犯だけのデータではありませんが、令和3年犯罪白書(刑法犯罪種別認知・検挙人員 対前年比較第1表)のデータを見てみると、警察が認知した住居侵入の件数9780件に対して、検挙件数は5678件。58.1%の割合で犯人が特定され、警察に検挙されています。
また、同資料(2-2-3-2表 検察庁既済事件の身柄状況)によると、令和3年に住居侵入罪で検察庁が処分を下した6369人の内3007人が逮捕(逮捕後釈放は内428人)されていて、約50%の割合で逮捕(逮捕後釈放も含む)されていることとなっています。
初犯でも余罪がある場合は?
余罪がある場合には、逮捕の可能性はより高くなってしまいます。例えば、同じ地域で何件も同種手口の住居侵入・窃盗事案が起きていて、被害届が複数出されているような場合には、1件あたりの被害額が多額でなくとも警察は重い事件と捉え、被疑者が特定できれば逮捕に踏み切ることが多いです。
余罪に心当たりのある事件の場合には、捜査機関の取調べで余罪についてどこまで供述するかの判断が非常に重要になってきます。弁護士に相談したうえで適切な判断をすることが必要です。
侵入の意思がなくても逮捕されるのか?
私有地だと気付かぬうちに他人の所有・管理する土地に入ってしまい、犯罪目的での侵入と誤解されて立件されるような事案もあります。
犯罪の成立には故意、つまりその犯罪に該当する客観的事実を行為者が認識・認容していることが必要です。住居侵入罪が成立するには、他人の住居に正当な理由なく侵入した事実を行為者が認識していることが必要なのです。
そのため、私有地だと気付きにくいような外観の場所で、全く気付かず他人の土地に入ってしまった場合、理論的には住居侵入罪は成立しません。しかしながら、住居侵入罪が成立する疑いがあれば捜査機関が逮捕する可能性はありますので、本人としてはそのつもりがなくても、他人の土地にいるところを管理者に見つかり現行犯逮捕される可能性は否定できません。
住居侵入が発覚する方法とは
目撃者や居住者が通報したという場合に発覚します。目撃者がいない空き巣などの場合でも被害届の受理を受けて警察が捜査し、現代社会において広く普及した防犯カメラの映像などから犯人が特定されるという場合もあります。また、盗撮目的で女子トイレ内に隠しカメラを設置して、それを回収する前にカメラが発見されて後日警察に届けられて発覚するという場合もあります。
住居侵入罪に付随して処罰される罪
住居侵入罪は他の犯罪とあわせて処罰されることが多い罪です。なぜなら、窃盗目的で住居に侵入して宝石を盗んだ事案や、のぞき見や盗撮をするために塀にのぼり、中を盗撮した事案など、何らかの犯罪を行う目的をもって住居に侵入をすることが多いためです。
のぞきであれば、軽犯罪法の窃視の罪(軽犯罪法1条23号)にあたり、盗撮であれば、各都道府県が定める迷惑行為防止条例違反にあたります。また、宝石を盗んだのであれば窃盗罪(刑法235条)があわせて成立します。
このように住居侵入という手段を用いて窃盗という目的を遂げた(結果)場合、すなわち罪とある罪が目的、手段の関係にある場合を牽連犯といいます(刑法54条1項)。
牽連犯の場合、それぞれの罪を比較してより重い方の刑罰が科せられます。
たとえば、窃盗罪と住居侵入罪が目的手段の関係にある場合、住居侵入罪の刑は3年以下の懲役又は10万円以下の罰金ですが、窃盗罪の刑罰は10年以下の懲役または50万円以下の罰金ですから、窃盗罪を基準に刑が科せられます。
住居侵入の初犯で前科を回避する弁護活動
前科を回避するためには不起訴になる必要がありますが、不起訴処分を行う場合には、基本的に嫌疑不十分を理由とする場合と、起訴猶予を理由とする場合の2種類があります。
嫌疑不十分とは、検察官が必要な捜査を遂げた結果、被疑者を有罪とするには合理的な疑いがあり、有罪の疑いが不十分であると検察官が判断した場合を意味します。この場合、公訴を提起したとしても無罪となる可能性があるため、検察官は嫌疑不十分を理由に不起訴処分とします。
起訴猶予とは、被疑者が罪を犯したことが証拠上明白であっても、被疑者の性格、年齢、境遇、犯罪の軽重と情状、犯罪後の情況により訴追を必要としないと検察官が判断する場合に、起訴を猶予して不起訴とすることです。
その他に、事件を立件しないとし、検察官への送致をしない場合の微罪処分という処分もあります。
例えば、窃盗を起こしてしまったが、金額が大きくなく、事案として軽微なものや初犯の場合には、微罪処分となることがあります。この場合も前科にはならず、警察に捜査をされたという前歴が付くことになります。
身柄解放活動
もし、逮捕されてしまった場合には、身柄解放活動が必要です。
勾留が決定してしまうと、警察は48時間以内に被疑者を検察に送致し、検察は24時間以内に勾留請求を裁判所にするか釈放するかを決めなければなりません。検察官が勾留を請求し、裁判所が許可すると10日間の勾留が決定します。検察官は更に10日間の勾留の延長を請求することができ、勾留の最終日(満期)までに被疑者を起訴するか不起訴にするか、それとも起訴不起訴の決定を保留して釈放するかを決めることになります。最大23日間の身柄拘束がされてしまいます。
これを回避するためには、検察官や勾留請求をするかどうか判断する際、また裁判官が勾留決定をするかどうか判断する際に、弁護人から意見書を提出して、勾留の必要性がないことを訴える必要があります。被疑者の誓約書や、親族の身元引受書を添付して、逃亡や証拠隠滅の可能性がないことを説明します。そうすることで、身柄拘束が短期間で済み、社会生活への影響を小さくとどめることが可能となるのです。
示談交渉
逮捕の如何に関わらず、住居侵入事件の場合は、当該建物を管理する人物との示談交渉が不起訴処分を獲得するのに必要不可欠となります。逮捕・勾留された場合には、本人が示談交渉をすることは不可能です。また、逮捕されていない状況や勾留されず釈放された場合であってもご自身での交渉は、恐怖心から被害者が拒んでしまったり、被害者感情を逆撫でしてしまったりする可能性もあります。
交渉のプロである弁護士を通じて示談交渉を行うことで早期の対応が可能となり、不起訴処分になる可能性も高くなります。なぜ、早期の示談が必要かというと、最大23日間勾留された後に検察官が起訴・不起訴を決めなければならないという事情があります。起訴前に示談が成立したとなれば、被害回復がされているため、不起訴処分になる可能性が高まるので、早期の示談が必要なのです。
もっとも、先ほど述べたとおり、住居侵入罪等は他の犯罪の手段となっていることが通常であり、建物の管理権者とその本体の犯罪の被害者が異なる場合には、建物の管理権者からまず本体となる犯罪の被害者と示談することが多いです。
例えば、職場の女子トイレに侵入して盗撮した場合、女子トイレを含む当該建物の管理権者は勤務する会社であることが多いですが、会社と示談をする前に、まず盗撮の被害に遭った女性と示談をします。それは、当該侵入について、会社自体は財産的な損害を被っていない一方、このような事案で会社が安易に侵入者と示談した場合には、被害に遭った女性社員に留まらず他の女性社員等から不信感を買い、会社の適切な業務が滞ってしまう可能性があるからです。また、会社としても、被害女性に対する職場環境の安全配慮義務も気になるところです。
よって、住居侵入罪が成立する場合には、単純に当該建物の管理者とだけ示談すれば良いとならないのが通常です。実際に発生した事案について、いつ誰と示談すべきかについて、弁護士に相談してみるのが良いでしょう。
実際の示談交渉は、ほかの犯罪の場合と同様の姿勢、手法で進めていきますが、誠意ある謝罪と精神的苦痛等への被害回復の措置が中心となります。特に、住居侵入等は、路上での傷害事件や電車内での痴漢等のほかの犯罪と異なり、被害者の住居が犯人に知られてしまっています。被害者は報復や再犯をとても恐れているのです。当然のことです。そこで、示談交渉の中では、被害者の求めに応じて引っ越し費用を要求されるケースが多く、示談金は、戸外での盗撮等と異なり、高額になりがちです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。示談ができれば不起訴処分になる可能性の高い犯罪ですが、住居侵入事件は他の犯罪とあわせて処罰されることが多く、初犯であるからといって必ずしも不起訴処分になるものではありません。できるだけ逮捕勾留を避けたい、前科をつけたくないというのであれば、早期に弁護士に相談することが必要です。
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