夜遅くにタクシーを利用する際、ストレスや酒が影響し、ついタクシー運転手とトラブルを起こしてしまったという経験がある方もいるかもしれません。
このような場合でも、暴行等の刑事事件として扱われることがあります。
タクシー運転手への暴行等の事件で逮捕された場合や、記憶にないものの警察から連絡が来たという場合にはどうすれば良いかなど、タクシー運転手への暴行事件について、加害者の立場からの弁護ポイントや解決策を、弁護士・坂本一誠が詳しく解説いたします。
タクシー運転手への暴行等はどうなるか弁護士が解説
お酒に酔った帰りにタクシーを利用し、運転手と目的地や経路についてコミュニケーションに齟齬が生じたり、車内で寝たり嘔吐したりしてトラブルになるなどして、タクシー運転手に対して手が出てしまったり、タクシー代金を踏み倒したりという事案が珍しくありません。
こうしたタクシー運転手に対する事件では、乗客の側がお酒の影響で当時の記憶がない場合も多く、後になって警察が突然自宅に来て逮捕されたことで発覚するような場合もありますので、注意が必要です。「酔って覚えていない」だけでは弁解することは難しいので、気が付いたらトラブルになってしまっていた場合には、すぐに弁護士に相談することをお勧めします。
タクシー運転手に対する暴行と傷害
タクシー運転手に対し、殴る・蹴る・叩くなどの暴力を振るった場合、暴行罪(刑法208条)が成立します。
直接的にタクシー運転手に与えた暴行行為だけではなく、運転席を蹴ることやタクシーの備品を叩いたりする行為で運転手への間接的な被害を与えてしまった場合に関しても暴行罪に該当する可能性があります。
また、暴行を与えた際に相手が怪我をしてしまった場合には傷害罪(刑法204条)が成立します。
刑法第208条(暴行)
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処す。刑法第204条(傷害)
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
タクシー車両に対する器物損壊
タクシーの車両自体を殴る、蹴るなどして車両をへこませる行為や、ミラーが破損するといった損害を与えた場合、タクシーの車両内で暴れて車内を破損させるような場合には、器物損壊罪(261条)が成立します。
刑法第261条(器物損壊)
他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。
タクシー運転手に対する脅迫
大抵の場合に、無言で殴る人は少なく、口論になった後に手が出てしまうと言ったケースが多いです。
言動によっては脅迫罪が成立する可能性もあります。こうした言動は、言った本人よりも言われた側はよく覚えています。特に、タクシーに乗車した際のトラブルでは、運転手が素面である一方で乗客はかなり酔っているという事例が多いです。そのため、当時の発言を思いだせる限り思いだし弁護士と共有することが弁護活動には必要です。
では、具体的にどのような発言が脅迫に該当するのでしょうか。「殺すぞ」や「痛い目に合わせてやる」といった生命や身体に対する害悪の告知が脅迫罪に該当します。タクシー運転手本人だけでなく、運転手の家族や所属会社に対して害悪を告知する場合も脅迫罪に該当します。
刑法第222条(脅迫)
生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
タクシー運転手に対する強盗
強盗というと、人の家に侵入し、家人を脅して金品を盗んだり、夜道に一人でいる人を襲って金品を盗んだりするというように、極めて悪質な犯罪という印象があるのではないでしょうか。
もっともタクシーに乗車した際のトラブルでは、思いもよらずに強盗罪や強盗致傷罪を疑われて任意で警察の捜査を受けたり、逮捕されたりすることが少なくありません。暴行や脅迫を用いて、タクシーの売上金を持ち去ろうとした場合には当然強盗罪が成立します。
しかし、そのような場合だけでなく、目的地や経路が伝えたとおりではないなどの理由から運転手とトラブルになり、その際に思わず手が出てしまったり強い言葉で怒鳴ってしまったりし、その末にタクシー料金を払わずにその場を立ち去ってしまうと、暴行や脅迫を用いてタクシー料金を免れた疑いがあるということで強盗罪で逮捕される事案が非常に多いです(いわゆる強盗利得罪、刑法236条2項)。
更に、その際に運転手に怪我をさせたとなれば、強盗致傷罪(刑法240条)で逮捕されることも珍しくないです。強盗致傷罪は、無期または6年以上の有期懲役という極めて重い法定刑が定められており、起訴されれば裁判員裁判として裁判が実施される重大な罪です。社会の中で普段は平穏に暮らしている一般の方が、お酒の影響で起きたタクシー内のトラブルでこのような重大犯罪を疑われ、社会的地位を失うというのは非常に残念なことです。
万が一そのようなトラブルを起こしてしまったときや、家族がタクシーに関するトラブルで逮捕された場合には、速やかに弁護士に相談することが大切です。
刑法第236条(強盗)
暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。刑法第240条(強盗致死傷)
強盗が、人を負傷させたときは無期または6年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑または無期懲役に処する。
タクシー運転手への暴行等で逮捕されたら
ここまで、どのような犯罪に該当するかを紹介してきました。実際、タクシーの運転手への暴行事件で逮捕される場合、どのように事件が進んでいくのかをご紹介します。
現行犯逮捕される場合
この手の事件では、トラブルとなった時点で警察を呼ばれ、その場で現行犯逮捕されることが多いです。加害者は酒に酔っていたりするので、当事者が通報せずとも現場に居合わせた第三者の通報により、警察が仲裁に入ることも考えられます。
現行犯逮捕された場合、容疑を認めていれば勾留されることなく、注意で終了する場合もありますが、犯行が悪質な場合や容疑を否認している場合には勾留される可能性が高まります。
強盗罪や強盗致傷罪など、法定刑の重い罪名で逮捕された場合には、罪を認めていたとしても勾留されてしまうことが非常に多いです。もちろんやっていないのに認める必要はありませんが、酔っていて覚えていない等といった弁解を続けると勾留されることになり、10日間(最大20日間)警察署内で留置されてしまいます。
後日逮捕(通常逮捕)される場合
現場から逃走するなどし、その場を離れてしまった場合でも、身元を特定され後日(通常)逮捕されることもあります。タクシーの運転手に対する刑事事件では、車内の様子がドライブレコーダーで撮影されていることが多く客観的な証拠が存在するため、後日に逮捕することが容易なケースがほとんどです。
事件が悪質な場合や、任意の呼び出しに応じない場合、強盗事件の場合には、後日に逮捕される可能性は高くなるでしょう。
タクシーのドライブレコーダーや、乗車した場所付近の防犯カメラ、タクシーを呼んだ飲食店などから辿り加害者を絞り込みます。また、タクシー会社の配送状況を確認すれば、電話番号が特定でき、加害者の身元を特定することが可能です。近年の防犯カメラでの身元の特定は容易なため、突然、自宅に令状をもった警察官が現れて、後日逮捕にいたる可能性は十分にあります。
緊急逮捕される場合
緊急逮捕とは、逮捕状なしに身柄を拘束することができる刑事手続きです。暴行や傷害の事件では緊急逮捕手続きはできませんが、強盗罪の場合には可能となります。
例えば、現場でタクシーの売上金を持ち逃げした後、付近を捜索していた警察官や検問に呼び止められ緊急逮捕にいたる場合もあります。
このように逮捕された場合には、警察署での取調べが行われ、48時間以内に検察官へ送致されます。検察官は、24時間以内に引き続き10日間の身体拘束(勾留)をすべきか、釈放すべきかを判断します。勾留が必要と判断された場合、裁判所により勾留を認めるか否かの判断がされます。
勾留期間は延長することができ、延長期間を併せると最大20日間の身体拘束が認められることもあります。この間に検察官は証拠を検討し、起訴または不起訴の決定を行います。
起訴もしくは不起訴の判断がでるまでの間に適切な弁護活動や被害者への謝罪が、刑の軽減や不起訴に繋がる場合もあります。
タクシー運転手への暴行事件で酔って記憶がない場合
「飲み会の帰りに、なんとかタクシーに乗ったが、それ以降のことは覚えていない。何をしてしまったか思いだせないが、警察署にいた」という相談もあります。酔っていて記憶がない場合には責任能力が問題となります。
しかし、酒に酔っていてもタクシーで行先を伝えていることや正常に運転手と会話(意味のある話)ができていれば責任能力が問題となることはほとんどありません。
前述しましたが、酔って覚えていなくとも、被害者は言われたことやされたことを覚えています。また、車載カメラから犯行を裏付けられますし、言動等も録画されていれば、責任能力が認められる証拠となります。仮に車外での出来事としても目撃者の証言から裏付けを取ることも可能です。基本的に、酔っていて記憶がないので、無罪放免してほしいという弁解は通らないでしょう。
ここで酔っていたことを理由に否認を続けてしまうと本当に反省しているのかを疑われることになり、今後の示談交渉にも影響がでます。真摯に謝罪する姿勢が見られれば許したのにという意識の被害者が多いことも事実です。お酒の影響で当時の記憶がない場合に、捜査機関の取調べに対してどのように対応するのかについては、弁護士と相談して慎重に決定することが大切です。
タクシー運転手への暴行等における弁護活動
タクシー運転手への暴行事件では、逮捕された場合の身柄解放活動やタクシー運転手との示談交渉、他にも警察の取調べに対するアドバイスや書面の作成等の弁護活動が予想されます。事件の内容によって活動は様々ですが、少なくとも暴行・傷害事件として扱われている場合には、示談交渉の前に、謝罪のための謝罪文と示談金を準備します。謝罪文の形式やニュアンスについては専門家である弁護士のアドバイスを受けた方がいいでしょう。
逮捕され、身柄を拘束された場合に示談交渉を本人で行うことはできません。また、逮捕されていなくとも、けがをさせた被害者に対し、本人が直接示談交渉をすることは難しいでしょう。なぜなら、被害者は被疑者へ連絡先を教えたくないでしょうし、被疑者にもう一度会いたいと考える人はいないでしょう。そのため、直接の交渉を避け、被害者に示談交渉に応じていただくためにも弁護士に依頼することが必要となります。
逮捕前に示談を行うことで逮捕を回避する事情にもなります。また、逮捕されていても示談を締結することができれば、早期釈放や不起訴処分を獲得できる可能性が高まります。
このような突発的な事件では、土日や休日前に事件が起きることが多いため、休日でも迅速に対応してもらえる弁護士を探すことが必要となります。当事務所では、土日・祝日でも相談受付を行っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
タクシー運転手への暴行等における示談交渉
示談交渉の手順としては、謝罪のための謝罪文と示談金を用意し、警察や検察官を通じ被害者とコンタクトを取り、交渉の場を取り付け、示談交渉に挑みます。
前述したとおり、示談を締結することによって早期釈放や不起訴処分の獲得できる可能性が高まります。示談金相場を聞かれることが多いですが、示談金に相場というものは存在しません。
今回のように、タクシー運転手への暴行については、タクシー運転手と示談交渉を行いますが、タクシー車両への器物損壊罪も問題となる場合には、タクシー会社と運転手双方との示談交渉も必要となります。そのため、弁護士が仲介者となり、適正な内容での示談締結のために交渉をすることが重要です。また、示談を締結したことを捜査機関へ早期に伝え、身柄解放を促すと言った弁護活動を行います。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回はタクシー運転手とのトラブルについて紹介しました。たまにハメを外して出先でお酒を飲んだ際に、このように酔った状態でトラブルを起こしてしまったという事案が増えてきています。事件を起こしてしまった場合でも、早期に弁護士に相談することで、逮捕や前科などの不利益を受けるリスクを下げることができます。是非とも速やかに弁護士にご相談ください。