捜査状況に応じ完全否認はせず示談交渉に繋げて不起訴
酩酊による痴漢事例をご紹介いたします。被疑者が酩酊状態で路上を歩行中に女性の臀部を触ったという事案で、身柄解放活動や示談交渉といった弁護活動の結果、不起訴処分を獲得しました。
事案の内容は、酒に酔った被疑者が、路上を歩行中に、女性の臀部を触ったところを現行犯逮捕され、身柄を拘束されました。被疑者は、飲酒により記憶が欠如しており、被疑事実について否認しておりました。
事件の概要が不透明であったので、担当検察官と直接面談し、被害者への取次とあわせて証拠関係、犯行態様等の事実関係について聴取しました。意見書の提出や電話面談により勾留請求を回避、被疑者の身柄解放に至りました。
被疑者は、明確な記憶は喚起されなかったものの、被害者が虚偽申告をすることはなく、記憶がないことを理由に否認せず、示談交渉を進める方針で弁護活動をしました。
被疑者が相当程度飲酒していたことは明らかであり、被害者に対し、犯行当時の明確な記憶はないこと、被害者の特定に至る情報は一切知らないことを表明し、宥恕を得て示談が成立。
不起訴処分に至りました。
事件のポイント
痴漢でも傷害でも酩酊事案の特色は、容疑者が犯行時の状況を覚えてないことがあるということです。
「記憶にありません」は即ち容疑の否認になるので、身柄拘束されてしまう可能性が高くなるのみならず、否認では被害者も示談交渉のテーブルにつきません。
身柄拘束を回避するには情報収集が必須です。
警察や検事に当時の状況を聞き、それら情報を総合し、本人は酔って覚えてないものの、犯行が間違いない場合には、黙秘や完全否認をするのではなく、覚えてないが、被害者がそう話しているのであれば積極的に争わないという姿勢を示すのです。それにより、示談交渉が可能となるからです。
ただ、注意すべきは酩酊には病的酩酊という、責任能力に影響あるケースがあり、それを頭に入れつつ弁護方針を判断すべきです。
本件は、特に病的酩酊の可能性のない事案でしたので、争わずに示談を成立させた、いわば、実を取ったケースでした。
執筆者: 代表弁護士 中村勉