明確適格な弁護活動・主張で執行猶予獲得
依頼者が前日に飲んだアルコールが抜け切っていない状態で自動車を運転し、かつ、湾曲道路を適宜減速することなく時速80kmで進行した結果、自動車を立木に衝突させ、同乗者に傷害を負わせたという道路交通法違反(酒気帯び運転)、過失運転致傷の事案です。
本件は起訴後に当事務所に相談があり、受任しました。
検察官の請求証拠では、依頼者が確定的故意をもって酒気帯び運転をしたかのような記載が見られました。
上記の点は被告人の認識と異なるため、上記記載は不同意とし、被告人質問において未必の故意にすぎないことを引き出しました。
なお、被害者は被告人の友人であり、処罰感情が皆無であったため、被害者に嘆願書の作成をお願いしました。
上記活動の結果、判決においては「弁護人の主張するとおり、被告人が酒気帯び運転について確定的故意を有していたとまでは認められない」として未必の故意にとどまると認定されました。
公判においては、被害者作成の嘆願書のみならず、被告人の任意保険から被害者に対して保険料が支払われていることを示す通知書等も証拠調べ請求し、被害者が負った傷害に対する損害賠償が尽くされていることも主張しました。
そのほか、被告人が本件を理由に長年勤めていた会社を退職せざるを得なくなり、社会的制裁を十分に受けていること、被告人の反省悔悟の情が顕著で、被告人の妻においても被告人の監督を誓約しており被告人に再犯のおそれがないこと等も主張しました。
結果として、執行猶予付きの判決を獲得することができました。
事件のポイント
前日飲んだアルコールが客観的には体内に残っていたとしても、被疑者にその認識が全くないのであれば、酒気帯び運転の故意がありませんから、不可罰です。
この罪の故意とは、体内にアルコールを保有していることを知りながら運転することであり、これを「確定的故意」といいますが、「もしかしたら体内にアルコールが残っているかも知れないが、それでもいいから運転してしまおう」という程度の内心でも、酒気帯び運転の罪が成立するとされており、これを「未必的故意」といいます。
したがって、未必的故意でもこの罪が成立する点については、確定的故意と変わるところはありません。
しかしながら、弁護人は、本件においては、故意自体を否定できないとしても、未必的故意の方が確定的故意より犯情において有利との点に目をつけ、被告人質問等で本件が未必的故意によるものであるとの事情を引き出し、さらに、被害者である同乗者の宥恕、損害賠償の状況、被告人への社会的制裁、今後の監督その他被告人に有利な情状をも余すことなく主張し、執行猶予付き判決を獲得した成功事例です。