ひき逃げで再犯防止策を整え執行猶予を獲得した事案
自動車を運転するに際し、①進路前方に赤色信号待ちのため停止していた自動車の車列を発見して減速を開始したものの、考えごとをしていたため、停止することなくそのまま時速約20キロメートルで進行し、車両約3台の玉突き事故を発生させて2人に頸椎捻挫などの傷害を負わせ、②自らの運転に起因して人身事故を発生させたのに、自動車から降りてけが人の有無を確認したものの、110番通報、119番通報をするなどして救護、報告をしなかったというひき逃げ(過失運転致傷、道路交通法違反)事案です。
本件は、依頼者が公判請求に至った後に当事務所にご依頼いただいた事案です。
すでに保険会社を通じて一定の被害弁償がなされていましたが、受任時点で被害弁償が未了の点がありました。そこで、弁護人は保険会社や依頼者に対して、被害弁償未了の点について精査して、受任後、全ての損害について賠償が完了するに至りました。
本件はひき逃げ事件であることから、運転免許証の取消処分が予想され、これまでに複数の交通違反歴があったことから、道路交通法規に対する意識改革、無免許運転の防止や再犯防止策を検討する必要がありました。また、本件は依頼者が仕事の一環として自動車を運転していた際になされたものでしたので、仕事中に自動車を使用しなくとも良いように職場の理解を得ようとしました。
受任後、依頼者に対して自動車の売却を勧め、勤務先の上司に情状証人として出廷していただき、業務中に社用車を運転させないこと、業務に自動車が必要ないことなどを証言していただきました。
裁判所は、複数の交通違反歴や異種服役歴を認めながらも、自動車運転に関する意識改革や再犯防止策が整えられていることなどの有利な事情を考慮して執行猶予付きの判決となりました。
事件のポイント
自動車事故は誰もが被害者そして加害者になり得る犯罪類型です。ただ、誰もが事故後にその場から逃走するかというと、そうではありません。
もちろん気が動転してるでしょうし、冷静な判断が出来ないこともあるかもしれませんが、その場から逃走すれば被害者に命の危険を与えてしまいます。
ですから、実刑判決となる可能性は低くはありません。
本件は救護措置はせず、報告義務違反もある事案でしたが、事故直後に被害者に声をかけたという一点が救いとなった猶予ギリギリの事案です。
執筆者: 代表弁護士 中村勉