徹底して責任能力を争い大幅な減軽を獲得
母親が娘を包丁で複数回刺して殺害したという殺人事件です。
本人は娘を殺害後、自身の首や腕を切って自殺未遂を図り、数週間の入院後、逮捕されました。
母親は複数の精神科への通院歴があり、夫と結婚と離婚を繰り返しているものの、母親が主として被害者の養育を担当しており、殺害するような動機はうかがえませんでした。
そのため精神障害の影響が疑われ、責任能力が争点となりました。
検察官が起訴前嘱託鑑定を実施したものの、鑑定医の情報を貰うことができなかったため、黙秘するよう対応しました。起訴後、50条鑑定を請求して採用させ、責任能力を争うことを目指しました。
また、逮捕前の入院中に自傷他害防止のため手足を拘束された状態で、筆談で取調べを余儀なくされたことから、その際に作成された上申書の任意性を争いました。
結果として、求刑12年に対して心身耗弱で懲役4年(未決470日)の判決となりました。
50条鑑定の結果提出された鑑定メモの記載ぶりからは、心身耗弱すら可能性が低いものでした。
そこで弁護士は私的に別の精神科医に意見書の作成を依頼し、同医師を証人請求するとともに、意見書を50条鑑定医に鑑定資料として提出しました。
私的鑑定医の証人請求は却下されましたが、50条鑑定医は私的鑑定医の意見も踏まえて心身耗弱の可能性を残す意見を述べることとなり、公判では心身耗弱が採用され懲役4年の判決となりました。
検察官は完全責任能力との立場であったため、12年の求刑をしましたが大幅に減軽されました。