外国人による短期間の再犯に関わらず専門的着眼点で一部執行猶予獲得
覚せい剤取締法違反の事例をご紹介します。
外国籍の依頼者が、同罪の執行猶予明け1か月程度で再犯に及び起訴され、最終的に、判決は懲役1年4か月、内4か月については2年間執行猶予(実質懲役1年)という結果となりました。
事案の内容と弁護活動
外国籍である依頼者が、同罪前件の執行猶予明け1か月程度で再犯に及び、起訴されたものでした。
弁護人は裁判までの間に、薬物依存治療に関する書籍を読み、依存症治療への意欲があることをアピールし、刑の一部執行猶予を得ることを目標としました。
依頼者に対しては、薬物依存症治療に関するワークブックを差し入れて書き込みをしてもらうとともに、書籍を通じて学んだことについて、徹底的に弁護人と議論し、被告人質問の準備をしました。
覚せい剤自己使用の認め事件の場合、公判は通常60分で設定されることが多いのですが、ワークブックを通じて学習した結果を依頼者に語ってもらうには相応の時間が必要であったため、被告人質問の時間は30分確保し、公判の時間も90分としてもらいました。
公判において、依頼者は、自分は薬物依存症ではなく、強い気持ちを持てば薬物を止められると思っていたようですが、ワークブックを読んで、自分は依存症であると気づいたこと、自分が覚せい剤を使いたくなる状況を分析し、対処法を考えたこと等を語ることができました。
弁論においては、依存症治療を受けたいとの依頼者の意欲は強いこと、依頼者は外国籍であって刑務所出所後は強制退去の可能性もありますが、一部執行猶予の可否を判断するに当たって退去強制の可能性を考慮すべきではないことを、過去の一部執行猶予に関する統計等を根拠に主張しました。
判決は懲役1年4か月、内4か月については2年間執行猶予(実質懲役1年)というものとなりました。
事件のポイント
執行猶予が明けたからと言って再び執行猶予がつくわけではなく、一般的には執行猶予明け10年ほど経った事案では初犯に準じて執行猶予となることが多いです。執行猶予明け5年後の再犯で五分五分といったところです。
本件は執行猶予明け1か月ほどしか経っていないのに再犯となった事案で、本来なら当然全部実刑で、一部執行猶予もまず付かない事案と言えます。
しかし、逆に言うとそれだけ薬物への依存性が強く、治療の必要性が高いということであって、そこに着目して一部執行猶予を狙い、十分な被告人質問時間も確保して一部執行猶予判決を獲得した事案です。
外国人案件では、どうせ強制退去になるのだから治療機会の付与は必要ないと考えがちであるところ、人道的見地から将来の強制退去が一部執行猶予付与の消極的事由にはならないと堂々と論じたもので、実務の参考になります。
執筆者: 代表弁護士 中村勉