宥恕を得た示談成立で執行猶予
金属製錬工場で金属のトラック運搬をしていた依頼者が、同工場勤務の共犯者と共同して約1年にわたり、時価合計1,000万円程度の金属を盗んでいたところ、ある日、別の金属を盗んでいたところで現行犯逮捕されたという窃盗事例です。正式起訴後に相談があり、受任いたしました。
法律上の問題点は特になく、受任後、弁護人は速やかに被害会社の代理人弁護士に連絡しました。被害会社の認識では、事前に依頼者から聞いていたよりもはるかに高額な被害金額であることが判明しました。
しかし、その計算過程を書面で送付してもらったところ、依頼者が窃盗事件を起こし始めた時期よりも約1年前から被害に遭っていることになっている内容であったことから、依頼者の認識と大きく齟齬がありました。
そこで、被害会社代理人弁護士に対し、依頼者の認識する事件を起こし始めた時期を説明したうえで、依頼者の認識する被害金額をベースに示談を検討していただきたいと交渉しました。
また、共犯者がもう1人いることを考慮してもらい、依頼者の認識する被害金額の概ね半額で示談していただきたく、その金額であれば速やかに被害弁償できることも伝えました。
その結果、依頼者が認識する被害金額の概ね半額の金額で示談を成立させ、宥恕を得ることにも成功し、執行猶予判決を得ることができました。
事件のポイント
本件は窃盗事件の中でも職業的な犯罪であり、何度も反復累行され、被害額も巨額であることから不起訴が無理なことは当然ながら起訴され、執行猶予が取れずに実刑判決となることが予想された事案でした。
本件で執行猶予判決を獲得できたのは何よりも示談に成功し、被害者の宥恕を取れたことにあります。被害弁償は被害者にとっては当たり前のことであり、被害が回復されたからと言って、犯罪がなかったことになる訳ではありません。特に被害額が大きく、何度も繰り返し犯行が行われている本件のような事案は、仮に示談が出来ても実刑となる可能性は高かったです。執行猶予判決を獲得できたのは、被害者の宥恕があったからと言っていいでしょう。被害者の宥恕、つまり被害者に許してもらうためには、何よりも加害者の真の心からでる謝罪の気持ちと弁護士による誠意をもった示談交渉が必須であると言っていいです。
執筆者: 代表弁護士 中村勉