懲戒解雇を回避し不起訴
窃盗の事例をご紹介します。勤務時間外に勤務先の金庫に保管されていた第三者の所持品を窃取し、被害届が勤務先と所持品の持ち主双方から出ていた窃盗・建造物侵入事案でした。結果として、不起訴処分を獲得し、勤務先での懲戒解雇を回避しました。
本件は、勤務先が被害確認後に行った複数回のヒアリングにて依頼者は犯行を否認していたものの、警察での任意取調べにおいて認めに転じたという状況で受任しました。
受任後も最後まで逮捕回避に努め、上記の経緯から勤務先の処罰感情はかなり強いものとなってしまっていることが予想されたため、依頼者とともに直に謝罪し、懲戒免職も覚悟のうえである旨述べました。被害品の持ち主に勤務先がすでに被害弁償を行っていたため、精算の申出をし、弁済しました。
他方、被害品の持ち主にも、迷惑料の支払いを提案しましたが、被害弁償は既に勤務先よりなされていたので、謝絶されました。持ち主への連絡にあたっては、負担にならないように懇切さを追求しつつも簡潔なやり取りを心掛けて臨み、結果、お詫びのお手紙を受領いただきました。
結果、勤務先とは自主退職を条件に刑事処罰を求めないという示談が成立しました。持ち主の方とはいわゆる示談は成らなかったものの、持ち主への謝罪のお手紙の送付の事実と勤務先が持ち主の方に立替払いをしていた被害金額を依頼者が勤務先に弁済した事実が考慮され、刑事事件としても不起訴処分を獲得することができました。
事件のポイント
本件で被疑者が逮捕されなかったのは幸運としか言いようがありません。侵入盗は、事実を認めていようが、否認しようが、原則逮捕です。
というのも、侵入盗は、路上での暴行傷害や警備員に現認される万引きと違って目撃者がおらず、性犯罪とも違って被害者自身がその場にいないので、立証がとても難しいのです。いわゆる犯人の同一性が争われる潜在的リスクを常にはらむのです。それは被害者が自分の勤務先であっても同じです。
私自身、侵入盗のクライアントから相談を受け、自白していたにも関わらず逮捕されたケースが何件かあります。自首に同行し、私の説得虚しく私の目の前で逮捕されたのです。
その意味で、本件は任意取調べで否認から自白に転じたとは言え、その後の逮捕の回避に奏功した点で効果的な弁護活動であったと思います。
また、単に不起訴を目指すだけでなく、懲戒解雇を回避し、依頼者のその後の就職活動を含む社会更生に貢献した事例と言えます。
執筆者: 代表弁護士 中村勉