重大事件で逮捕も前科回避し不起訴処分を獲得
当時交際関係にあった男女の同居中の自宅で、口論の末に女性が男性を刃物で刺したとされる殺人未遂の事例です。
男性は一命は取り止めましたが一時心肺停止になるなど傷が深く、起訴されれば裁判員裁判となる重大事件でした。
被疑者となった女性は、当時酒に酔っており記憶が曖昧でしたが、被害者を刺した明確な記憶はなく、また救急搬送時に被害者が救急隊に自ら刺した旨を告げたという事情がありました。
そのため、弁護人は、本件は被害者が自ら包丁で自殺を図った事案であって事件性がない可能性があり、起訴されれば無罪主張を行うことが見込まれました。
被告人や弁護人が証拠を見ることのできない起訴前の段階で被疑者が曖昧な供述をしてそれが供述調書に記録されることを繰り返せば、その内容と矛盾する証拠が検察官の手元にあった場合に公判で極めて不利に働くことになります。そのため、取調べでは黙秘を貫くことがベストと判断し、依頼人に黙秘のメリット・デメリットや手法を十分に説明して理解してもらったうえで、依頼人は黙秘を継続しました。
また、弁護人は、依頼を受けた後すぐに被害者とされている当時の交際相手に接触しました。
男性は、女性の逮捕や刑事処罰は一切望んでおらず、女性の不起訴を望んでいたため、弁護人において速やかにその旨を供述調書として証拠化し、検察官に提出しました。
その結果、検察官は最終的に不起訴との判断を下し、依頼人は釈放されました。殺人未遂という重大な容疑で逮捕されましたが、前科がつくのを回避できました。
不起訴の理由は明かされていませんが、女性が男性を刺したという立証が容易でなく、男性の処罰感情も皆無であったことから、公訴提起はしないとの判断に至ったと思われます。
執筆者: 代表弁護士 中村勉