否認主張で不起訴を獲得
暴行の事例をご紹介します。相談者が、客として訪れた飲食店で酔って暴れてしまい、その場にいた複数人に暴行を加えたという事案です。被害者の一人は、暴行だけでなく、殴られて転倒した結果骨折したと主張しておりましたが、相談者は傷害について被疑事実を否認していました。
結果的に、暴行罪で略式罰金となり、否認していた傷害の被疑事実については、嫌疑不十分で不起訴処分となりました。
相談者が暴行を加えたと認識していた客に対して、受任後すぐに示談交渉を行い、示談が成立しました。
被害者を訴えている他の者については、否認示談を試みつつ、傷害については否認し、不起訴処分を目指しました。警察での取り調べについては黙秘するようにしました。しかし、折り合いがつかず、相談者は警察から任意の取調べを受けました。相談者は、取り調べには出頭し、黙秘をして対応していましたが、事件から一年ほど経って急に相手を骨折させたとの傷害容疑で逮捕されました。
相談者は、弁解録取において、暴行を認め、傷害については否認しました。その後の取調べにおいては黙秘しつつ、こちらの主張について弁護人が検察官に説明して交渉を行なった結果、検察官が認めている暴行の限りで処分をしようと検討していることがわかりました。
よって、勾留期間終盤の取調べにおいては黙秘を解除し、略式罰金とすることについても同意しました。
結果、暴行罪で略式罰金となり、否認していた傷害の被疑事実は嫌疑不十分で不起訴処分となりました。
事件のポイント
本件は黙秘の運用を柔軟にすることの大切さを示す事例です。特に余罪のある事件では、被疑者弁解で、一部否認、一部認めのケースの場合、なし崩し的に全部認めさせるような強引な取調べが行われることがあります。
認めている事実を含め、全部黙秘で捜査経緯を見極め、検察官感触なども探りつつ、黙秘解除のタイミングを図り、黙秘解除の対象事実を慎重に見定める必要があります。
一方、一度黙秘をアドバイスし、そのまま黙秘を貫徹させる若い未経験な弁護士もおり、事案によっては被疑者に不利益な結果となることがあります。
本件で、仮に最後まで全面黙秘を貫いた場合、略式罰金では終わらずに公訴提起され、しかも、否認なので保釈も認められなかったでしょう。弁護士の選任は慎重に行うべきです。
執筆者: 代表弁護士 中村勉