試験観察相当の事件であったが少年に寄り添った弁護活動で保護観察処分を獲得
少年による詐欺、窃盗保護事件で保護観察少年が、いわゆる特殊詐欺の受け子として被害者から現金数十万円及びキャッシュカードをだまし取り、だまし取ったキャッシュカードを使用して銀行ATMから数十万円を引き出したという詐欺、窃盗保護事件です。
少年が本件非行に及んだ動機は金銭目的であったことはいうまでもありませんでしたが、その背景には、少年自身の金銭感覚の乱れ、家庭環境の乱れがありました。
少年は、インターネット通販サイトの後払い制度を利用して買い物をする趣味があり、時にアルバイトの収入額以上の購入をして支払いに苦慮することがありました。また、本件非行前に怪我や病気によってアルバイトを休職して収入が途絶えてしまいました。少年のもとに督促状が届いたことで安易にSNSの書き込みに飛びついてしまい、特殊詐欺にかかわることとなりました。
少年は幼少期に両親から躾と称した暴行を受けたことで、両親に金銭面での悩みや相談を打ち明けることができませんでした。このような少年の背景について、担当調査官との間で意見交換をしつつ、少年本人と両親の課題、問題点の解消にあたりました。
少年は幼少期に父親から躾と称した暴行を受けたことで両親から疎まれていると感じるようになり、両親を困らせてやろうという反骨精神から両親の財布からお金を抜き取ったことがありました。また、両親もそのような少年の態度から「可愛くない」などと少年の自尊心を傷つける発言をして関係が悪化していました。そこで、両親については、子どもに対する暴行による子どものトラウマについての認識を深めるとともに、少年との面会を通して親子間の認識のずれの解消にあたりました。
同時に被害者との間で示談が成立しました。
少年は、弁護士を通じて被害者の心境を聞き、特殊詐欺の重大性を再認識しました。
担当調査官からは試験観察相当の意見がなされましたが、調査官、裁判官、付添人とのカンファレンスのなかで、付添人は保護処分に付す前提が整っている旨の意見を申し上げたところ、2年の保護観察処分となりました。
事件のポイント
特殊詐欺は、社会問題化して久しく、次から次へと新手の手口が現れ、その被害は後を絶ちません。
それゆえ、裁判所の態度も厳しく、被害金額、回数、担った役割等によっては、成人であれば公判請求の上実刑もあり得る重い事案です。事案としての悪質性は少年事件でも変わるところはありませんが、少年法は、「少年の健全な育成」という教育目標を掲げ、非行少年に対し、できるだけ刑罰よらず、性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分等の教育的手段により非行性を除去することを目的としています。そこで、少年事件の弁護活動においては、被害者との示談等ももちろん重要ではありますが、それとともに、少年の性格等を把握するとともに、少年を巡る環境、殊に少年が暮らす家庭環境や生活環境を調整し、適正な保護処分を得ることがより重要となります。
本件においては、少年のこれまでの生活環境、両親との関係等の事情を的確に把握した上、示談交渉を行うだけでなくその際に把握した被害者の心境を少年に伝えることで少年の性格面に働きかけ、さらに、最も重要な両親との関係についても環境調整を行うことで、所期の結果を得ることができました。