被害届提出前の迅速な示談対応で不送致
痴漢の事例をご紹介します。
電車内での押し付け痴漢の事案で、結果として検察官に送致されず終結いたしました。
事案の内容は、混雑中の電車内における「押し付け痴漢」の疑いにより、その場で被害女性から「痴漢」と呼ばれて否定するも警察を呼ばれたという事案です。
依頼者は過去2年以内に同種の前歴が1件あったため、被害者との間で示談が成立したとしても不起訴処分にはならないおそれがありました。
弁護人は受任当初より示談成立を期して臨みましたが、本件において示談は不起訴処分を獲得する上で必要条件ではあるものの、十分条件とはならないことを想定しました。この点について依頼者に予め十分な説明を行い、理解を得た上で示談交渉に着手しました。
他方、依頼者には謝罪文作成、心理学関係の書籍購読と反省文の作成に取り組んでいただき、これらは弁護人による不送致を求める意見書の添付資料として警察に提出しました。
結果的に事件発生後1週間という短期間で示談が成立し、被害届提出に至る前にこのような結果を得られたことは大きかったです。
総じてスムーズに進んだ弁護活動でしたが、警察と良いテンポで連絡を取ることができたのもこれに寄与していると考えます。
早期示談成立により被害者から被害届が提出されなかったことや、意見書記載の内容も踏まえ、警察が検察に事件を送致せずに事件が終結しました。
事件のポイント
通常逮捕の場合は、被害者が被害届を提出してから捜査が始まり、令状入手の上、逮捕となりますが、痴漢や盗撮など、犯行を現認された現行犯の事案では、警察を呼ばれ、事件が警察沙汰になったとしても直ぐに被害届が提出されるとは限りません。
この事件認知と被害届提出とのタイムラグは、刑事弁護にとってとても重要です。もし被害届提出前に示談が成立するなら被害者は被害届提出を思い留まり、事件が警察段階で終了するからです。一旦被害届が提出されてしまうと、ほとんどのケースで事件は検察庁に送致され、長引きます。
本件は、警察と意思疎通を図りながら示談交渉を迅速に進めて早期解決ができた事案でした。
執筆者: 代表弁護士 中村勉