警察に怪我を負わせた事件で不起訴処分を獲得した事例
依頼者である被疑者とその父親との間で親子喧嘩が勃発、それがエスカレートし、被疑者が自身の保護を求めて110番通報しました。被疑者は、駆け付けた警察官のパトカーに乗せてくれと訴えたものの警察官が拒否し、警察官はパトカーに乗ろうとする被疑者を制止するため被疑者の肩を掴んだところ被疑者が警察官の胸倉を掴み、警察官の顔面にひっかき傷を負わせたとして公務執行妨害および傷害の疑いで現行犯逮捕・勾留されることとなりました。
被疑者によると、警察官にパトカーの乗車を拒否された後、警察官が被疑者を制止しようと転倒させられ、これを逃れようとした際にひっかき傷を負わせたものであるとして暴行の事実や公務の執行妨害によるものではないとして犯行を否認していました。
被疑者は現行犯逮捕後の弁解録取手続当初より、「臨場した警察官に対して暴行を振るったことはない」などを主張し否認しました。
現場に臨場した警察官は一名であり、人気のない駐車場での出来事であったため周囲に防犯カメラも存在しないものであると思われ、警察官の被害供述を裏付ける客観的証拠がないものと考えられました。
被疑者は弁解録取時において自ら弁解をしており、弁護士は被疑者に対して、以後の取調べについては黙秘するように指示しました。さらに、被疑者が現行犯逮捕された際に被疑者の母親に対して事情聴取がなされましたが、その後被疑者の母親は精神的に不安定となっていました。そのため記憶混濁や誤った供述をすることを避けるべく被疑者の母親の取調べも応じないようにしました。
加えて本件が家族喧嘩から難を逃れるために自ら警察官に対して110番通報をした事案であり、典型的な公務執行妨害事案ではなかったため、仮に暴行の事実が証拠上認められたとしても可罰性を欠き起訴猶予が相当である旨の意見書を検察官に提出し、不起訴処分を働きかけました。
被疑者は20日勾留の後、処分保留で釈放され、嫌疑不十分により不起訴処分となりました。
事件のポイント
取調べについては黙秘を選択すべきか供述することで弁解を尽くすべきか悩ましい事案でしたが、事件に至る経緯や当初からの被疑者の供述を踏まえて黙秘を選択し、功を奏した事案と思われます。
本件は親子喧嘩に端を発し、自ら110番通報したもので、職務質問などによる公務執行中におけるような典型的な公務執行妨害事例とは異なり、当初より不起訴の可能性ある事案と言えました。
また、警察官が相手となる事案は示談の余地もない上、取調べ官に都合の良いような供述を強いられる類型的リスクが認められることから黙秘対応は適切でした。
執筆者: 代表弁護士 中村勉