「恐喝」は日常でも稀に耳にする言葉ですが、法律に規定されている「恐喝罪」はどのような罪なのでしょうか。また、逮捕されてしまったらどうすれば良いのでしょうか。
恐喝罪というと、なにか暴力団員が起こす犯罪のようなイメージがありますが、当事務所への相談では一般的な会社員の方が恐喝罪で逮捕されるケースが目につきます。商取引のクレームが度を越して恐喝罪になってしまうケースや、男女関係のもつれから手切れ金的な金銭要求が恐喝罪に問疑されるケースもあり、また、我々弁護士ですら、示談交渉での金銭要求が恐喝罪で断罪されることもあるのです。
その中で、当事務所への相談で最も多いのは、やはり男女間のトラブルです。
昨今、SNSの普及により、いわゆる「パパ活」など、若い女性とサラリーマン(時には既婚者)との男女交際が盛んで、そのような関係は最後にトラブルになることも多いのです。
例えば、振られたことで理性を失い、ついついそれまでかけたお金を返せ等と要求するときに、「返さないと勤務先にバラす」とか「親に言う」などの脅迫文言を口にしてしまうのです。実は、誰しもが起こし得る犯罪なのです。以下、代表弁護士・中村勉が解説します。
恐喝罪とはどのような犯罪か
まず、刑法の条文を見てみましょう。
刑法第249条
1項 人を恐喝して財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2項 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
恐喝罪は、相手方の生命・身体・自由・名誉又は財産に対して害を加える旨を告知し、人から金銭、その他の財物を脅し取る場合に成立する犯罪です。
例えば、「明日までに100万円持って来ないと殺す」と言ったり、「50万円支払ったらこの写真は流出させない」等と言ったりして金銭を要求した場合です。よって、いわゆる「カツアゲ」は、恐喝になります。
恐喝罪の罰則は10年以下の懲役、公訴時効は7年です。
恐喝罪と脅迫罪の違い
それでは、恐喝罪と脅迫罪の違いは何でしょうか。簡潔にいうと、両者の違いは財産交付要求があるかないかです。また、脅迫罪において「告知される害悪」は、「生命、身体、自由、名誉または財産に対するもの、親族の生命、身体、自由、名誉または財産に対するもの」に限定されています。例えば、「殺すぞ」「ネットに裸の写真を流出させてやる」等と言って、相手に恐怖を抱かせる言動が脅迫です。
一方、恐喝罪の場合、脅迫罪のような制限はなく、「告知される害悪」は、犯罪や違法行為でなくても良いとされ、親族ではない第三者に対する害悪の告知でもよいと規定されています。つまり、「上記の脅迫に加えて財産を要求すること」が恐喝にあたります。もし、恐喝された相手がお金を払わなかった場合でも、「恐喝未遂」が成立します。
恐喝罪で逮捕された場合の弁護活動
弁護活動のポイントは二つあります。一つ目は、とにかく示談を成立させることです。二つ目は、いわゆる「お礼参り」とされる二次的な犯罪を防ぐことです。
恐喝罪も財産罪の一類型ですので、財産的損害が回復し、被害者が許すとすれば、処罰の必要性は一段下がります。もちろん、前科等で、恐喝やその同種犯罪があれば、たとえ今回の犯罪で示談が成立したとしても起訴される可能性はあります。しかし、原則は示談により不起訴というのが一般的でしょう。ですから、恐喝事件を解決するためには示談が最も重要なのです。
ですから、身柄拘束をできるだけ短くするためにも、起訴を回避し、不起訴処分として前科がつくのを回避するためにも早期の示談成立が求められます。
恐喝罪では被害者側に落ち度があることもある
通りすがりのトラブルから発展する暴行罪や傷害罪、あるいは痴漢などの事案と違って、恐喝罪は人的関係があるもの同士のトラブルから発展することが多いです。そして、被害者にも落ち度がある場合もあるのです。
例えば、債務者が度重なる返済催促にもかかわらず、誠意をもった対応をせず、電話を無視したり、行方をくらましたり、のらりくらりと支払いを先延ばしする場合には、債権者としてもつい苛立ちを抑えきれずに行き過ぎた言動をし、それが恐喝罪として立件されることがあります。もちろん、いかなる理由があるにせよ犯罪行為に及ぶことは許されることではありますが、そういった事情を加害者に代わって主張できるのは弁護士しかいないのです。
恐喝罪は、そうした被害者側の事情をよく吟味したうえで公正な処分が求められる犯罪類型なので、弁護活動にあたっても、そのような観点が必要不可欠です。また、被害者に落ち度がある場合には示談も比較的まとまりやすい傾向があります。ただ、その場合でも示談交渉にあって、被害者に対し、そのセキュリティの担保を示すことが要です。恐喝の被害者は、みずから被害届を出したことで「お礼参り」を何よりもおそれているからです。弁護士は、被害者に対し、そのような不安を払拭する努力と施策が必要なのです。
例えば、被疑者の行動制限(被害者の生活圏には立ち入らないなど)の誓約書の提出や、場合によっては、恐喝罪の端緒となった金銭問題をこの際解決してしまうなどの活動も必要になってくるのです。
恐喝罪の判例
参考までに、恐喝罪の判例を見てみましょう。
※下記は裁判例の紹介であり、当事務所が扱った事例ではありません。
大阪地方裁判所 平成25年11月1日
元暴力団組合員の被告人は以前、交際していた被害者に対し、貸金返済という名目の下、7回に渡り、自分と交際していた事実をマスコミなどに暴露する旨の書面を被害者宅や事務所に送付するなどして、金銭を喝取しようとした事案。
被告人はマスコミに上記事実を暴露し、被害者の芸能人生命を奪うことになる旨を随所に記載するとともに、被害者に対し殺意を抱くほどの恨みを抱いていることを示唆するなどしている。これらの害悪の内容に照らせば、貸金債権の有無にかかわらず、本件行為は恐喝行為に該当し、故意も認められる。そして、被告人は貸金返済という名目の下、明確に金銭を要求しており、当該恐喝行為が金銭の交付に向けられていたことは明かである。以上の事情から、被害者が警察に被害届を提出し、被告人が目的を遂げなかった本件においては、恐喝未遂罪が成立する。
そして、約1年2ヶ月の間に7回に渡る本件脅迫行為は執拗で悪質な犯行である上、被告人は恐喝未遂罪の同種前科や別罪の累犯前科があることなどから自省の念が不十分であるとして、懲役2年4月に処した事例。
高知地方裁判所 平成25年4月18日
被告人らは、被害者に対し、共謀の上、被害者が暴力団員数名から借りた現金約1100万円の返済の名目で現金を喝取しようとした事案。
恐喝行為の有無につき、被害者の証言の信用性に委ねられたが、被害者の供述や行動には不自然な点が多々あり、被告人らの説明に比して説得力に欠け、信用できないこと、1000万円単位の本件において被告人らが礼金を恐喝する動機がないことなどから、被害者は自己に都合の良い作り話をして、警察に保護を求めたものといえる。
以上の事実は証拠に照らしても合理的に説明することができ、当時、被害者が自ら進んで債務整理を望んだ以上、被告人らが債務整理をしようとした本件行為は恐喝とみることはできず、被告人らは無罪であるとした事例。
横浜地方裁判所 平成24年11月30日
被告人は、70歳の実母から、長年にわたり、乱暴な言動をするなどして多額の金を無心し、総額数億円の金をもらっていたという事案。
被告人は、更に金を脅し取ろうと考えて、暴行や脅迫を行い、応じなければ自己の身体等にいかなる危害を加えられるかもしれないという畏怖を生じさせた。しかし、これらの暴行や脅迫は、実母が高齢であること、被告人と1対1となる場面があったことを考慮しても、反抗を抑圧するに足りる程度のものであったとは認められず、恐喝の手段としてのものにとどまるとみるのが相当であるとして、恐喝罪と認定した。そして、被告人と実母は直系血族であることから、刑法251条、刑法244条1項により被告人に対し、刑を免除した。
まとめ
いかがでしたでしょうか。人間は弱いもので、常に理性に従った行動をするとは限らず、ついつい感情的になり、理性を失い、言ってはいけない文言を口にし、それが恐喝罪になってしまうのです。検察官や裁判官は法の番人ですが、弁護士は法の番人ではありません。法秩序の一構成員ではありますが、公益よりも常に市民の立場に立ちます。
被疑者や被告人が、「自分のしたことは間違いでしたが、私の言い分も聞いてください」という声に耳を傾けるのが弁護士であり、恐喝罪ではそのことがとても重要であり、かつ、それが最終的には公の秩序を人間味あるものにするのです。