先日実刑判決が確定した後、収監に応じず、自宅を訪ねてきた検察庁職員や警察官に刃物を突き付けて逃走した人が公務執行妨害罪で逮捕された事件がありました。
このような状況で逮捕される人は珍しいかもしれませんが、公務執行妨害罪は誰もがうっかりと起こしてしまうかもしれない犯罪なので注意が必要です。
公務執行妨害は公安的色彩が強いです。刑事的か公安的かというのは、要するにその場の治安の乱れさえ抑えれば、起訴されようが不起訴になろうが関心ないというスタンスか(公安的、治安維持的)、起訴して何としてでも処罰したい(刑事的)という違いです。
公務執行妨害罪は後者のケースが散見されます。しかし、警察のそのような意図を知らずに検事が真にうけて起訴することもあります。当事務所は、警察の意図にかかわらず検事を説得し、不起訴処分を目指します。
今回はどのような場合に公務執行妨害罪が成立するのか、また、逮捕されてしまったときの対処法について代表弁護士・中村勉解説します。
公務執行妨害罪とは
公務執行妨害罪は、公務員による公務の執行を妨害する行為を排除することにより、公務(国家作用)を保護することを目的に作られた犯罪類型です。公務執行妨害罪は次の条文で規定されています。この条文に即して、どのような犯罪なのか確認していきましょう。
刑法95条1項(公務執行妨害罪)
①公務員が②職務を執行するに当たり、これに対して③暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
公務執行妨害罪の成立でポイントとなる要素は条文の①~③です。それぞれについて問題となる点を解説していきます。
①公務員とは
公務員とは、同法7条で定義がされています。「この法律において「公務員」とは、国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいう。」という条文です。
したがって、国家公務員、地方公務員は当然、公務執行妨害罪の対象となる公務員といえます。そして、公務員が職務上なすべき事務の取り扱い一切が保護の対象となりますので、市役所の窓口で対応している公務員も当然対象になります。
②職務を執行するに当たりとは
かといって、公務員を被害者とするすべての暴行又は脅迫が公務執行妨害になるわけではありません。例えば、昼休み中に外でランチをしている公務員に暴行または脅迫をしても公務執行妨害罪は成立しません。それは単なる暴行罪や脅迫罪です。
あくまでも、被害者である公務員が、現実に職務を行っているか、その職務の開始直前の執務と密接な関連を有する待機状態にあることが必要です。
職務は適法でないといけないのか
公務執行妨害罪が成立するかどうかで、実務上問題になるのがその職務が適法であったか否かという点です。公務執行妨害罪は、公務を保護するために作られた罪ですので、その職務が適法であるときに初めて保護されると考えられています。
しかし、公務員が、軽微な手続き違反をしたに過ぎない場合にまで、その行為は違法なので公務執行妨害罪が成立しない、保護されないとすると、公務を保護するという法の目的を達成することができなくなってしまいます。そこで、違法か適法かといった硬直的な判断ではなく、「その公務に要保護性があるのか?」といった観点で、柔軟に適法性は検討がなされています。
その判断は、(1)行為者である公務員の一般的・抽象的な職務権限に属しているか、(2)具体的な職務権限にも属しているか、(3)職務行為の有効要件である法律上の重要な条件・方式を履践しているかといった観点から判断されています。
例えば、このような事例から考えてみましょう。
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街を歩いていた人が、警察官からしつこく職務質問をされて、服を掴まれ、振り払った場合に公務執行妨害罪であるとして逮捕された。
考え難い話ですが、この職務質問を行ったのが、市役所の職員だったとしましょう。確かに同じ地方公務員ですが、市役所の職員には、職務質問を行う(1)一般的・抽象的な職務権限はないといえますので、この行為には要保護性はありません。
次の(2)具体的な職務権限についても、職務質問を行ったのは警察官であっても、その職務質問が具体的な権限に基づかない場合も、要保護性はありません。
最後の法律上重要な条件・方式を満たしているかです。次のように考えて検討していきます。警察官が行ったのは職務質問です。職務質問は、罪を犯したとの一定の疑いがあるときに行うことが認められますが、質問の対象者の身柄を拘束したり、警察署に連行したり、答弁を強要したりすることは許されていません(警察官職務執行法2条3項)。あくまでも任意の協力で行うものとされています。捜査令状が必要な強制の処分になるようなことはできないとされています。
そこで、この職務質問において、「捜索」にあたるような行為、例えば無断で質問対象者のカバンのチャックを開けて中身を全部出すような行為をすれば、重要な条件・方式の違反であるといえます。このような職務質問は要保護性が無いので、この職務質問に抵抗して、警察官に暴行を働いても、公務執行妨害罪は成立しないといえるのです。
なお、公務執行妨害罪は、その犯行によって警察官が怪我を負った場合、傷害罪が併せて成立します。実際の裁判例でも併せて起訴されている事案がそれなりにあります。上記で説明したように、公務に要保護性が欠ける場合、その公務員の行為は違法になりますので、その行為が、被告人の権利を侵害する場合、それに対して暴行を行っても、正当防衛として傷害罪は成立しない場合があります。
③暴行又は脅迫とはなにか
公務執行妨害罪の実行行為とは、暴行または脅迫です。暴行とは、不法な有形力の行使といわれています。広い意味での暴行ですので、直接、公務員の身体に向けられた暴行でなくても暴行になります。例えば、公務員の周辺で物を壊すような行為も暴行にあたるといえます。
脅迫は、人を畏怖させるに足りる害悪の告知であるといわれています。公務員に対して「殺すぞ」と述べる行為は典型的な脅迫行為です。
公務執行妨害罪の法定刑と量刑
公務執行妨害罪は、1月以上の3年以下の懲役若しくは禁錮又は1万円以上50万円以下の罰金とされています(刑法95条1項、12条、13条、15条)。これは法定刑ですので、実際の刑罰はこの範囲の中で、裁判官によって決められて言い渡されることになります。量刑の傾向をみるためにいくつかの裁判例を確認してみましょう。
1.東京地方裁判所
平成14年3月12日判決→ 懲役1年執行猶予4年
この事案は、被告人が挙動不審者として、空港で警戒中の警察官から職務質問を受け、所持品検査を受けていた際に、携帯していた水溶性の紙を机の上のコップに投棄しようとしたところ、警察官に止められたので、警察官の腹部を1回殴打し、制服の左襟あたりを掴んで押すとの暴行を加えた事案です。
2.徳島地方裁判所
昭和63年9月2日判決判決→ 懲役10月執行猶予3年
この事案は、税金の申告に関する調査を受けていた被告人が、自身の営むバイク販売店に同調査に訪れていた公務員に対して、ナイフを向けて、「税務署の者を殺しても笑い者にならん」「刺したろか」などと脅迫した事案です。
3.秋田地方裁判所大館支部
平成17年7月19日判決→ 懲役1年4月執行猶予5年
この事案は、銀行のATMで複数回暗証番号を間違え、カードの再発行が必要となった被告人(71歳)が、銀行内でクレームを述べ、これに対応するための現場に来場した警察官に対して、顔を右手で1回殴る暴行を加え、警察官に加療約5日間を要する目の瞼への打撲の傷害を負わせたとの事案です。
※3番目の裁判例には注意が必要です。この裁判例では、公務員である警察官にケガを負わせています。このような場合は、公務執行妨害罪に加えて、警察官を被害者とする傷害罪が併せて成立するので、単純に公務執行妨害罪の刑が重くなったとの事案ではないのです。
公務執行妨害罪で逮捕されたら
1.被害者である公務員の行為が適法かどうかを考える
それでは、このような公務執行妨害罪で逮捕された場合はどうすればよいでしょうか。
まず、先ほど解説したように、被害者である公務員の行為に要保護性があるかを法律の専門家である弁護士に相談すべきです。例えば市役所などで行政サービスについて苦情を申し入れており、そのうち激高して暴行や強迫をしてしまった場合、市役所の職員がクレーム対応に当たる行為は適法な行為にほかなりませんから、この点で争うのは難しいと考えるべきです。
一方で、慎重に判断が必要なのが、警察官から職務質問を受けて、それに反論・反抗する中で、警察官に暴行や脅迫をしてしまった場合です。先に説明をしたように、職務質問の適法性の判断はとても難しく、警察官が行っている行為が、裁判所が発行する令状が必要な行為なのか、仮に令状が不要な行為であったとしても、やりすぎではないかといった観点から、警察官の行為の要保護性を検討する必要があります。
この点については、多数の判例、裁判例の蓄積がありますし、一般に思われているより、警察官が強引な行為をしても許されるとした裁判例が多く出ています。それらと比較検討する必要があります。専門家である弁護士に相談する必要性が高いといえます。
2.被害者の行為が適法だとしても不起訴の可能性がある
少し古いデータですが、2009年の公務執行妨害罪の処理件数をみると、起訴された人は1300人強である一方、不起訴や起訴猶予となった人も1500人強と起訴されている人も多いとはいえ、不起訴の可能性はあります。公務員側にも落ち度があり、相互にヒートアップしたような状態であれば、有利な材料を検察官に示すなどして、不起訴を目指すことが考えられます。
ただ、被害者は組織として対応をする公務員なので、示談をするのは難しいといえるので、この点で不起訴を目指すのは難しいといえます。
3.勾留に対する準抗告や、保釈を目指して活動する
公務執行妨害罪の被害者は公務員です。一般の市役所の職員が被害者であれば別ですが、警察官が被害者であれば、被疑者等が警察官に証言を変えるように脅すなどの行為を行うことはなかなか考えにくいといえます。したがって、わざわざ逮捕や勾留をして、捜査したり、裁判をしたりする必要がない場合が多いといえます。
特に一般のサラリーマンが警察官と酔っぱらって喧嘩をしてしまったような場合については、起訴されるまでの勾留に対して準抗告を起こして取り消させたり、起訴された後は速やかに保釈を受けたりして、裁判に臨むの準備をすることが大事であるといえます。
4.起訴された場合の対応
一般の方が公務執行妨害罪で罪に問われる場面としては、酔っぱらった末に警察官に絡んだ場合や、夜間の職務質問で警察官とトラブルになった場合などが比較的多いといえます。また、市役所などの窓口でトラブルになり暴行や強迫を働いてしまった事案なども報道では取り上げられています。ただ、いずれにせよ、法定刑は3年以下と重い罪ではありません。調べた裁判例でも、実刑となっている事案は見当たりませんでした。
起訴された場合については、争えるかどうかを検討した上で、争えないと考えた場合は、自身が公務執行妨害行為に至ってしまった経緯を振り返って再度同じことをしないようにする方法を考えることが重要です。酒を飲んで、警察官に絡んでしまったような場合には、禁酒をする。行政ともめごとがある場合には、裁判までに解決をしておく、行政との話し合いを弁護士に依頼するなどが考えられます。
まとめ
今回は公務執行妨害罪について取り上げました。法定刑はあまり重くはないのですが、一般の方でも酔っぱらった勢いで、警察官に絡んで逮捕されるなどの事案が法律事務所に時折、持ち込まれています。
公務執行妨害罪で逮捕されたり、警察から取り調べを受けたりした場合、自身が暴行または脅迫をした際の公務員の行為の適法性(要保護性)が重要な争点になります。警察官の職務質問に関わる場面での適法性の認定は非常に難しく、法律の専門家である弁護士に相談する必要性が高い事案であるといえます。
また、その場面を客観的に記録したものが残っていることは稀で、加害者である暴行脅迫をした人と、被害者である警察官やその他の公務員の証言の信用性で結論が分かれてくる事案も多いです。このような意味で、取り調べ時に作成する供述調書でどのように供述するかも重要なポイントになってきます。ここで誤った内容の供述調書が作られてしまうと、裁判で何と説明しても一度作った供述調書を覆すのは非常に困難です。不用意なことを言わないように事前に弁護士との相談が必須といえます。軽い罪だと安易に考えず、弁護士にご相談ください。
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