2021年8月、警視庁が全国で初めて電動キックボードの運転による交通事故で危険運転傷害罪を適用して書類送検を行ないました。
電動アシスト機能は走行に便利な反面、自転車やキックボードでの通常の走行に比べて速度が出やすく、一部の方の間では交通モラルが十分に守られていないことから、その危険性が指摘されておりました。
今回は、交通犯罪の中でも重い罪である危険運転傷害(致死傷罪)が全国で初めて適用されたことで世間の注目を集めましたが、そもそも電動キックボード等で歩道や公道を走行すること自体に種々の様々な法律上の問題点があります。
そこで以下では、電動キックボードで公道を走行することについての法律上の問題等について、今回摘発された事例を併せて、弁護士・中村勉が解説いたします。
電動キックボードの運転につき、危険運転傷害罪を適用した事件
今回、摘発された事件の概要は、東京都内の交差点で、加害者は無免許で電動キックボードを運転し、信号を無視してタクシーと衝突し、乗客の男性に軽傷を負わせたというものです。電動キックボードで行動を走行すること自体に種々の法律上の問題があるとされています。
一つは、自動車責任賠償保険に加入せず、公道を走行したという自動車損害賠償保障法違反です。
もう一つは、電動キックボードの車体に灯火類・方向指示器、警音など必要な保安部品を取り付けていなかった事実による道路交通法違反です。細かく言えばこれに留まりません。そこで、電動キックボードで公道を走行する行為自体については、以下の法律に抵触する可能性があるため、説明したいと思います。
道路交通法での電動キックボードの扱い
道路交通法は公道を走る際に適用される交通ルールです。最近、話題になっている電動アシスト機能は、自転車やキックボードでの通常の走行に比べて速度が出やすく危険が伴うことから、その補助力(アシスト力とも言います)の違いによって異なる規制を受けることになります。
以下の基準を超えるものは、「第一種原動機付き自転車(一部は小型特殊自動車)」に該当し、公道を走行するにあたって種々の規制が生じることになります。
道路交通法施行規則
第一条の三 法第二条第一項第十一号の二の内閣府令で定める基準は、次に掲げるとおりとする。
一 人の力を補うために用いる原動機が次のいずれにも該当するものであること。
イ 電動機であること。
ロ 二十四キロメートル毎時未満の速度で自転車を走行させることとなる場合において、人の力に対する原動機を用いて人の力を補う力の比率が、(1)又は(2)に掲げる速度の区分に応じそれぞれ(1)又は(2)に定める数値以下であること。
(1)十キロメートル毎時未満の速度 二(三輪又は四輪の自転車であつて牽けん引されるための装置を有するリヤカーを牽けん引するものを走行させることとなる場合にあつては、三)
(2)十キロメートル毎時以上二十四キロメートル毎時未満の速度 走行速度をキロメートル毎時で表した数値から十を減じて得た数値を七で除したものを二から減じた数値(三輪又は四輪の自転車であつて牽けん引されるための装置を有するリヤカーを牽けん引するものを走行させることとなる場合にあつては、走行速度をキロメートル毎時で表した数値から十を減じて得た数値を三分の十四で除したものを三から減じた数値)
ハ 二十四キロメートル毎時以上の速度で自転車を走行させることとなる場合において、原動機を用いて人の力を補う力が加わらないこと。
ニ イからハまでのいずれにも該当する原動機についてイからハまでのいずれかに該当しないものに改造することが容易でない構造であること。
二 原動機を用いて人の力を補う機能が円滑に働き、かつ、当該機能が働くことにより安全な運転の確保に支障が生じるおそれがないこと。
以上まとめると、①走行速度時速10km未満の場合は、アシスト比率が最大で1:2以下であること②時速10km以上時速24km未満では走行速度が上がるほどアシスト比率が徐々に減少すること③時速24km以上では補助力が0であること、このすべてを満たさなければ、「第一種原動機付き自転車」に該当し、歩道を走行することができません。
アシスト比とは、その自転車が進む力を全体としたとき、そのうち人力が加えられる量と電気等の力が加えられる量がどれだけあるかの比率です。当然、アシスト比が高い方が、少ない人力で機体が進みますので、楽に走行することができますが、その分スピードものりやすく危険ということになります。
そして、「人の力を補うために用いる原動機」であることが必要ですので、人の力を全く加えることなく走行することができる自転車やキックボードは、当然、歩道を走行することができません。以上に違反して、歩道を走行した場合は通行区分違反(道路交通法違反)となります。
通行区分
第十七条 車両は、歩道又は路側帯(以下この条において「歩道等」という。)と車道の区別のある道路においては、車道を通行しなければならない。ただし、道路外の施設又は場所に出入するためやむを得ない場合において歩道等を横断するとき、又は第四十七条第三項若しくは第四十八条の規定により歩道等で停車し、若しくは駐車するため必要な限度において歩道等を通行するときは、この限りでない。
そして、上記の基準に適合しない場合には、「原動機付き自転車」に該当しますので、運転免許が必要になります。したがって、運転免許を保有せずに、先ほどの規格を超える電動キックボードに乗って走行しまいますと、無免許運転となってしまい、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。今回、摘発された方も無免許だったようです。
無免許運転等の禁止
第六十四条 何人も、第八十四条第一項の規定による公安委員会の運転免許を受けないで(第九十条第五項、第百三条第一項若しくは第四項、第百三条の二第一項、第百四条の二の三第一項若しくは第三項又は同条第五項において準用する第百三条第四項の規定により運転免許の効力が停止されている場合を含む。)、自動車又は原動機付自転車を運転してはならない。
第百十七条の二の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
自動車損害賠償保障法
電動キックボードが「原動機付き自転車」に該当するときは、同法違反となる可能性があります。具体的には、自動車(原動機付き自転車も含まれます。同法2条1項)を運行の用に供するときは自動車損害賠償責任保険又は自動車損害賠償責任共済に加入しなければなりません。これに違反した場合には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
責任保険又は責任共済の契約の締結強制
第五条 自動車は、これについてこの法律で定める自動車損害賠償責任保険(以下「責任保険」という。)又は自動車損害賠償責任共済(以下「責任共済」という。)の契約が締結されているものでなければ、運行の用に供してはならない。
罰則
第八十六条の三 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
そして、自動車賠償責任保険等に加入していても、その保険証明書を備え付けていなければ、30万円以下の罰金に科せられる可能性があります。
自動車損害賠償責任保険証明書の備付
第八条 自動車は、自動車損害賠償責任保険証明書(前条第二項の規定により変更についての記入を受けなければならないものにあつては、その記入を受けた自動車損害賠償責任保険証明書。次条において同じ。)を備え付けなければ、運行の用に供してはならない。
罰則
第八十八条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
道路運送車両法とは
道路運送車両法は、公道を走る車両の保安基準を定めた法律です。電動キックボード等が「原動機付き自転車」に該当する場合は、この法律が定める基準をクリアしなければなりません。
原動機付自転車の構造及び装置
第四十四条 原動機付自転車は、次に掲げる事項について、国土交通省令で定める保安上又は公害防止その他の環境保全上の技術基準に適合するものでなければ、運行の用に供してはならない。
そして、より詳細には、「道路運送車両の保安基準」の59条以下に規定していますが、ポイントとなるのは以下のとおりです。
- バックミラー
- 方向指示器(ウインカー)
- 前照灯(ヘッドライト)
- 番号等(テールランプなど)
- 独立した2系統のブレーキ(前後輪)
- ナンバープレートの取得
以上の基準を満たさないまま、公道を走行してしまいますと、整備不良として道路交通法違反となる可能性があります。
電動キックボードの法改正について
2022年4月27日に交付され、2023年7月1日より施行予定の改正道路交通法は、改正前には「原動機付自転車」(又は「普通自動二輪車」)に分類されてきた電動キックボードのうち、最高速度や車体の大きさにおいて一定の基準を満たすものを「特定小型原動機付自転車」と呼ぶこととし、原付免許を不要とするなどの規制緩和を行います。法がいわゆるマイクロモビリティ推進のため電動キックボードを有効な移動手段と認めた結果と思われます。
新たに「特定小型原動機付自転車」と定義される電動キックボードは、電動機の定格出力が0.6kW以下、長さ190cm、幅60cm以下で、20km/h超の速度を出せないものをいいます(改正道路交通法施行規則第1条の2の2)。それ以上になると、これまでと同じく「原動機付自転車」又は(定格出力0.6kW超なら)「普通自動二輪車」に当たることとなります。
「特定小型原動機付自転車」に当たる電動キックボードは、これまでは「原動機付自転車」の運転免許が必要だったのが、免許が不要となります(改正道路交通法第84条1項)。また、原則として車道を通行する必要があったのが、自転車道(改正道路交通法第17条3項)や原則として路側帯(同法第17条の3)も通行できるようになり、当該電動キックボードの歩道モードで最高速度を6km/h以下に制限した場合など一定の条件下では歩道通行も可能となります(同法第17条の2)。さらに、ヘルメットの着用が義務だったのが、努力義務となります(同法71条の4第3項)。
電動キックボードで交通違反に当たる行為とは
上記のとおり、「特定小型原動機付自転車」に当たる電動キックボードは、今回の道路交通法改正により相当に規制が緩和され、利用しやすくなりますが、一方で、運転に年齢制限が設けられ、16歳未満の者は運転してはならず(同法第64条の2第1項)、16歳未満の者に「特定小型原動機付自転車」を提供してもいけません(同法第2項)。違反すれば6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処せられます。結構重いですね。
また、信号無視、通行禁止違反、歩道を通行する場合の徐行義務違反、整備不良車両の運転、一時停止違反、酒気帯び運転、共同危険行為など17類型の行為を反復して行った場合、公安委員会により「特定小型原動機付自転車運転者講習」の受講を命じられることがあり(同法第108条の3の5第1項、同法施行令第41条の3)、この受講義務を果たさないと5万円以下の罰金に処せられます(同法120条1項17号)。
そして、「特定小型原動機付自転車」は、道路交通法上の「車両」ですから(同法第2条8号、10ロ)、飲酒運転の禁止(道交法第65条)、事故発生の場合の救護・事故申告義務(同法第72条)その他車両の運転者に課されている義務を免れることはできませんので、特に注意が必要です。
電動キックボードで事故を起こしてしまった場合
「特定小型原動機付自転車」に当たる電動キックボードは、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(自動車運転死傷処罰法)第1条で規定する「自動車」に当たりますので、人身事故を起こした場合には、乗用車と同様、危険運転致死傷罪(同法第2条「人を負傷させた者は15年以下の懲役、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役」。同法第3条「人を負傷させた者は12年以下の懲役、人を死亡させた者は15年以下の懲役」)、過失運転致死傷罪(同法第5条「7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金」)等同法所定の重い罰則が適用されます。
また、事故を起こしたのに事故申告をしないでその場から立ち去るなどすれば、物損事故でも事故不申告(当て逃げ)となり、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処せられます(道交法第72条、117条の5)。人身の場合なら不救護(ひき逃げ)にも当たり、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられ、さらに、人の死傷が当該運転者の運転に起因するときは、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられます(同法第72条、117条)。飲酒運転と同様、自動車運転者と同じ重い処罰があり得ますので、事故を起こしてもその場から逃げたりしないよう冷静な行動が必要です。
加えて、「特定小型原動機付自転車」に当たる電動キックボードは、自動車損害賠償保障法で規定する「自動車」にも当たりますから、自賠責保険への加入義務があり(同法第5条)、未加入のまま運行の用に供すれば、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。
今回の電動キックボードに関する法規制の緩和は、いわゆるマイクロモビリティ推進のためと考えられますが、一方で、上記のとおり、事故を起こした場合の刑事上・民事上の責任や、飲酒運転その他危険な運転行為に対する罰則等が緩和されたわけでなく、従来の原動機付自転車等と同様の扱いを受けますので、「特定小型原動機付自転車」に当たる電動キックボードを運転する際にはその点に関する理解が必須です。
まとめ
以上のように、こちらでは電動キックボード等にかかる種々の法律上の問題について説明いたしました。電動キックボードを購入する際には、これらの法律上の規制に注意して、安全に正しく利用しましょう。