2020年7月、厚生労働省は、埼玉県内のある専門商社の取り扱ういわゆるCBDオイルから、違法な大麻成分テトラヒドロカンナビノール(THC)が検出されたことを発表し、購入者に同製品の提出を呼び掛けました。
巷では「合法なオイル」「逮捕されるリスクはゼロ」などの謳い文句の下に流通しているCBD関連商品が多いようですが、結論から言うと、日本国では違法な大麻成分を含むものとして摘発・検挙されるおそれがあり、これらの商品販売や購入をする前に一度立ち止まって検討する必要があります。
また、昨今話題となっている「HHC規制」についても弁護士の観点から解説します。
本コラムは弁護士・中村勉が執筆いたしました。
CBDオイルとは
CBDオイルとは、大麻草に含まれる天然に存在するカンナビノイドという成分のうちの一つであるカンナビジオール(CBD)を抽出したオイルや商品のことをいいます。
WHO(世界保健機関)の発表によれば、このCBD成分には、日本で規制されている違法な大麻成分テトラヒドロカンナビノール(THC)のような乱用・依存可能性はなく、いくつかの国では医薬品として用いられているとのことです。
しかし、CBDとTHCは同じ大麻草という植物に由来する成分のため、日本国でCBDオイルを利用することには慎重になるべきなのです。
CBDオイルの問題
日本国で規制の対象とされている「大麻」とは、後述の通り、大麻草やその製品であり、成熟した茎(ただし樹脂を除きます)や種子は対象外とされています。
いわゆるCBDオイルは、この法律の建付に着目し、CBDオイルは日本で規制されていない、成熟した茎や種子から採取される成分などと宣伝されています。
しかし、結局は同じ大麻草なので、成熟した茎や種子のTHC成分はゼロではありません。
違法なTHC成分はその多くが大麻草の葉や花にある樹液に含まれていますが、同じ植物の葉と茎の境界部分は明確ではないため、「CBDオイル」と宣伝されている商品であっても、実は違法なTHC成分が混入しされているリスクを伴うと言わざるを得ません。法律上もよく読めば、大麻草の成熟した茎であってもその「樹脂」やその製品は規制対象となっています。したがって、「茎や種子なら合法」と断定してはいけないのです。
大麻取締法
第一条 この法律で「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。第二十四条 大麻を、みだりに、栽培し、本邦若しくは外国に輸入し、又は本邦若しくは外国から輸出した者は、七年以下の懲役に処する。
2 営利の目的で前項の罪を犯した者は、十年以下の懲役に処し、又は情状により十年以下の懲役及び三百万円以下の罰金に処する。
3 前二項の未遂罪は、罰する。第二十四条の二 大麻を、みだりに、所持し、譲り受け、又は譲り渡した者は、五年以下の懲役に処する。
2 営利の目的で前項の罪を犯した者は、七年以下の懲役に処し、又は情状により七年以下の懲役及び二百万円以下の罰金に処する。
3 前二項の未遂罪は、罰する。
大麻取締法違反の可能性
「CBDオイル」または「CBD配合」などの名目にも関わらず実は違法なTHC成分を含む違法な大麻製品であった場合には、大麻取締法違反となる可能性があります。
具体的には、大麻輸入の場合は7年以下の懲役、所持・譲受・譲渡の場合は5年以下の懲役となります。それぞれに営利目的がある場合には、懲役刑の上限が上がるとともに、それぞれ300万円以下または200万円以下の罰金も科されます。さらに、これらは未遂罪でも処罰対象となります。
CBDオイル・大麻リキッドの自首検討について
昨今のCBDオイル・大麻リキッドに関する報道や、有名人による相次ぐ大麻取締法違反事件などによる大麻取締法の周知の状況に鑑みれば、もし、あなたの販売・購入した商品に違法なTHC成分が含まれていた場合には、逮捕されてしまったり、刑罰を受けたりする可能性があるといえます。
論理的には、真に当該商品が合法であると信じた場合には例外的に刑罰を受けないこともあり得ますが、その証明のハードルは高く、要するに「知らなかった」では済まされないのです。さらに、刑罰を受けずとも、逮捕・勾留による長期の身柄拘束を受けるおそれもあります。心当たりのある方は、早めに弁護士に相談し、自首を検討するのが良いでしょう。
「HHC規制」について
厚生労働省は、令和4年3月7日、「危険ドラッグの成分6物質を新たに指定薬物に指定」の報道発表を行いました。資料によると、令和4年3月17日~、新たに規制される指定薬物として「HHC(Hexahydrocannabinol、ヘキサヒドロカンナビノール)」を挙げています。
指定薬物は、医療等の用途を除き「製造、輸入、販売、授与、所持、購入、譲り受け、使用」が禁止されています(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「薬機法」といいます。)第76条の4)。
罰則は以下の通りです。
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3年以下の懲役または300万円以下の罰金、またはこれらの併科(薬機法第84条28号、第76条の4)。
業としての場合は5年以下の懲役または500万円以下の罰金、またはこれらの併科(薬機法第83条の9、第76条の4)。
THC(テトラヒドロカンナビノール)は精神活性作用があることから、化学合成由来のものは麻薬及び向精神薬取締法により「麻薬」に指定され、規制されています。
一方で、HHC(ヘキサヒドロカンナビノール)はTHCと似た分子構造を持っていることから、薬効も酷似していると言われていますが、これまで規制する法律がありませんでした。
令和4年3月17日~、HHCは「指定薬物」に指定されることにより、薬機法による規制対象となり、医療等の用途を除き「製造、輸入、販売、授与、所持、購入、譲り受け、使用」が禁止されます。
今後、発生し得る問題として「HHC成分を含む製品を売ってしまった」、「友達に譲ってしまった」、「既に輸入手続きを行っており、規制後に通関で止められてしまった」などのトラブルが予想されます。
また、大麻関連商品は、インターネット広告やSNSを通して急速に広がってますが、今回の規制により「広告」も禁止されます(薬機法第76条の5)。
例えば、HHC商品を売っていた場合、販売を中止するのみならず、不特定多数の人に知られないように(広告として機能しないように)ページを削除するなどの対応が求められます。
また、HHCや大麻関連事件の事例ではないものの薬機法違反により、所謂アフィリエイターが逮捕されたケースもあります。直接、HHC商品を販売していなくても、間接的に販促や広告に関わっていた場合、刑事事件へと発展する可能性があります。
中村国際刑事法律事務所では、これまで大麻関連事件をはじめとする薬物事件全般に積極的に取り組んできました。薬物輸入事件など国際案件についても多数の経験・実績を有しています。大麻リキッドや、CBDオイル、昨今話題のHHC規制に関わる刑事事件で不安に思われる方、まずは無料電話相談をご利用ください。
元検事率いる刑事事件に強い弁護士がお力になります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回はCBDオイル・大麻リキッド、HHC規制をめぐる問題について解説いたしました。
スマートフォンやネットの発達に伴い、手軽に世界中の商品を手に入れられる時代になったからこそ、手にする商品が本当に我が国の法令に反しないものであるか、慎重に検討することが大切です。