- 家族が突然逮捕された。今後手続はどのように進むのか。
- 突然、警察が自宅に来て家宅捜索を受けた。自分は今後どうなるのか。
- 警察から事件を書類送検すると言われた。どうしたらいいのか。
刑事事件の当事者になってしまった場合、今後への不安が尽きることはありません。少しでもその不安を軽減するには、手続の流れを知り、その段階の応じた対応が必要です。
多くの場合、刑事事件に精通した弁護士が介入することで、身柄拘束を避けたり、短期間で釈放されたり、前科を避けたりできる可能性が高まります。こうした弁護士の活動は、刑事手続の初期であればあるほど効果的です。この記事では、刑事事件の流れと弁護活動の重要性について解説します。
弁護士の力が必要な3つのポイント
家族が逮捕されたり、ご自身が捜査の対象となったりした場合、弁護士の力を借りるべき重要な3つのポイントがあります。
①捜査機関の取調べに対する方針の決定と支援
取調べ室では、取調官と1人で対峙しなければなりません。知らないうちに不利な供述を引き出され、供述調書を作成されると取り返しがつかないことがあります。捜査機関の質問に対して話すのか、話すとして供述調書の作成に応じるのかを、弁護士によく相談して決定する必要があります。
逮捕されていない在宅事件では、弁護士が取調べに同行したり、弁護士に電話したりすることでリアルタイムの支援を受けることもできます。
②弁護士による身柄解放活動
逮捕されると72時間以内に勾留が決まります。勾留されると最大20日間拘束されます。弁護士が速やかに意見書を提出することで、身柄解放の可能性が高まります。
③示談による前科の回避
被害者のいる事件では、示談交渉によって示談が成立すると前科を回避できる可能性が高まります。刑事事件の示談交渉に精通した弁護士の力が必要です。
捜査段階
捜査段階の流れを解説します。事件が発生して警察の捜査が始まってから起訴・不起訴が決まるまでの期間のことを捜査段階と言います。捜査段階での弁護活動は、取調べに対する方針の決定、身柄解放活動、不起訴を目指すための示談等があります。
捜査の開始と逮捕
警察の捜査のきっかけを「捜査の端緒」といいます。捜査の端緒には様々なものがあります。被害者がいる事件では、110番通報や被害者による警察への被害相談・被害届の提出が一般的でしょう。このほか、第三者による警察への情報提供や、職務質問の際の禁制品の発見などが捜査の端緒となることが多いです。
その後、警察は物的証拠の収集、現場の実況見分、関係者・関係機関からの事情聴取などによって捜査を進め、犯罪の証拠を集めていきます。そして、特定の犯罪を行った疑いのある者を被疑者とし、被疑者に対する取調べを行います。
被疑者を逮捕して身柄事件として捜査を進める場合と、逮捕せずに被疑者に通常の生活を許した状態で捜査を行う在宅事件に分かれます。
被疑者を逮捕する場合には、犯行を現認するなどしたために容疑が明白のため令状を必要としない現行犯逮捕と一定の場合に例外的に認められる緊急逮捕の場合をのぞいて、原則として裁判所の発布する逮捕状を示しておこなう通常逮捕が原則です。通常逮捕の場合、警察官が早朝に被疑者の自宅を訪れ、逮捕と同時に家宅捜索を行うことが多いです。
逮捕後の手続
警察は被疑者を逮捕した後、48時間以内に被疑者の身柄、事件の関係書類や証拠等を検察庁に送ります。この手続きを「送検」と言います。その間に警察署で被疑者に対する取調べが行われ、供述調書が作成されます。
この段階で弁護士に依頼した場合には、弁護士が速やかに被疑者に接見することができます。ここで大切なのは取調べに対する方針の決定です。警察は、被疑者を逮捕すると、速やかに被疑者に罪を認めさせてその旨が記載された供述調書(自白調書)を作成しようとします。
刑事訴訟法上、黙秘権の告知が必要ですが、警察官は質問に対して答えることがさも当然かのように質問を重ねます。弁護士による助言なくして自力で黙秘ができる人は極めて少数です。また、供述調書に署名・押印することも義務ではありません。
警察官はあくまで被疑者に署名・押印を求めることができるだけです。これに応じる必要はありません。そして一度署名・押印された供述調書は、その後の公判において強い影響力があります。後からその内容を訂正・反論することは極めて困難です。
したがって、逮捕後、弁護士が速やかに被疑者に接見し、警察が疑っている被疑事実とこれに対する被疑者の言い分を確認し、事案に応じた適切な取調べ方針を被疑者とともに決定することが極めて重要なのです。
検察官による勾留請求の段階
送検後、検察官は24時間以内に引続き身柄拘束を続ける必要があるか否かを判断し、身柄拘束を続ける必要があると判断した場合には、裁判所に対し勾留請求を行います。また、検察官がこれ以上の身柄拘束は必要ないと判断した場合には釈放されます。
この段階で、弁護士が検察官に対して釈放を求める意見書を提出することで、釈放の可能性が上がることがあります。また検察官の取調べより前に弁護士が接見することで、釈放の可能性を上げるための適切な取調べへの対応方針を決定することも可能です。
充実した意見書の提出のためには、被疑者本人の誓約書や家族の身元引受書、被疑者の仕事や健康状態に関する資料などを収集する必要があります。こうした準備のためにも、逮捕後に速やかに弁護士に依頼することが重要です。
裁判官による勾留決定の段階
検察官による勾留請求がなされた場合、裁判官が勾留するかどうかを決定します。裁判官が勾留の必要があると判断した場合、勾留請求がなされた日から10日間の範囲で勾留されます。この間、警察署(代用監獄)に身柄を拘束され、取り調べが行われることとなります。裁判官が勾留の必要性がないと判断した場合には被疑者は釈放されます。
この裁判官の判断に際しても、弁護士が意見書を提出することで釈放の可能性が上がります。検察官は捜査のために被疑者の身柄を拘束しておきたいという考えから幅広に勾留請求を行うため、裁判官に対する活動の方が奏功しやすいという面があります。また、1度勾留されたとしても、その勾留決定に対して準抗告という不服申立ての手続きを取ることができます。
この場合、当初の勾留を決定した裁判官とは別の裁判官3名による合議体で準抗告を認めて釈放するか否かが判断されます。当初の勾留決定から事情の変化がなくても、当初の判断が不合理であるとして準抗告が認められることがあります。当初の勾留決定後に示談が成立したことなどを理由として釈放されることもあります。このように裁判官への意見書の提出や準抗告の活動を行うために、速やかな弁護士への依頼が必要です。
勾留決定後の段階
10日間以内に捜査が終わらない場合、検察官から勾留延長請求がなされ、裁判官が勾留延長の必要があると判断した場合には、さらに約10日間勾留が延長され、取り調べが続けられることとなります。最大で20日間の勾留が続くことになり、生活に対する影響は甚大です。複数の犯罪の嫌疑がかけられ、再逮捕される場合は、手続きは1件ずつ逮捕の手続きからスタートするので、さらに長期化することも十分にありえます。
勾留延長の際にも、裁判官に対して意見書を提出することで、延長されずに釈放されたり、延長日数が短くなったりすることがあります。延長決定に対して準抗告を行うことができます。
勾留されない場合(在宅事件)
事案が軽微な場合や、重大事件であっても証拠が薄い場合など、様々な理由から逮捕や勾留を行わず刑事手続を進めることがあります。このような事件を「在宅事件」と呼びます。
在宅事件は、警察による捜査から始まり、その後検察に送致、最終的に検察で公判請求、罰金、不起訴といった終局処分が決定する流れとなっています。在宅で捜査が開始した事件は、捜査がある程度進むと検察に送られます(書類送検)。検察官は、捜査内容を検討し、不足している点があればさらに捜査を行い、被疑者を再度呼んで事情聴取したうえで、正式裁判を請求するか、略式裁判(罰金)を請求するか、あるいは不起訴にするかを決定することになります。
また、軽微な事案では警察が検察に送致しない場合もあります。逮捕されていたものが釈放されて在宅事件になる場合や、当初は在宅で捜査が開始した事件でも、突然逮捕されて身柄事件に切り替わることもあります。
在宅事件であっても、取調べ対応における弁護士の介入の重要性は身柄事件と同じです。むしろ、警察から日にちを指定されて呼び出しがある分、事前に弁護士に相談して取調べ対応の方針を決定しやすいのが特徴です。また、在宅事件における取調べは任意取調べです。本来、被疑者の側に取調べに応じる義務はありません。取調べの途中で取調室を退室することも自由です。そのため、弁護士が同行して取調べの途中で弁護士に相談したり、電話で弁護士に助言を求めたりしてリアルタイムの支援を受けることができます。
起訴・不起訴
勾留期間内で、検察官は被疑者を起訴するか不起訴にするかを決定しなければなりません。
起訴とは、検察官が裁判所に対し特定の刑事事件について審判を求めることをいいますが、公判請求と略式命令請求の2種類があります。
公判請求とは、通常の法廷での裁判を求めることで、略式命令請求とは、通常の公開の法廷での裁判を経ず、検察官が提出する証拠のみを審査して100万円以下の罰金又は科料(千円以上1万円未満の金銭的罰則)を科す簡易な裁判を求めることです。一方で、不起訴となった場合には釈放され、前科が付くことなく社会生活に戻ることができます。
被害者のいる事件で不起訴処分を狙うには、被害者との示談交渉が重要です。示談によって被害者が一定の金銭を受け取り、その代わりに処罰感情が緩和したとなれば、不起訴処分となることが多いからです。多くの事件で当事者同士の交渉というのは困難ですから、弁護士に依頼して示談交渉を行うことが重要なのです。
また、否認事件で嫌疑不十分を理由とする不起訴を狙うには、取調べ対応が重要になってきます。黙秘をして情報を与えない方が良いのか、取調べで供述をしてこちらの言い分を捜査機関に伝えた方が良いのか、言い分を伝えるにしても弁護士の作成した意見書を提出することで足りるのかといったデリケートな判断が必要です。
公判段階
公判段階とは、起訴されたあとから判決宣告までの段階を言います。身柄解放(保釈)手続きや、裁判の流れを解説します。第1回公判から判決までの期間ですが、認めている事件であれば、1回の公判期日で結審し、判決が概ね10日後か2週間後くらいに指定されます。争われている事件では、早くても2、3か月かかり、事案によっては1年以上かかる、長期裁判もあります。
公判段階の弁護活動を行うためには、専門的な知識・経験・技術を必要とします。執行猶予や無罪といった目標とする判決を勝ち取るためには、刑事裁判に精通する弁護士の力が必要不可欠です。
保釈
身柄解放が叶わず、起訴されてしまった場合も、身柄解放できる手段があります。捜査段階では、勾留回避や勾留却下を求め釈放を目指しましたが、起訴後も勾留が続く場合には保釈請求をすることができます。
保釈とは、起訴後に勾留されている被告人を、保釈保証金を納付することによって一旦釈放する手続きを言います。保釈保証金それ自体は、裁判終了時に全額返還されるのが原則です。ただし、保釈の際には、保釈中の住居や外泊について保釈条件が付けられます。保釈条件に違反した場合には、保証金の一部または全部が没取される場合があります。
保釈を獲得するためには、被告人が逃亡したり、罪証を隠滅したりすることがないということを疎明する多くの証拠資料が必要となります。また、事案の性質に応じた証拠の提供によって保釈を認めるべき理由を示し、裁判官を説得する必要もありますので、専門家である弁護士の助力が必要となります。
検察官の証拠開示
いかなる事件であっても、検察官から幅広く証拠の開示を受けることが大切です。検察官は、検察官が公判において裁判所に提出したいと考える証拠(検察官請求証拠)を弁護士に開示する義務があります。しかし、この証拠は、捜査機関が収集して検察官が手元に持っている証拠のごく一部です。検察官が裁判で使う予定のない証拠は、弁護側から証拠開示請求をしなければ開示されません。そして、刑事訴訟法では、通常の刑事裁判の手続において、検察官請求証拠以外の手持ち証拠の開示は検察官の任意とされています。つまり検察官に証拠開示の義務がないのです。
実務上は、検察官が比較的幅広な証拠開示を行っていますが、それでも検察官が手持ち証拠のうちどれだけの証拠を適切に開示しているかは不明です。弁護側に有利な証拠が隠されていたとしても、通常の手続では検察官から開示しないと言われてしまうと打つ手がありません。そこで、公判前整理手続という制度を利用することが大切です。
公判前整理手続では、検察官は弁護士の請求に対して手持ち証拠の一覧表を交付しなければなりません。そして、一定の類型の証拠については、検察官が法廷で使用しないものであっても開示の義務があります。この手続によって弁護側は幅広く証拠開示を受けることができるのです。したがって、執行猶予が確実で少しでも早く裁判を終わらせたい事案ならともかく、実刑か執行猶予かがシビアに争われる事件や、無罪主張の事件では、この公判前整理手続を活用することが重要になります。
証拠の収集・検討と弁護方針の策定
検察官から幅広く証拠を収集できたら、弁護士はこの証拠を丹念に検討していきます。証拠が何十冊ものファイルに渡ることも珍しくありません。記録を読み込んだら、関係者へ改めて事情を聞いたり、現場に赴いたり、別の観点から証拠を収集したりして、捜査機関とは別の観点から情報を収集します。
集めた証拠を依頼人とも共有し、依頼人にも事件に関することをよく思い出してもらい、打ち合わせを重ねます。依頼人の方が証拠を見て新たな重要な事実を思い出すことも珍しくありません。こうした証拠の検討の過程を踏まえて、否認事件であればなぜ依頼人が無罪なのか、あるいは量刑事件であればなぜ依頼人には執行猶予付きの判決が適切なのかを説明する最適な弁護方針を策定します。
法廷での公判手続
通常の事件では、起訴後2か月以内に第1回公判を開き、その後は約1カ月に1回の頻度で公判を行います。公判前整理手続を行った事件では、公判前整理手続の終了後、集中的に公判を実施します。
公判で重要なのは、検察側・弁護側がお互いの主張を紹介する冒頭陳述、検察側・弁護側が請求して採用された証拠の取調べ、証人尋問や被告人質問、検察側・弁護側がお互いの主張を述べて裁判官・裁判員の説得を試みる最終弁論です。特に、冒頭陳述と最終弁論というプレゼンテーションや、証人尋問・被告人質問の際の尋問の技術は、専門的な訓練と経験が必要不可欠です。高度な法廷技術をもって、効果的な弁論や尋問を実施し、裁判官・裁判員に弁護側が求める判決が正しいことを納得してもらう必要があります。
判決宣告
罪を認めて争わない事件の場合、通常1週間前後で判決を言い渡すための裁判が開かれ、判決が言い渡されます。否認事件では、弁論を終結してから判決まで数カ月かかることも珍しくありません。
有罪判決でも執行猶予付きの判決だった場合にはそのまま身柄は釈放されますが、保釈中に有罪の実刑判決を受けた場合はその後拘置所に収容されることになります。判決に不服がある場合には、判決を言い渡された日の翌日から14日以内に控訴を申立てることが可能です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
刑事事件の流れを詳しく解説しました。ご自身やご家族が起こしてしまったことは変えることはできませんが、これからのことは、いくらでも変えることができます。刑事事件での成功には専門家の助けが欠かせません。あなたの権利と未来を守るために、私たちは刑事弁護士として全力を尽くします。