NICDのアルバイトが何故すごいか
NICDでは、十名を超えるアルバイトスタッフがシフト制の下、働いてます。
仕事の内容は、相談電話受付、書類等の裁判所や検察庁へのデリバリー、接客、簡単なリサーチなどです。
この中で、相談電話の受付とその報告が最も重要な仕事で、しかも、将来、法律家となったときに貴重な財産となるような仕事なのです。
法律家の仕事は、
① 法律家の助力を必要としている人の話を聞く
② その話を聞いて相談者が抱えている悩みがどのような紛争なのか、その性質を分析する
③ その紛争は刑事事件なのか(処罰して欲しい、あるいは、逮捕されそう)、民事事件なのか(お金を請求したい、請求されそう)、あるいは、その両方なのかを判断します。
④ 相談者自身、自分の抱えている悩みがどのような性質の紛争なのか分からないことが多いです。刑事なのか民事なのか、行政の問題なのか、それとも単なる人生相談や恋愛相談なのか、職場の不平不満なのか分からないことが多いです。ですから相談者は何とか自分の悩みや要望を伝えようとあらゆる事情を説明しようとします。
⑤ 法律家はその相談者の話を聞いて、「法律家の頭」で、法律要件や法律効果などを考えながら整理していきます。重要でない事情を長々と話しているところを、法律家は、適宜、口を挟んで整理して問題のポイントを確認したり、いったいどのような法律効果を期待しているのか相談者自身の真意に迫ったりして整理していくのです。このような整理なくして相談者が悩みを話すままにしていると、相談は何時間にも及び、結局、どのような解決手段を示せばいいいのか法律家自身分からなくなってしまいます。この「話の整理」が法律家にとってとても重要なのです。
⑥ 弁護士が相談者から話を聞く場合がそうであり、また、検事が警察から相談を受けるときもそうであり、被疑者の取調べをするときもそうなのです。この整理力がなければなりません。裁判官も代理人双方の主張を整理しなければなりません。雑多で未整理である紛争原因に関する複雑な心情や事実関係や背景事情を整理することが、法律家にとって何よりも重要なのです。この整理が上手にできたとき、あとは、適切な法律要件をあてはめ、問題となりうるいつくかの解釈を踏まえ、推定されるいくつかの結論とその結論を導くための法的手段を提示してあげるのです。
⑦ さらに、そのような相談内容をもとに、法律書面を作成して各種の訴訟行為に移っていきますが、そのよう法律書面も争点が的確に把握されたものであって、法律要件事実も過不足なく含まれ、一読して理解できるものでなければなりません。そのためには、「話の整理」がきちんとできていないといけないのです。「話の整理」ができていないまま、法律書面を作成すれば、それは同じ法律家にとっては理解不能で、言ってみれば「出来の悪い法律家」の烙印を押されてしまいます。そのような法律家はこの世には数多くいます。
⑧ 検事もそうです。検事にとって重要な仕事の一つは、取調べです。取調べはまさに「話の整理」をしながら犯罪構成要件該当事実の有無を分析していく作業です。取調べが上手かどうかは「話の整理」ができているかどうかにかかります。そして、取調べの成果を盛り込んだ供述調書が作成されますが、その調書を読めば、「話の整理」がきちんと出来ているかどうかが分かるものです。
このように、「話の整理」が出来れば、法律家の仕事としては9割が完了したと言っていいのです。その能力こそ、法律家の能力なのです。
NICDでのアルバイトの仕事は、もちろん、アルバイトは法律家ではありませんから、法的な助言は絶対にしません。
しかし、上記のような「話の整理」を、極めて短時間のうちに(15分か20分程度)、「法律家の頭」をもって行う、そんな作業なのです。
しかも、NICDでは、そのような相談電話を受けたアルバイトは、弁護士に電話をつなぐ際に、相談内容を手短かに報告しなければなりません。
働き始めの多くのアルバイトは、「話の整理」もできず、その口頭報告もうまくできないので、弁護士、特に、中村に、「何のことかさっぱり分からない。いいから電話代わって」と言われたり、「こうこうこの点を相談者に聞き直して。」とやられてしまいますから意気消沈してしまいます。
また、弁護士不在のときには、メールで相談内容を報告しなければなりません。
「話の整理」ができていない報告メールは見ればすぐに分かります。そんな報告メールに対する弁護士、とくに中村から返ってくる返信は、「意味が分からない。」「結局、何の相談?」といったものが少なくありません。さらに、NICDでは、報告は簡潔的確を求められるので、なかなかうまく文章にできません。ついつい長文メールになってしまうのです。長文メールを書く人は、自分の頭で整理がされていない、もしくは、法律要件を分かっていないのです。
弁護士、とくに中村からの返信は、「このメール、量を5分の1にしてもう一回報告して」とやられてしまいます。
実は、この光景は、大事務所におけるアソシエイトのパートナーに対する報告、あるいは、検察庁における主任検事の決裁官への報告と同じもので、言ってみれば、NICDのアルバイトは、アルバイト代をもらいながらにして、そのような訓練を日々徹底して受けているのです。
このような訓練を積んでいくNICDのアルバイトは、見る見るうちに力をつけていきます。そして、とうとう、弁護士、とくに中村から怒られなくなる、そんな幸せな(?)日がやがて訪れるのです。
NICDでは次々と新しいアルバイトが入ってきますが、みなさん、以上のような試練にぶち当たり、落ち込みます。しかし、訓練を受けた「先輩アルバイト」が指導してくれるのです。中村から怒られて落ち込んでいる新任アルバイトを慰めてくれるのも先輩アルバイトです。中村に怒られなくなるようなコツまで教えてくれます。
やがて、アルバイトの中から司法試験合格者が出ます。
2014年の司法試験で言うと、現職アルバイトないし直近までアルバイトだった方のうち4名が合格し、前年までアルバイトだった方も1名合格したので、合計5名の最終合格者を出しました。
彼らは全員、もはや法律家の土台・原型は、NICDでの訓練で出来上がっているのです。
NICDのアルバイトは、アルバイトであって単なるアルバイトにあらず。言ってみれば、法律家養成塾の塾生なのです。
代表弁護士 中村 勉