アルバイト経験者(KHさん)の司法試験合格体験記
絶望の9月
昨年9月、私の受験番号は法務省の掲示板にありませんでした。曲がりなりにも人生で一番勉強して臨んだ試験でしたから、それなりに自信もありましたし、きっと受かるものだと考えていました。なので、そのショックたるや、帰り道を歩き始めてからその後3日間の記憶が全くないほどでした。
しかし、事前に2回は受けようと決めていた私は、それでも何とか毎日自習室の机に向かいました。もっとも、一人暮らしをしていた私は、生活費を稼がねばならず、飲食のアルバイトで勉強時間がほとんどとれませんでした。
NICDの10月
そんな折、10月に入ってから、友人に声をかけてもらい、NICDでアルバイトをすることになりました。飲食のアルバイトはかなり体力を使うもので勉強時間を削ってしまっていましたし、法律事務所でアルバイトをすれば司法試験にも何かしら役に立つだろうと考えての事でした。
法律事務所のアルバイトは初めてだったので、最初は慣れず苦労しました。まず、ビジネス電話の対応をしたことがありません。相手方から電話を受けるときに「もしもし」と言ってしまい、事務員の方に注意されました。また、裁判所にもほとんど行ったことがありませんから、書類提出先がよく分からず、東京地裁を右往左往しました。
それでも日々の業務をこなす中で、自分が机上でのみ把握していた刑事事件、刑事手続というものが浮かび上がるようになりました。捜査、公判、証拠、判決。捜査段階で弁選を警察署に提出しに行きましたし、私の受けた電話が、先生方が行った準抗告の認容の一報だったこともあります。初めて自分が勉強していたことが現実世界で繰り広げられていることであると認識でき、かつ、早く自分も弁護士になりたいと心から思うようになりました。
勉強の11月、12月、1月、2月、3月、4月
NICDでのアルバイトを始めてからは、勉強に時間が割けるようになり、上記の様にモチベーションも上がったため、勉強のスピードがぐんぐん上がっていきました。
私の浪人中の勉強は、とにかく演習でした。しかも現役時代の様に難しい長文問題集を解くのではなく、短い基礎的な問題集を短期間で回すようにしました。これは、大学の教授に「司法試験は短い問題の組み合わせに過ぎない。逆に言えば、短い問題を正確かつ高速に解けるようにならなくては、司法試験は絶対に解けない」言われたからでした。
その結果、2月の学内模試では5位、4月の全国模試では論文61位、とかなりの好成績を残すことができました。
勝負の、でも実はNICDの5月
司法試験は5月の第2週に5日間(中1日休み)の日程で行われます。二度目の司法試験、会場も昨年と同じでした。ゴールデンウイークを迎えるころには、アルバイトを休み、勉強に励むNICD受験生もいました。
しかし、私は試験直前までNICDのアルバイトに入り続けていました。なぜなら、NICDでアルバイトをすることが、最良の緊張緩和剤だったからです。NICDでは毎日が法律実務です。先生方は本当に困難な課題に毎日毎日直面しておられます。それに比べたら、自分の受けている司法試験など、日本で一番難しい試験だか何だか知りませんが、単なるペーパーテストに過ぎない、そう思えてくるのです(もちろん難しい試験ですが)。
そして迎えた当日。もう迷いはありませんでした。
運命の9月。歓喜の…。
それから4ヶ月経った2015年9月8日16時。私は地元の駅に立っていました。両親に「今年は落ちても受かっていても帰ってきなさい。」そう言われたからでした。その駅まで自分がどうたどり着いたかは今でも思い出せません。それほど緊張というか、雨に誘われた不安が自分を深く包んでいたのだと思います。
スマートフォンを起動し、法務省の「合格者受験番号」を開きます。混雑しているのかすぐには開かず、一度ポケットに入れ、駅をうろうろします。周りには、下校中の高校生が駅に向かっています。受験票が雨にぬれ、慌てて傘をかぶせました。
そして、今一度画面を見ると、5桁の数字が一斉に並んでいました。さぁっーと、目を走らせると、去年は無かった自分の番号が確かにありました。平成27年→試験地:東京都→と確認しましたが、やはりあります。「しゃー!」そんな感じに叫んだあと、すぐに両親、祖母に電話しました。2人とも泣いていました。法曹を志して6年。辛かったのは私だけではありませんでした。
おわりに
9月中旬。試験の成績通知書が送られてきます。私の昨年の刑事系は200点満点中の76点。まさに私にとどめを刺した系統でした。一方、今年の点数は、111点。
35点。これはNICDにお世話にならなければ上げられなかった点数だと思います。ボス・小島先生、各先生方、スタッフの方々には経済的にも、精神的にも(壮行会ありがとうございました!)、本当にお世話になりました。
ありがとうございました。そして、これからもよろしくお願い致します。