被疑者と被害者が連絡を取り合う関係にあった事案、あるいは共犯者がいる事案ですと、ほとんどの場合、携帯電話が押収され、捜査機関にLINE、メール、チャットのやり取り等のデータをチェックされます。
それでは、LINE、メール、チャットのやり取りは刑事事件の証拠となるのでしょうか。以下、代表弁護士・中村勉が解説します。
刑事事件における証拠と種類
刑事事件における証拠は、大きく分けて以下の3種類があります。
- 書証
- 物証(証拠物)
- 人証
書証は、その名のとおり、証拠が書面の形をとるものをいいます。もっとも、脅迫や詐欺に使用された文書やメモ等、書面の内容よりかは、その書面の形状等に着目されるものについては証拠物として扱われることがあります。
証拠物は、物の存在・形状・性質が証拠となるものをいいます。犯罪に使われた凶器や薬物事案で言えば被告人が所持していた薬物そのものなどが証拠物に当たります。また、先述したように書面が証拠物として扱われることもあります。
人証は、口頭で証拠を提供する人のことをいいます。例えば、裁判で被害者や関係者の証人尋問を行う場合には、この被害者や関係者のことを人証と呼びます。
証拠の条件とは
大前提として、事件と関係するものであり、それを取り調べることが無意味とならない程度に事件に関する事実を証明する力を最低限有していることが必要です(自然的関連性の要件)。
そして、刑事訴訟法上や判例上、証拠能力が認められることが必要です(法律的関連性の要件及び証拠禁止非該当性の要件)。
特に、刑事訴訟法では、供述を内容とする証拠の取り扱いにつき、厳格なルールが定められており、書面については、原則として相手方の同意がない限り、証拠能力が否定されることとなっています(伝聞法則、第326条1項)。
これは、人の供述は、通常、知覚→記憶→表現→叙述という過程を経ており、各過程において誤りが混入するおそれがあるため、基本的に公判廷において供述してもらい、各過程に誤りが混入していないか、供述内容が真実であるかを供述者に対する尋問や供述者の供述態度の観察により吟味すべきと考えられているからです。
刑事訴訟法第320条1項
第三百二十一条乃至第三百二十八条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。
刑事訴訟法第326条1項
検察官及び被告人が証拠とすることに同意した書面又は供述は、その書面が作成され又は供述のされたときの情況を考慮し相当と認めるときに限り、第三百二十一条乃至前条の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
もっとも、書面が作成された状況や書面の作成者、書面の性質等によっては、その内容の真実性が一定程度確保されているといえるため、例外的に証拠能力が認められる書面もあります(伝聞例外)。
刑事訴訟法第321条
被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。
一 裁判官の面前(第百五十七条の六第一項及び第二項に規定する方法による場合を含む。)における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は供述者が公判準備若しくは公判期日において前の供述と異なつた供述をしたとき。
二 検察官の面前における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異なつた供述をしたとき。ただし、公判準備又は公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するときに限る。
三 前二号に掲げる書面以外の書面については、供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明又は国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができず、かつ、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるとき。ただし、その供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限る。
2 被告人以外の者の公判準備若しくは公判期日における供述を録取した書面又は裁判所若しくは裁判官の検証の結果を記載した書面は、前項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
3 検察官、検察事務官又は司法警察職員の検証の結果を記載した書面は、その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、第一項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
4 鑑定の経過及び結果を記載した書面で鑑定人の作成したものについても、前項と同様である。
刑事訴訟法第321条の2
被告事件の公判準備若しくは公判期日における手続以外の刑事手続又は他の事件の刑事手続において第百五十七条の六第一項又は第二項に規定する方法によりされた証人の尋問及び供述並びにその状況を記録した記録媒体がその一部とされた調書は、前条第一項の規定にかかわらず、証拠とすることができる。この場合において、裁判所は、その調書を取り調べた後、訴訟関係人に対し、その供述者を証人として尋問する機会を与えなければならない。
2 前項の規定により調書を取り調べる場合においては、第三百五条第五項ただし書の規定は、適用しない。
3 第一項の規定により取り調べられた調書に記録された証人の供述は、第二百九十五条第一項前段並びに前条第一項第一号及び第二号の適用については、被告事件の公判期日においてされたものとみなす。
刑事訴訟法第322条
被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき、又は特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り、これを証拠とすることができる。但し、被告人に不利益な事実の承認を内容とする書面は、その承認が自白でない場合においても、第三百十九条の規定に準じ、任意にされたものでない疑があると認めるときは、これを証拠とすることができない。
2 被告人の公判準備又は公判期日における供述を録取した書面は、その供述が任意にされたものであると認めるときに限り、これを証拠とすることができる。
刑事訴訟法第323条
前三条に掲げる書面以外の書面は、次に掲げるものに限り、これを証拠とすることができる。
一 戸籍謄本、公正証書謄本その他公務員(外国の公務員を含む。)がその職務上証明することができる事実についてその公務員の作成した書面
二 商業帳簿、航海日誌その他業務の通常の過程において作成された書面
三 前二号に掲げるものの外特に信用すべき情況の下に作成された書面
なお、公判廷での証人の証言の中には、証人が直接見聞きした内容ではなく、他人から聞いた内容を供述しているものが時々あります。この他人から聞いた内容の真実性を吟味するには、本来、その他人にも公判廷に来てもらい、当該内容を話してもらう必要がありますから、証人の証言の中の上記部分も、書面と同様に伝聞証拠として証拠能力が否定されます(刑事訴訟法第320条1項)。もっとも、この場合にも、上記伝聞例外の適用があることがあります(刑事訴訟法第324条)。
刑事訴訟法第324条
被告人以外の者の公判準備又は公判期日における供述で被告人の供述をその内容とするものについては、第三百二十二条の規定を準用する。
2 被告人以外の者の公判準備又は公判期日における供述で被告人以外の者の供述をその内容とするものについては、第三百二十一条第一項第三号の規定を準用する。
LINE、メール、チャットのやりとりは刑事事件の証拠となるか
結論から申し上げますと、LINE、メール、チャットのやりとりも刑事事件の証拠となり得ます。
いずれもそのままでは電子的な記録ですが、ほとんどの場合、捜査機関によって当該やりとりを表示した携帯電話の画面を写真撮影され、あるいは、当該やりとりのデータを抽出されて紙に出力(プリントアウト)された上、捜査報告書(写真撮影報告書や携帯電話解析結果報告書といったタイトルが付されることもあります。)という書面に添付されます。
書面ですので、たしかに、先程述べた書面に関する刑事訴訟法上の厳格なルールの問題が出てきます。
しかしながら、このような捜査報告書等は、捜査機関による検証の結果を記載した書面と同じ性質を有するとして、刑事訴訟法第321条3項の伝聞例外が適用され、当該報告書等を作成した捜査官が公判期日において真正に作成したことを証言すれば、証拠とすることができるとされています。
そのこともあり、実務上は、このような捜査報告書等につき弁護側が不同意の意見を述べても、上記伝聞例外が適用されていずれ証拠として採用されてしまうことを見越して、弁護側が最初から同意の意見を述べることもあります。
なお、LINE、メール、チャットのやり取りが添付された捜査報告書等が証拠として採用されたとしても、当該メッセージを送ったのは自分ではない、他の人が自分の携帯電話を操作して送ったのだ、といった主張をすることも考えられます。しかし、当該メッセージの前後のやりとりの内容や、メッセージが送られた時間、携帯電話の使用状況、その他の状況証拠も参照されますので、そのような主張を認めてもらうことは、よほどの事情がない限り、厳しいのが現実でしょう。
メッセージの内容の真実性が問題となる場合には、公判廷にて当該メッセージの送信者から直接話を聞くべきこととなり、当該メッセージは伝聞証拠として伝聞法則の適用を受けます。しかし、多くの場合、そのようなメッセージが送られた事実自体が重視され、当該事実から十分にメッセージ送信者の意図や背景事実等が推認されますので、伝聞証拠であるとの主張は通りにくいのが現実です。
LINE、メール、チャットのやりとりが自分にとって有利な場合もあります。その場合には、弁護人において、そのやりとりの写真撮影報告書を作成して証拠請求することも考えられますが、弁護人は捜査機関ではないので刑事訴訟法第321条3項の伝聞例外の適用がなく、検察官が同意しなければ証拠として採用してもらうことが難しくなります。
もっとも、弁護人において入手できるようなLINE、メール、チャットのやりとりは捜査機関においてもすでに入手していることが多く、検察官が証拠調べ請求していなくても、そのやりとりが添付された捜査報告書等自体は存在している可能性があります。最近は、検察官も任意の証拠開示請求にも応じてくれるようになっていますので、そのような捜査報告書等も請求すれば開示してもらえる可能性があります。そして、内容精査の上、それを弁護側に有利な証拠として使いたいと考えれば、それを証拠調べ請求すれば、当該書面自体は捜査機関が作成したものであるため、検察官が同意意見を述べてくれる可能性は比較的高いといえます。
LINE、メール、チャットの証拠としての効力
やはり、文字でのやり取りが機械的に保存されている証拠ですので、口頭でのやり取りについて人の記憶に基づき証言してもらう場合と比べて、信用性が高く、有利にも不利にも強力な証拠となり得ます。
したがって、弁護士はLINE、メール、チャットのやりとりにもすべて目を通し、適切な弁護方針を立てる必要があります。
弊所が取り扱った事件の中にも、LINEが身の潔白を示す強力な証拠となった事案があります。
LINE、メール、チャットが証拠となりうる事案
冒頭でも述べましたが、被疑者と被害者が連絡を取り合う関係にあった事案や共犯者がいる事案では、LINE、メール、チャットが証拠となり得ます。
例えば、友人を被害者とする強制性交等の事案について、実際の強制性交等の行為を目撃した人や、その行為を映した映像、画像等がなくても、事件後、被害者や関係者とのやり取りの中で、被疑者が強制性交等の行為を認めるような発言をしていた場合には、それが証拠として使われる可能性は高いでしょう。
例えば、振り込め詐欺の受け子が故意を否認している事案において、共犯者とのLINEのやりとりにおいて明らかに詐欺に加担している認識があるような内容のメッセージを送っていた場合、それも証拠として使われるでしょう。大麻の有償譲渡の事案でも、大麻をいつ、どこで渡すと言った内容や、金額についての譲渡人・譲受人間のLINEのやり取り等が残っていれば、それも証拠として使われます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
LINE、メール、チャットのやりとりは刑事事件においても有力な証拠となり得ます。内容によって自分にとって有利にも不利にもなり得ますから、事件関係のやりとりが残っている場合には弁護士と共にきちんと内容を精査して対策を練りましょう。