突然ですが、あなたは「勾留」と「拘留」の違いを説明できますか。
ちなみに「勾留」は「かぎこうりゅう」、「拘留」は「てこうりゅう」と呼んで区別することがあります。因みに新聞報道などで「拘置」という言葉を使うことがあります。マスコミ用語です。この「拘置」は「勾留」のことを意味します。法律用語の「拘留」とは違います。覚えておくと役立つかもしれません。
以下、法律用語としての「勾留」と「拘留」の違いについて、代表弁護士・中村勉が解説してまいります。
「勾留」とは何か
「勾留」された場合の手続について
勾留とは、逮捕された被疑者あるいは被告人の逃亡や証拠の隠蔽を防ぐために、刑事施設に留置して身柄を拘束することを言います。つまり、「勾留」それ自体は刑罰ではないのです。
逮捕後、最大48時間以内に警察官は検察官へ送致する手続きを行います。更にそこから24時間以内に検察官は、被疑者を引続き留置場で身体拘束(勾留)するのか、釈放するのかの判断をします。ここで検察官が引続き被疑者を勾留すると決めた場合、検察官は裁判官に対して「勾留請求」を行います。その勾留請求が認められた場合、被疑者は10日間、引続き勾留されることとなります。続いて検察官が勾留延長請求を行い、これも認められた場合、更に最大で10日間勾留されることとなります。逮捕され、勾留されることによって、最大で23日間も身柄を拘束されることとなってしまうのです。
なぜ逮捕だけでなく、勾留する必要があるのか
逮捕されると警察による取調べや捜査が行われますが、逮捕の身柄拘束期間は48時間と法定されており、48時間以内に警察は釈放するか、検察庁に事件を送致するかを判断します。逮捕後に検察庁に事件を身柄付きで送致するということはもっと長く拘束して欲しいという警察の意思表示です。48時間で被疑者を釈放してしまった場合、逃亡や証拠隠滅を図る可能性があると警察は考えるのです。
一方で、警察は48時間以内に被疑者を釈放し、書類だけ検察庁に送ることがあります。逮捕後48時間以内であれば、警察に釈放権限があるのです。
例えば、交通事故、特に死亡事故などでは多くは被疑者を逮捕しますが、48時間以内に釈放して、在宅捜査扱いとし、十分に捜査を尽くした後で事件を書類送検するのが一般的です。なぜかというと、交通事故は事故原因を解明するのに時間を要し、実況見分や鑑定、さらに目撃者探しなどで数か月かかることもあって、検察官に勾留請求してもらい、20日間、身柄拘束してもらったところで、到底、20日以内に捜査を終結できず、結局、検察官も起訴不起訴を決定できずに勾留満期に被疑者を釈放して、捜査が完了した時点で改めて起訴不起訴を判断しなければならないからです。
「拘留」とは何か
「勾留」と「拘留」の違い
拘留とは、日本の刑罰の一種を指します。その内容は、「1日以上30日未満」の一定期間、刑事施設に収監するというものです。刑事施設とは、法務省が管轄する刑務所や拘置所、または警察が管理する留置場のことです。
拘留は刑法第9条に、その内容については刑法第16条に定められています。
刑法第九条
死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。刑法第十六条
拘留は、一日以上三十日未満とし、刑事施設に拘置する。
更に詳しく言うと、拘留は「自由刑」の一種となります。ここでまた見慣れない単語が出て来ましたね。
自由刑とは、罪を犯した者の身柄を拘束することを内容とする刑罰です。現在の法律で自由刑は、懲役、禁錮、拘留の3種類となっています。懲役、禁錮、拘留の順で重くなっており、自由刑のうち最も拘束期間が短いものが拘留です。
しかし、拘留を執行猶予とすることはできないため、必ず実刑となります。懲役や禁錮には執行猶予と付することができます。また、懲役とは異なり作業を強いられることはありませんが、受刑者の申出によっては作業を認められることがあります。
ちなみに自由刑は、罪を犯した者の生命を奪う「死刑」、金銭を奪う「財産刑」等と区別されます。他にも鞭打ち等で身体を傷つける「身体刑」、名誉や社会的地位を奪う「名誉刑」が他国には存在しますが、現在の日本には存在していません。
刑罰として拘留が存在する罪名の例
一般的に、各種法令の軽微な違反に対する罰則に多く定められています。例えば、以下が例となります。
- 公然わいせつ罪(刑法174条)
- 暴行罪(刑法208条)
- 侮辱罪(刑法231条)
- 軽犯罪法違反
- 酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律 4条違反
上記で述べた例のほか、法令の軽微な違反に対する罰則規定に多くなっています。
拘留の科刑状況について
拘留の科刑件数は、近年では年に数名程度となっており、年間数百から数十万件と出ている他の判決に比べて非常に少ないです。一体何故でしょうか。
拘留判決が少ない理由として、「拘留の期間が短いこと(1日以上30日未満) 」や判決前である「勾留期間も拘留の対象期間に含まれること」が考えられます。
逮捕されてから起訴に至るまで最大で23日がかかります。更に、起訴された後から裁判まで大体1ヵ月程かかります。このように、裁判前の時点で既に29日以上勾留されている場合、拘留判決とはならないのです。
ちなみに、戦前における拘留判決は年間400件程度もありました。当時は微罪に対して裁判を行うことなく拘留判決を下すことができたため、拘留は非常に多用される刑罰となっていたのです。しかし、戦後は減少の傾向にあり、現在に至ります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。「勾留」と「拘留」、一見似通っているようで意味合いは異なっていましたね。
簡単におさらいしますと、勾留は逮捕後における一定期間の身柄拘束のこと、拘留は一定期間刑務施設に収監するという刑罰の一種です。
また、拘留の受刑者は他の刑罰と比べると非常に少なく、比較的軽微な罰則に定められていることもわかりました。拘留が比較的珍しい刑罰である理由の1つとして、勾留が関わっていましたね。
詳しく説明してまいりましたが、恐らく日常生活ではあまり使われないので、「勾留は刑罰ではない、拘留は刑罰」と認識しておく程度でも良いと思います。この記事を一通り読んだ方は、勾留と拘留の違いの説明に頭を抱えることは恐らくないでしょう。