この記事では、DVの中でも、特に配偶者間、恋人間のDVに着目し、解説していきます。
本コラムは弁護士・高田早紀が執筆いたしました。
DVとは?
DVとは、「ドメスティック・バイオレンス(domestic violence)」を略した言い方です。日本では、DVとは、配偶者や元配偶者、恋人等、一定以上の親密な関係がある相手や生活を共にする相手から振るわれる暴力という意味で多く使用されます。
昨今、新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴う外出自粛や飲食店の休業等によって、家庭内で過ごす時間が増えています。今までとは違った生活様式により、生活への不安やストレスが増加し、これに伴うDVの件数増加や深刻化が懸念されています。
数字として見てみても、コロナ禍におけるDV相談事件数は増加しています。配偶者からの暴力事案等の相談件数は、警察庁の発表によると、令和3年度は約8万3000件です。この数字は、DV防止法が施行されて以来、過去最多の件数を記録しました。また、内閣府男女共同参画局によると、令和2年度には、約19万件の相談が相談窓口へ寄せられました。この数字は、前年比約1.6倍の数値になります。
DVに刑法は適用されないのか
例えば、夫が妻を殴って怪我をさせてしまったとしても、家庭内暴力、つまり家庭内での問題である以上、警察は介入せず、夫は逮捕されたり取調べを受けたりすることはないと思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、配偶者間や恋人間での暴力事件であるからと言って、警察が介入しないということはないのです。
確かに、刑法には、親族間における窃盗(刑法第244条1項、同第235条)など、一部の犯罪行為については、罰しないという特例があります。しかし、暴力に関する犯罪については、そのような特例はないのです。つまり、家庭内暴力であっても、暴行罪や傷害罪が成立するなどして事件性があると判断されれば、家庭内での問題にとどまらず、捜査機関の介入を受け、当事者が逮捕されることや、取調べを受けるなど、刑事手続に乗ることになります。
DV防止法とは
配偶者からの暴力の増加が懸念されることを背景とし、平成13年には、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(「配偶者暴力防止法」、いわゆる「DV防止法」)が施行されました。この法律は、配偶者からの暴力に係る通報、相談、保護、自立支援等の体制を整備し、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図るためのものです。
DV防止法において保護される被害者は、婚姻関係にある「配偶者」はもちろん、婚姻の届出をしていない「事実婚」、あるいは、離婚ないし事実上離婚したのと同様の状態にある者も含まれます(DV防止法1条)。また、被害者は男性、女性いずれを問いません。
配偶者から身体に対する暴力を受けた被害者や、生命等に対する脅迫を受けた被害者が、裁判所に申し立てた場合、裁判所の判断で保護命令が出ることがあります(DV防止法10条)。保護命令には、6か月間の被害者への接近禁止(接近禁止命令)や、2か月間の住居から退去を命じるもの(退去命令)もあります。裁判所から出された保護命令に違反した者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられます(DV防止法29条)。
なお、事前に配偶者暴力相談支援センターや警察にDV被害の相談をしているなど、相談実績がある場合には、裁判所からの保護命令が出やすくなることがあります。
DV事件の相談窓口
現在、警察以外にも、DVの増加・深刻化を懸念する行政や民間団体によって、多くのDVに関する支援窓口が設置されています。例えば、配偶者暴力相談支援センター、婦人相談所等があります。どの窓口に相談すればいいかわからない方のために、DV相談ナビ(#8008)も用意されています。
DV被害にあわれて苦しい思いをされている方は、是非一度、窓口への相談を検討されてはいかがでしょうか。
DV事件で逮捕されたら
DV事件の逮捕のきっかけとしては、まさに暴力を振るわれているときに、被害者や親族、近隣住民等からの110番通報による現行犯逮捕が考えられます。
また、事後的に、被害者や、被害者から相談を受けた方、あるいはDVを目撃した方等が、警察に被害を申告し、捜査が進められた後の通常逮捕の場合などが考えられます。加害者と被害者が、配偶者関係にあるからといって、逮捕されない理由にはなりません。
逮捕された場合には、逮捕者の身柄が、48時間以内に警察署から検察庁に送致されます。検察官が引き続き身体拘束する必要があると判断した場合には、身柄が送られたときから24時間以内に裁判所に対して勾留請求がされます。裁判所によって検察官の勾留請求が認められ、勾留決定がなされると、最長20日間にわたる勾留がなされることになります。最長20日間も身体拘束を受けることになれば、会社に行けなくなるなど、日常的な不利益が大きく、その後の生活にも大きな影響を与えます。
このように、逮捕されてから勾留決定がされるまでには、厳格な時間制限があります。厳格な時間制限の中で、身体拘束からの解放を目指すためには迅速な弁護活動が要求されます。
一般に、DV事件は、被害者と加害者が一緒に住んでいたり、金銭的な依存関係があったりするなど、当事者同士に深い関係性がある場合がほとんどです。このため、街中で偶然出会った人とけんかした場合等、被害者と加害者との関係性が薄い事件とは異なる、DV事件の特殊性を理解した弁護活動が必要です。
例えば、『令和3年度警察白書』によると、配偶者からの暴力事案等について、「加害者の被害者に対する執着心や支配意識が非常に強いものが多く、加害者が、被害者等に対して強い危害意思を有している場合には、検挙されることを顧みず大胆な犯行に及ぶこともあるなど、事態が急展開して重大事件に発展するおそれが大きいもの」とされています。検察官や裁判官も、DV事件の身体拘束を判断するに当たっては、このような事情を考慮することが考えられます。
そのため、身体拘束からの解放を目指すには、加害者が被害者に接触しないよう、生活環境の調整を図ることが必要不可欠といえます。
中には、被害者が加害者の逮捕までを望んでいない場合もあります。
例えば、被害者が「被害の悪化を防ぐために一度警察から加害者に対し注意してほしい」と考えていただけの場合や、今後どうするかはさておき、配偶者が犯罪者として身体拘束されるような状況を避けたいという場合もあります。この場合には、環境調整に加えて、被害者の意向を適切に検察官や裁判官に伝え、身体拘束からの解放を目指す必要があります。
残念ながら、身体拘束が継続してしまった場合にも、弁護士が被害者との間で示談を成立させたり、引き続き今後の生活環境の調整を行ったりといった活動を行い、身体拘束からの解放や不起訴処分を目指すことが必要です。
ご家族が急に逮捕されてしまったら、今後の生活はどうなるのか、家族はいつ帰ってくるのかなど、先が見えずご不安な思いをされることと思います。現状から少しでもより良い方向に進むため、そして、一日も早く、日常生活を取り戻すため、なるべく早い段階で弁護士に相談することをお勧めします。
DV事件で警察に呼び出されたら
DV事件で警察から呼び出しがあった場合、「単に一回注意を受けるだけで終わるだろう」と安易な見通しを持つのは危険です。今後も呼び出しが続いて、逮捕されてしまったり、起訴されてしまうリスクも十分にあります。この場合にも、被害者との示談交渉を行ったり、生活環境の調整を行ったりして、逮捕可能性を下げたり、不起訴処分を目指すことが必要です。
ご自身やご家族が警察からの呼び出しを受けた場合にも、早めに弁護士に相談することをお勧めします。取調べではどのように対応をすべきか、早期解決のためにどのようなことをすべきか、私たち弁護士と一緒に考えていきましょう。
まとめ
DV事件は、当事者同士に深い関係性があることも多く、当事者同士では冷静な対応をすることが難しい場合もあります。被害者との示談交渉や、生活環境の調整には、第三者である弁護士の介入が必要不可欠です。また、DV事件について経験豊富な弁護士に相談することで、事件の早期解決を目指すことができます。
DV事件で家族が逮捕されてしまった、DV事件に心当たりがある、などの方は、私たち弁護士にご相談ください。
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