国選ではなく、私選で刑事弁護士を選任する際には、様々な側面から慎重に検討を加えるべきです。
刑事事件で捜査を受け、逮捕されると、どうしても不安な気持ちから焦りが先行してしまい、十分に検討することもせずに、藁をもつかむ思いでサイト情報やネット広告などに飛びついてしまい、後で後悔することが少なくありません。今では、GoogleやYahooもサイト内容をよく分析してSEO順位に反映させる傾向が強まっていますが、それでもSEO対策と称してテクニックだけで上位表示を狙っているサイトも少なくありません。
そこで、良い刑事弁護士をどのようにして選ぶかについて、参考までにご紹介します。そのポイントは大きく言って5つあります。
- 弁護士の能力
- やる気
- 事案に即した選任
- 弁護士費用
- 広告に騙されない
弁護士の能力を試す20の質問
刑事弁護士を選任する際に一番注意すべき点は、その弁護士が刑事弁護士として能力経験を備えているかどうかです。決して安くはない報酬を支払って刑事弁護士をつけるわけですから、刑事弁護士としての高い能力が備わっていて、依頼人の利益のためのその能力をいかんなく発揮してくれるか弁護士であるかどうかを見極めることが重要です。刑事弁護士としての能力を試す方法として、その弁護士に次の質問をしてみて下さい。
- この事件では逮捕はあり得ますか
- 逮捕されるとしたらいつ頃になりますか
- 逮捕されないためにはどうすればいいですか
- 逮捕された場合、報道されますか
- 会社には逮捕されたことが知られてしまいますか
- 親には知られてしまいますか
- 家の捜索もされるのですか
- 逮捕された後、いつ釈放されますか
- 勾留はつくのですか
- 勾留決定に対して不服申し立て(準抗告)をした場合、勝てますか
- 10日間の勾留が決定したら必ず10日間いっぱい勾留されるのですか、途中で釈放されないのですか、また、勾留延長にはなりますか
- 家族は本人にいつ会えますか
- 示談の見通しはどうですか
- 示談金はいくらくらいでしょうか
- 法外な示談金を求められたら払わないといけないのでしょうか
- 保釈は認められますか
- 保釈金はいくら位になりますか、保釈金の立替制度はありますか
- どのような弁護方針で公判を闘ってくれますか
- 起訴された場合、実刑ですか、それとも執行猶予がつきますか、仮に実刑としたら何年くらいになりますか
- 略式罰金刑の可能性もあるのでしょうか
こういった質問に対して、淀みなく自信をもって答え、わかりやすく説明してくれる弁護士かどうかが、私選弁護士を選ぶ第1のポイントになります。一言でいえば、事件に対する見通しを、手続きの流れの中で瞬時に分析し、判断できる能力が刑事事件を扱う弁護士には求められるのです。
そして、この能力は司法試験受験時代の知識で培われるのではなく、日常的に刑事事件を扱うことで経験として培われていくものなのです。刑事事件の取扱件数が少なく、経験のない弁護士は、この20の質問に対して明確に答えることはできません。
刑事弁護のやる気を見極める10のチェックポイント
休日にも動く、フットワークの軽い弁護士か
次に、刑事弁護士としての経験や能力が備わっていたとしても、とても忙しくて連絡がとれない弁護士や、先入観から最初から有罪であると疑って弁護活動をしようとする弁護士は避けるべきです。フットワークが軽く、熱心で、情熱的な弁護士を選ぶべきです。
特に迅速に動いてくれる弁護士かどうかは重要です。時間が勝負といわれる刑事事件において、弁護士の対応を待たなければならないということになれば取り返しのつかない事態になる可能性があるからです。
ヤメ検なら誰でもいいか
弁護士のなかには、検察官として活躍した後、弁護士に転職した人もいます(いわゆる「ヤメ検」)。ヤメ検弁護士は、被疑者を起訴する側の検察官の経験から、起訴を回避するためにはどうすべきかといった刑事弁護のノウハウも熟知していますので、刑事事件を扱う能力があることは間違いありませんが、「やる気」という意味では注意すべき点もあります。元検事出身の大物弁護士であっても迅速に動いてくれない弁護士かもしれません。連絡することさえ敷居が高かったり、忙しくてなかなか相談に乗ってくれなかったり、あるいは、依頼者に対して上から目線の高飛車な弁護士は避けるべきでしょう。ヤメ検だからと言って、一生懸命あなたを守ってくれるとは限らないのです。
あなたや家族のために全力で弁護してくれるか
あなたが選んだ弁護士は、被疑者・被告人やその家族の意向を無視するような弁護士であってはいけません。弁護方針が異なるなら、弁護士は依頼者に対して何故その弁護方針が依頼者の最大の利益となるのかを説明する責任があります。
保釈を積極的に取らない、準抗告等の必要な不服申立てを行わない、検事や裁判官と面会してくれない、現場を検証する積極性がない、本人に接見しても家族とは連絡を取らない、取調べに対するアドバイスがないといった弁護士は、論外です。一度、弁護士に依頼し、着手金を払ってしまうと、心情的になかなかその弁護士を変更しにくくなります。ですから、最初に弁護士を選ぶ際に慎重に弁護士を吟味することが大切なのです。
「やる気度」をテストしてみよう
こうした弁護士の「やる気」を図るには、法律相談などで直接弁護士に会い、相談してみるのが一番です。その際に、次の質問をしてみてください。
- 自首したいのですが、一緒に警察署に行ってくれますか
- 今すぐ本人に接見に行っていただけますか
- だいたいどれくらいの頻度で接見に行ってくれますか
- 勾留されないように、検事や裁判官と面接してくれますか
- 勾留された場合、不服申し立てをしてくれますか
- 先生への連絡はいつしてもいいですか、先生の携帯電話番号を教えていただけますか
- 保釈請求は起訴当日にしていただけますか
- 保釈請求の際に裁判官に面接してくれますか
- 公判準備の打ち合わせは何回くらいになりますか
以上のような質問に対し、嫌そうな顔をしたり、言葉に詰まっている弁護士は、依頼者のためにフットワークよく動いてくれるかどうか不安があります。
事案に即した弁護士選任を
刑事事件には様々な事案があります。痴漢や盗撮といった比較的軽微な条例違反、示談交渉が必須の性犯罪事案や暴行・傷害・器物損壊といった事案、法廷での高度な尋問技術が求められる否認事件、さらに、重大事案、例えば、裁判員裁判事案や特捜部事案、そして特殊な外国人事案などです。
比較的軽微な事件では
痴漢・盗撮、暴行・傷害事件などの比較的軽微な事案では、若手弁護士や普段民事事件を中心に扱っている弁護士であっても適正に処理できると思いますので、選任のポイントは、経験よりも迅速性・スピードにあります。特に逮捕されている場合には、すぐ接見等の活動に入ってくれる弁護士を選ぶべきです。
不同意わいせつ等の性犯罪事件では
難しい示談交渉が求められる不同意性交等(旧 強制性交等)、不同意わいせつ(旧 強制わいせつ)などの重大性犯罪事件では、示談交渉能力の高い弁護士を選ぶべきでしょう。そのために、依頼者の方々の感謝の声などを参考にするのも良いかもしれません。
否認事件では
否認事件は、法廷での高度な尋問技術が求められます。法廷立会経験が豊富か、無罪獲得実績があるか、事務所内で尋問技術の研修等を実施しているかがポイントになります。
裁判員裁判事件では
裁判員裁判事件は、手続が複雑なうえ、法廷パフォーマンスも求められるので、経験の少ない若手弁護士ではハンドリングが難しいでしょう。
裁判員裁判の経験豊富な弁護士を選ぶべきです。裁判員裁判を扱った件数は何件かなど、率直に質問してみるといいでしょう。
特捜事件では
特捜事件は、特捜部の捜査戦略の特色を知り尽くしている元特捜検事の弁護士が適任です。特捜部は、通常の事件が警察から送致されるのと異なり、最初から特捜部が警察の手を借りずに独自に捜査を進める点で特殊です。
「敵を知り」の諺どおり、特捜部の捜査手法の特色を知り、その捜査のどこに落とし穴があるかを知らずして効果的な弁護はできません。特捜部に入る検事は、概ね任官5年以上のベテラン検事で、検察組織の中でも特に優秀な検事が選抜され特捜入りを果たします。これと対等に渡り合える弁護士はそう多くはありません。元特捜部に在席した経験のある弁護士が適任でしょう。
外国人事件では
外国人事件は、英語力があることは必須です。刑事事件では迅速性がなによりも求められます。通訳を探している時間的余裕はないのです。通訳人無しでも接見に急行できるバイリンガルかそれに近い弁護士を選ぶべきでしょう。また、入管手続や在留資格に関する知識も必須です。
ネット広告に騙されないために
昨今、インターネット等で法律事務所を検索すると様々な広告が出てきますが、インターネットの情報はすべてが正確ではありませんので、それら全てを鵜呑みにすべきではありません。広告等は参考までにし、実際に事務所を訪問したうえで、その事務所に依頼するかどうかを判断すべきです。
インターネットのサイト情報で注目すべきは、次の6点です。
本当に刑事に強い事務所か
ネット広告で特に注意すべき点は、刑事事件専門を広告でうたっていながら、実は、刑事事件専門ではなく、債務整理等の民事事件を中心に扱っている事務所であって、単に、インターネットマーケティング戦略として、「債務整理」、「債権回収」、「離婚相続」、「交通事故」といった各分野の専用サイトをそれぞれ持っているに過ぎない法律事務所が多いということです。
これは、例えば、「刑事事件専門」などというキーワードではなく、その法律事務所名で検索してみると一目瞭然です。本当に強いかどうかを見極めることが大切です。
弁護士数がある程度揃っているか
弁護士数が一人しかいない法律事務所では、ネット検索上では上位にあっても、依頼殺到で一人では処理切れずにオーバーワークとなって弁護活動の質が落ちている可能性があります。また、一人の弁護士事務所では、預り金等の処理に関して相互チェックが機能しないという点でも不安があります。
所属弁護士の経験年数が分かるか
弁護士登録したての若手のみで構成される法律事務所のサイトの中には、所属弁護士の弁護士登録年月日や出身校などが明示されていないサイトがあります。これは、依頼者に、弁護士になってわずか1年目の弁護士ということが分からないようにするという戦略上、そのようにしているケースがあります。
弁護士は経験がものを言いますので、経験年数は弁護士選定の重要な情報です。
サイトのデザインに騙されるな
サイトを見ると、写真やデザインが立派で、いかにも一流法律事務所のような印象を与えるものがありますが、それはサイトデザイン上のことで、実際の法律事務所がどのような事務所なのか、どのような弁護士なのかはサイトを見ただけではわからないものです。
やはり、一度、法律事務所を訪問してその様子を自分の目で見ることが大切です。また、弁護士の中には、事務所を構える資金力がなく、収入に窮して自宅を事務所代わりにしている弁護士もいますが、そのような弁護士に依頼すると、不当に高額な弁護士報酬を請求されるのではないか不安があるかもしれません。事務所所在地がオフィス街か住宅街かも良い弁護士か見極めのためのひとつのポイントです。
実績数や依頼者の口コミ
いくらWEB検索の上位に位置する法律事務所でも、それがSEO対策の効果であって、弁護士の質を示すものではないことがよくあります。特に、弁護士に登録したばかりの弁護士は、当然のことながら実績が豊富ではなく、サイト情報の中にも実績を明示していない法律事務所があります。不起訴件数が多い、執行猶予件数が多い、無罪経験があるといった実績は、刑事事件の専門性を判断する有力な情報です。
また、実際に依頼した方の感謝の声を読んでみることもお勧めします。感謝の声の中にこそ、その法律事務所の真の姿が反映されているからです。刑事事件の解決実績・相談件数が多い法律事務所は刑事事件に強いといえます。そのため、弁護士を選任する際にこれらの実績を参考にするべきです。
弁護士報酬基準を明示しているか
報酬基準が下限のみ明示されていて、上限が明示されていない(例えば、50万円~)といった法律事務所もありますので、やはり実際に電話をしたり、法律相談をするなどして確かめる必要があります。