微罪処分とは、犯してしまった罪が軽微である場合に限り検察官に送致せず警察だけで処理する手続を指しています。
日本の刑事手続では、警察が認知した事件の「全件送致」が基本となっています(刑事訴訟法 第246条)。
そして、検察官は送致された事件の起訴/不起訴を判断します。
ドラマのタイトルとしても有名ですが、起訴された場合は「99.9%」有罪となります。一方、微罪処分は、検察官への送致そのものを行わない、いわば例外的な処理と言えます。
しかし、いつ、そして誰が「微罪」を決めているのでしょうか。
今回は微罪処分について、弁護士・柏本英生が解説いたします。
微罪処分の沿革と趣旨
概ね、以下が趣旨となっています。
- 軽微な事件の場合、被疑者に対し必要以上の精神的負担を感じさせないようにする(ダイバージョン)
- 検察官の事務処理能率の改善
歴史的には、昭和25年7月20日付の検事総長から各地検の検事正あての通牒「送致手続の特例に関する件」より、各都道府県に対して「微罪処分取り扱いの基準」についての指示がなされています。
問題として、微罪処分の立件裁量が警察にあることから、警察による「自転車やバイクの盗難事件のでっち上げ」などの不祥事があります。 ノルマや手続の簡便さから、かえって好んで拡大利用された可能性が指摘されています。
微罪処分の「微罪」は誰が決めるのか
警察は犯罪を認知した場合、事件を検察官に送致しなければなりません。一方で、検察官が事件を処理することのできる件数、時間は限られています。
このため、明らかに起訴猶予相当(不起訴相当)と認められる事件に限り、警察は送致を行いません。その代わり、月報で管轄地域内の検事正に報告する運用を行っています。
しかし、警察官によって「何を微罪とするのか」が曖昧になってしまうのは問題です。このため、管轄地域内の検事正が微罪とする基準を策定しています。
したがって、微罪処分を行うのは警察、その基準を決めるのは検察官と言えるでしょう。
微罪処分となるような事件とは
前述の通り微罪処分の基準は検察官が策定していますが、管轄地域によっても基準が異なります。しかし、概ね、以下がポイントとなっています。
- 被害が軽微か – 被害額は、「おおむね2万円まで」が軽微とされています。
- 犯罪に至る事情(犯情)が軽微か
- 被害の回復が行われているか
- 被害者が処罰を望んでいないか
- 素行不良でなく偶発的か
逆を言えば、被害が甚大で被害者の処罰感情が強い場合、微罪とは認められません。
被害者感情も関連することから、微罪相当の罪名でも被害者との示談が重要になってきます。
たとえ、自己判断で微罪と思えるような事件でも、弁護士に相談することで正しい知見から状況を判断することが可能です。また、逮捕への不安を解消したり、示談の必要性を再確認することができるようになります。
示談と弁護士
前述の通り、微罪処分を考えるにあたって、「被害者の処罰感情の有無」が重要になってきます。また、微罪処分とならなかった場合でも、検察官の起訴/不起訴の判断に「示談成立」は大きく影響してきます。
しかし、加害者本人や家族が被害者に示談を申し入れたとして、必ずしも受け入れられるものではありません。
このため弁護士を選任し、示談交渉に臨む必要があるのです。
微罪処分とならなかった場合でも、早めに弁護士に相談することで送致段階、検察段階での対応が変わってきます。
刑事事件は「スピードが命」とも言われています。「微罪かどうか」と一人で悩むより、まずは相談電話などを活用されることをお勧めします。
微罪処分手続書とは
事件が微罪処分となる場合、司法警察員(警察)は「微罪処分手続書」を作成します。
微罪処分手続書には、被疑者の本籍・住所・職業ほか、犯罪事実の要旨、犯歴などの記載欄・チェック欄が設けられています。このチェック欄のうち、一部をご紹介します。
罪名手口
- 窃盗
- 詐欺
- 横領
- 盗品譲受け等
- と博
- 暴行
犯罪の動機
- 出来心から
- 生活費に困って
- 好奇心から
- つい興奮して
- その他
微罪処分の検討結果
- 再犯のおそれがない
- 素行不良者でない
- 被害回復している
- 偶発的犯行である
- 被害者が処罰を希望していない
- かけた財物が極めて僅少である
- 告訴・告発・自首事件でない
- 全共犯者とも再犯のおそれがない
- 被害額が僅少である
- 凶器を使用していない
- 犯情が軽微である
- 強制捜査をしていない
このように微罪処分を検討するにあたって、複数選択式のチェック項目が存在します。
また、「被害者供述書」もあり、被害者側の供述や事情を記載します。
微罪処分手続書のチェック項目による確認と、被害者供述書による処罰意思なしの確認によって微罪処分が決まります。
微罪処分と刑事訴訟法246条
微罪処分の法的根拠は、「刑事訴訟法246条」を根拠としています。
刑事訴訟法 第246条
司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。
上記、「但し書き」の記載が、微罪処分を認める根拠となっています。また、警察の規則として制定される「犯罪捜査規範」では、より具体的な微罪処分の扱いが示されています。
犯罪捜査規範
第百九十八条(微罪処分ができる場合)
捜査した事件について、犯罪事実が極めて軽微であり、かつ、検察官から送致の手続をとる必要がないとあらかじめ指定されたものについては、送致しないことができる。第百九十九条(微罪処分の報告)
前条の規定により送致しない事件については、その処理年月日、被疑者の氏名、年齢、職業及び住居、罪名並びに犯罪事実の要旨を一月ごとに一括して、微罪処分事件報告書(別記様式第十九号)により検察官に報告しなければならない。第二百条(微罪処分の際の処置)
第百九十八条(微罪処分ができる場合)の規定により事件を送致しない場合には、次の各号に掲げる処置をとるものとする。
一 被疑者に対し、厳重に訓戒を加えて、将来を戒めること。
二 親権者、雇主その他被疑者を監督する地位にある者又はこれらの者に代わるべき者を呼び出し、将来の監督につき必要な注意を与えて、その請書を徴すること。
三 被疑者に対し、被害者に対する被害の回復、謝罪その他適当な方法を講ずるよう諭すこと。第二百一条(犯罪事件処理簿)
事件を送致し、又は送付したときは、長官が定める様式の犯罪事件処理簿により、その経過を明らかにしておかなければならない。
微罪処分と犯罪統計
微罪処分となる罪名
前述の通り、検察官の管轄地域によって差があるものの、窃盗、詐欺、横領といった罪名が多くを占めています。
「令和3年版 犯罪白書」によると、令和2年において、全検挙人員に対する微罪処分の比率は「28.5%」と、約3分の1の事件が微罪処分となっています。(参考: 令和3年版 犯罪白書)
暴行罪の微罪処分
平成17年5月の微罪処分手続一部改正に伴い、暴行罪が対象に含まれました。暴行罪の微罪処分では「凶器の不使用」が、通常の基準に加えポイントとなっています。
外国人の微罪処分
外国人被疑者の場合、入管法違反等ある場合は、原則送致する運用となっています。また、入管法違反等ある場合、対象事件のみを微罪処分とすることはできません。
微罪処分と前科・前歴
微罪処分の場合「前科・前歴」となってしまうのか、不安な方も多いかと思います。
結論から言って微罪処分を受けたとしても、前歴が付きます。
また、原則として前科・前歴がある場合、微罪処分が認められることはありません。
前科
警察/検察官による逮捕、検察による起訴を経て有罪となった場合「前科」が付きます。懲役刑や禁固刑のほか、罰金刑、科料も前科に含まれます。執行猶予付き判決であっても、前科に含まれます。
前歴
警察/検察官により逮捕された場合や検挙されて犯罪捜査を受けたときには「前歴」が付きます。
前科・前歴が付くデメリットとして、
- 捜査機関の前科調書への記録が残る
- 市区町村の犯罪人名簿に載る
- 国家公務員、地方公務員、警備員など、建築士など一部職業の制限を受けることがある
- 海外旅行の制限を受けることがある
などが挙げられます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。微罪とは言え、前歴の付いてしまう歴とした犯罪です。
また、「微罪処分になって良かった」と思っても、2回目、3回目の犯行につながる可能性を否定することはできません。
例えば、クレプトマニア(窃盗症)の場合、その犯行自体に精神的な快感が伴い「やめたくても、やめることができない」状態に陥ってしまいます。精神科や心療内科による専門的な治療が必要になってきます。
こんな時、微罪処分になったがために安心して、弁護士や専門家に相談する機会を逃してしまい、再犯に陥って今度は前科がついてしまいます。そのような結果となることはかえって不幸なことではないでしょうか。
一部の法律事務所では、「犯罪と心理」の側面から、専門医との提携を図っています。弁護士と専門クリニックが連携することで、治療への環境づくりや更生への第一歩が踏み出し易くなります。犯罪衝動と罪悪感の悪循環から抜け出すための力となります。
「万引きを繰り返してしまう」、「自転車盗をやめられない」など、家族や友人にも相談することのできない悩みを抱えている方も大勢いらっしゃることでしょう。
そのような悩みを抱いたとき、身近な人に相談できない問題だからこそ、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。