公然わいせつ罪となる露出行為は、見せられた人が被害者となるだけでなく、公の風紀を見出す社会悪でもあるので、一般に考えられているより重い犯罪です。
逮捕されますし、被害者と示談しても罰金等の処罰は避けられません。公の場で下半身を露出した人が逮捕された、というニュースは度々あります。
しかし、一口に「露出行為」といっても成立する犯罪は1つではありません。
今回は、この露出行為をテーマに成立する犯罪や弁護活動などについて代表弁護士・中村勉が解説いたします。
露出行為はどうして犯罪か
そもそも、露出行為はどうして犯罪になるのでしょうか。
確かに、刑事罰の対象となる行為の多くは、特定の個人に被害を与える行為です。そして、露出行為は、強制わいせつや痴漢などと異なり、特定個人に被害を与えるわけではありません。しかし、特定個人に被害を与える行為だけでなく、公の秩序を乱す行為も、時として刑事罰の対象となります。
薬物事犯を想定するとわかりやすいですが、薬物の自己使用も誰か特定の個人に迷惑をかけているわけではありません。
しかし、濫用による保健衛生上の危害を防止する必要性の高い覚せい剤などの薬物は、公の秩序を維持するため、規制が必要です。露出行為に話を戻すと、健全な性風俗あるいは公衆の性的感情を害するおそれのある行為であり、やはり公の秩序を維持するため、規制が必要となります(条解刑法)。
そのような事情から、露出行為は、刑法をはじめとする刑罰法規で、犯罪とされているのです。
露出行為で該当する罪名と罰則
それでは、露出行為が具体的にどのような刑罰法規で規制されているのか、詳しくみていきましょう。
公然わいせつ
刑法第174条
公然とわいせつな行為をした者は、六月以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
代表的なものが刑法174条に規定されている公然わいせつです。条文の書き方は非常にシンプルで、「公然と」「わいせつな行為をした」場合に処罰されます。
「公然」とは、不特定又は多数の人が認識することができる状態をいいます(最決昭和32年5月22日刑集11-5-1526)。「認識することができる状態」であればよいので、現実に不特定多数者が認識する必要はなく、その認識の可能性があれば広くこの公然性が肯定されます(条解刑法)。
路上や公園、電車やバスなど現実世界に限られず、インターネット上に配信することも「公然」に当たります。バスのように多数の人が乗ることが想定されていない自家用車の中であっても、不特定多数者が通行するような路上に駐車していた場合などは、「公然」に当たります。
「わいせつ」とは、「いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」をいいます(最大判昭和32年3月13日刑集11-3-997)。
先ほどの「公然」と同様、最高裁判所の判例で定義づけられていますが、こちらは結局どのような行為がそれにあたるのか、定義を見てもあまりはっきりしません。そもそも「わいせつ」に当たるか否かの判断は、時代と社会によって変化し得る相対的・流動的な判断になります。そのため、あまり具体的に定義づけてしまうと、その定義が何十年か経った時、社会の実情にそぐわない可能性が生じます。その時は判例変更すればよい、という考え方もあるかもしれませんが、判例変更は容易ではありません。
しかし、そうはいってももう少し説明がないと結局なにが「わいせつ」に当たるのかよくわからないとは思いますが、代表的な具体例はなんといっても性器を露出することです。法定刑は「6月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金又は拘留もしくは科料」とされており、刑法の中では相対的に軽い罪にはなります。
度々ニュースで流れることからもわかるとおり、逮捕されることも十分あり得、甘く見てはいけません。現行犯でなくとも、防犯カメラ映像から後日逮捕されるケースもあります。
軽犯罪法違反
軽犯罪法第1条
左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
(中略)
20 公衆の目に触れるような場所で公衆にけん悪の情を催させるような仕方でしり、ももその他身体の一部をみだりに露出した者
性器を露出する行為は先ほど解説した公然わいせつに当たりますが、性器を露出する行為でなくとも、尻、腿などであっても軽犯罪法違反となる場合があります。
この規定も公然わいせつと同様、公然と露出行為などをした場合を想定した規定ですが、「公衆の目に触れるような場所で」「公衆にけん悪の情を催させるような仕方」と公然わいせつよりももう少し詳しく限定が加えられています。
法定刑は「拘留又は科料」です。先ほどの公然わいせつでも「拘留」「科料」という文言がありましたが、「拘留」とは、1日以上30日未満の範囲で刑事施設に拘置する自由刑であり(刑法16条)、「科料」とは、1000円以上1万円未満の金額を支払わなければならない財産刑です(刑法17条)。いずれも「懲役」「禁錮」「罰金」に比べて軽い刑罰となっています。また、軽犯罪法違反は「拘留又は科料」しか選択肢がないので、被疑者が定まった住居を有しない場合又は正当な理由がなく出頭の求めに応じない場合でなければ、逮捕することはできません(刑事訴訟法199条1項ただし書)。
迷惑防止条例違反
迷惑防止条例違反は各都道府県によって書き方が変わりますが、多くの都道府県で、「公共の場所公共の場所又は公共の乗物において」「卑わいな言動をすること」が禁止されており(東京都迷惑防止条例5条1項3号、大阪府迷惑防止条例6条2項2号、愛知県迷惑防止条例2条の2第1項4号など)、露出行為もこれに当たることがあります。
性器を露出する行為は先ほどの公然わいせつになりますが、そこまでいかなくとも、例えば下着姿の露出行為でも態様によってはこれに当たる可能性があります。
最近では、北海道でブーメランパンツに似た下着を穿き、下半身の一部が出た状態でコンビニエンスストアの駐車場を徘徊した男性が北海道迷惑行為防止条例違反の疑いで逮捕されたという事件があり、この事件からもわかるとおり、迷惑防止条例違反で検挙された場合は、先ほどの軽犯罪法違反と異なり、逮捕される場合も十分あり得ます。
法定刑も都道府県によって異なりますが、「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」(東京都、大阪府など)、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(愛知県など)とされていることが多いです。
露出事件で逮捕された場合の弁護活動
露出事件は公然わいせつ、迷惑防止条例違反の場合、逮捕される可能性が十分あり得ます。
しかし、逮捕されても勾留を回避し、2,3日で釈放できる可能性は比較的高い犯罪です。
法定刑はどの罪名でもそこまで重いとはいえず、逃亡のおそれは比較的否定しやすい部類に入り、また、逮捕されている時点で目撃者の証言や防犯カメラ映像はあると思われますので、証拠隠滅のおそれもさほど高いとは言えない場合が多いと思われます。この辺りの事情を事案に応じて具体的に主張することができれば、裁判官が検察官の勾留請求を却下し、釈放してもらえることは十分考えられるでしょう。
ただし、裁判官は基本的に検察官の勾留請求を認めますので、何も弁護活動をしなければ、やはり勾留される可能性が高いでしょう。もし逮捕された場合は、早急に勾留回避に向けて動いてくれる弁護士に依頼することが重要です。
身柄開放活動以外の弁護活動としては、目撃者がいる場合、見たくないものを見せられたために通報したという可能性が高いため、目撃者と示談交渉することが考えられます。ただし、直接の被害者ではないため、目撃者と示談が成立したからといって不起訴になるとは限りません。
例えば、2020年統計を見ると、「わいせつ・わいせつ物頒布等」の起訴率は60.4%となっています。同じ統計で見ても、特定個人の被害者がおり、示談交渉の有効性が高い強制わいせつは起訴率が33.9%、強制性交等の起訴率は37.0%となっていることに比べれば、やはり特定の被害者がいないために(この点はわいせつ物頒布も同様です)不起訴にするハードルが比較的高い犯罪といえるでしょう。
当該事案において示談がどれくらい有効かについては、その事案によって異なりますので、的確なアドバイスをもらえる弁護士に相談しましょう。
まとめ
いかがでしたしょうか。露出行為は法定刑こそ高くありませんが、逮捕される可能性はあります。
その場合には身柄開放活動に速やかに着手しなければなりません。万が一露出行為で逮捕された場合は、なるべく早く弁護士に相談しましょう。