外出中スマートフォンの充電が切れた際に、周辺で手あたり次第コンセントを探し、見つけたコンセントを無断で使用したことはありませんか。
最近はカフェ等でコンセントが設置されているテーブル席等も見られますが、このコンセントを使うことに問題はないでしょうか。
携帯電話機器をはじめとしたモバイル電気機器が普及した現代社会において、私たちにより身近な問題となっている電気窃盗について、以下、代表弁護士・中村勉が解説いたします。
電気窃盗の定義と罰則
他人が管理しているコンセントを無断で使用し電気を使うことは、電気を盗む行為と言い得ますが、犯罪なのでしょうか。まず、窃盗罪(刑法第235)の条文を見てみましょう。
刑法第235条(窃盗)
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
「他人の財物を窃取した者」は、窃盗の罪とされると書かれていますので、ここにいう「財物」に電気が含まれるかが問題となります。
「財物」という言葉からは有体物をイメージするかもしれませんが、現在の多数説においては、「財物」に当たるには、管理可能性があれば足り、必ずしも有体物であることを要しないと考えられています(管理可能性説)。
電気は無体物ですが、管理は可能であり、財産的価値もあります。そのようなこともあり、刑法第245条において、電気は財物として扱うべきことが明記されています。
刑法第245条(電気)
この章の罪については、電気は、財物とみなす。
したがって、電気の窃盗も窃盗罪を構成する、れっきとした犯罪ということになります。
電気窃盗も窃盗の一類型に過ぎませんので、刑罰は通常の窃盗と同じく、刑法第235条により「10年以下の懲役又は50年以下の罰金」です。
次に、「窃取」の意味についてですが、窃取とは、財物の占有者の意思に反し、その占有を自己または第三者に移転することをいいます。
最近のカフェ等のテーブル席では、当該カフェ等の利用客の利便を図るため、各席にコンセントが使いやすい位置に設置されている例が見られます。この場合、当該コンセントを使用することは、電気の占有者であるカフェ等の管理者の意思に反するものではないと基本的に考えられますので、特に店員さん等に断らずに使用しても、窃盗罪は成立しないでしょう。
ただし、この場合であっても、当該テーブル席及びコンセントを長時間利用したり、スマートフォンやパソコン等の使用のためではなく他の利用者に迷惑がかかるような電子機器や家電等の使用のために使う等、管理者が意図しない態様でコンセントを使用した場合には、窃盗罪が成立する可能性があります。
他方、駅のトイレやオフィスビルの廊下等の壁や床に設置されているコンセントは、通常、清掃用のためなどと目的が限定されているものと考えられますので、これを自己のスマートフォン等の充電のために無断で使用する行為には、窃盗罪が成立する可能性があります。
電気窃盗の弁護活動
単に一度コンセント(電気)を無断使用したことにつき、立件されたり、すぐに逮捕されたりする可能性は低いですが、注意を受けたのにも関わらず、コンセントの無断使用を継続した場合には、窃盗罪として立件され、また、逮捕される可能性はそれなりにあります。
なぜなら、そもそも窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」であり、最高で10年の懲役という重い刑が科されうることからすれば、窃盗罪は重い犯罪の部類に入るからです。
万引き等であっても、事案によっては厳重に処罰されますので、電気窃盗に限らず、窃盗罪全般について、弁護士に早めに相談すべきです。
窃盗罪の弁護活動として、弁護士は、まず第一に、被害者との示談や被害者に対する被害弁償に取り組みます。窃盗罪は財産犯と言われ、財産に対する罪なので、被害者の財産的損害が回復されれば、検察官も刑事処罰の必要性まではないと考えて不起訴にすることが多いからです。
もっとも、窃盗を繰り返し行ってしまっている例では、示談や被害弁償をしても、再犯可能性という観点から、検察官が刑事処罰を科すべきと判断する可能性が高くなりますので、再犯防止のための対策も必要になってきます。
このような場合には、なおさら弁護士に依頼し、示談や被害弁償に加え、弁護士のアドバイスを受けながら再犯防止策に取り組み、弁護士から検察官へ再犯可能性が低いことをアピールしてもらう必要があります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。電子機器の充電を行う等の目的で他者のコンセントを無断で使用することは、電気窃盗に当たり得ます。たとえ被害額が僅かであったとしても、使用態様等によっては逮捕される可能性がありますので、「この程度なら大丈夫」等といった安易な考え方はしないようにしましょう。