犯罪を行うときというのは、ある種、尋常ならざる精神状態の中にいます。冷静に物事を判断できず、四周の状況も目に入りません。大抵は、後で冷静さを取り戻して「あのとき、そういえば」と思い起こし、慌てるのです。
特に最近では、街中の至る所に防犯カメラが設置されており、そのことは広く知られている事実です。そこで、事件を起こしたその時は発覚しなかったものの、「現場に防犯カメラがあったと思うのですが、どうしたらいいでしょうか」といった相談も少なくありません。
そのような事件の場合、現行犯ではなく、後日警察から呼び出しの電話が来たり、突然家に警察がやってきて逮捕されたりすることになります。犯人特定の大きな手掛かりになっているのは防犯カメラであるケースは少なくありません。
そこで今回は、防犯カメラをテーマに代表弁護士・中村勉が解説いたします。
防犯カメラの役割
ニュース番組などで出てくる防犯カメラ映像を見ると、画質が悪いものが多く、「本当にこれで犯人が特定できるのだろうか?」と思われる方もいるかと思います。
実際、防犯カメラは長時間の映像を記録しているため、画質が悪く、犯人の顔が不鮮明な画像であることも少なくありません。
しかし、最近では防犯カメラの解析技術が向上しており、防犯カメラ映像そのものは不鮮明な場合であっても、解析の結果、犯人の顔が鮮明になり、誰だかわかるというケースもあります。
実際、当事務所で取り扱ったケースでも、防犯カメラ映像の解析技術が向上したために、事件から5年以上経って検挙されたというものがありました。
最近の技術では、三次元顔画像識別システムなどが挙げられます。これは、防犯カメラ等で撮影された人物の顔画像と、別に取得した被疑者の三次元顔画像とを照合し、両者が同一人物であるかどうかを識別するシステムです。
一般に、防犯カメラで被疑者の顔が撮影される角度は様々であるため、被疑者写真等と比較するだけでは個人識別が困難な場合が多いのですが、このシステムでは、被疑者の三次元顔画像を防犯カメラの画像と同じ角度及び大きさに調整し、両画像を重ね合わせることにより、個人識別を行うことを可能にしています。
防犯カメラの設置が増加する中、犯行を証明する有効な証拠を得ることができるシステムとして、一部の道府県警察で活用されています。
他にも、不鮮明な画像でも骨格などから割り出すこともあれば、顔が全く映っていなくても歩き方やその人の癖からも分析することができます。歩容鑑定という歩き方をカギとして人物を特定する手法があり、わずか2歩分の映像でも鑑定可能といわれています。そのため、後ろ姿のみが映っている場合でも特定される可能性もあります。
防犯カメラ映像では、犯人の顔だけでなく、車のナンバーや服装なども重要な手掛かりになります。特に、車のナンバーが読み取れれば、所有者が誰か特定するのは容易なため、非常に有力な手掛かりとなります。ナンバープレートも、やはり防犯カメラ映像が不鮮明なことはありますが、「DAIS」と呼ばれる「捜査支援用画像分析システム」を使えば、不鮮明で全く見えないナンバープレートの数字も簡単に判読可能です。数字は0~9までしかないため、少ない情報でも解析が容易で、ほぼ間違いはありません。
1台の防犯カメラ映像は不鮮明でも、現場付近に設置されている防犯カメラ映像を複数解析し、それを追って犯人特定に至ることもあります。
例えば、現場が駅の近くで、犯行前後に犯人が電車に乗っている場合、犯人が交通系ICカードを改札にタッチした場面まで防犯カメラ映像を追って、その改札をタッチしたICカードの個人情報を鉄道会社に照会することで犯人特定に至るというケースがあります。
まとめると、防犯カメラは、犯人の顔がはっきり映っていなくても、映像の鮮明化、他の情報や付近の他の防犯カメラ映像と組み合わせることで、犯人特定の大きな手掛かりになるといえるでしょう。
防犯カメラの設置状況
警察では、街頭防犯カメラは、被害の未然防止や犯罪発生時の的確な対応に有効であることから、地域の安全安心を確保するための手段として、多くの地方公共団体において、犯罪の発生状況等に応じて街頭防犯カメラの設置を推進しているほか、自治会、商店街等による街頭防犯カメラの設置について、機器の購入、設置工事等に要する費用を支援する取組みを行っています。
例えば、東京都では、地域の防犯意識の向上のため、自治会、商店街等が防犯カメラを設置する際、区市町村と共に、その経費の一部の補助を行っているほか、区市町村に対し、通学路や区市町村立公園に防犯カメラを設置する際の経費について補助を行っており、これらの事業により設置された防犯カメラは、平成29年度末時点で、累計1万7,000台を超えています。また、一部の区市町村では、防犯カメラの維持管理に要する経費についても補助を行っており、普及が進んでいます。
警察では、地方公共団体や自治会、商店街等による街頭防犯カメラの設置について、適正かつ効果的な設置・管理のために必要な情報提供、助言を行うなどの支援を行い、防犯対策を強化しています。
大阪府守口市では、子供や女性を狙った犯罪を防止し、市民の安全を確保することを目的として、通学路等を中心に、同市内全域に無線通信式防犯カメラ1,000台を設置し、平成28年10月から運用を開始しました。平成29年中の大阪府内の刑法犯認知件数は前年比で12.4%減少した一方、同市内の刑法犯認知件数は前年比で21.7%減少しており、街頭防犯カメラの設置が一定の効果を上げていると考えられています。
このように、防犯カメラの設置台数は警察の支援によって増加しており、それに伴い、防犯カメラによる検挙数が増加傾向にありますが、今後も増加傾向が続くものと思われます。
防犯カメラで検挙される犯罪
防犯カメラで検挙される犯罪は、やはり、駅、商業施設、エレベーター、路上など公共の場で行われるものについては、どのような犯罪であっても検挙される可能性が十分にあります。
したがって、痴漢・盗撮や強制わいせつといったわいせつ事案、窃盗や強盗といった財産犯、殺人や傷害といった粗暴犯、交通事故など、あらゆる罪種で防犯カメラ映像が有力な手掛かりになり得ます。
中でも特に、犯人が被害者と顔見知りではなく、凶器や被害品などの証拠物も残りにくい犯罪では、より一層防犯カメラ映像が重要な手掛かりになります。そういった意味では、顔見知りではない被害者に対するわいせつ事案は、防犯カメラ映像が決め手になるケースが多いでしょう。
例えば、駅で盗撮をしていたところを被害者や周囲の目撃者に発見され、逃走したケースなどが典型例です。
防犯カメラによる特定が不安な場合にできること
実際、当事務所に「防犯カメラ映像が残っていそうで不安である」と相談にいらっしゃる方の中で多いケースは、盗撮事案で被害者や目撃者に気付かれたが現場から逃走したというものです。
こうした相談者の中には、「後日逮捕が心配で夜も寝られない」とおっしゃる方も少なくありません。被害者がどこの誰だかわからないため、示談しようにも連絡先がわからず、警察がどの程度捜査しているのかもわからないため、大きな不安を抱くのは当然のことです。
防犯カメラに映っているかもしれず不安で仕方ないという場合には、まず、自首すべきかどうかを検討することになります。自首すれば、「いつ警察から連絡が来るかわからない」不安から解消され、また、自分から出頭するので、逃亡や証拠隠滅のおそれが低下し、逮捕の可能性が下がるというメリットがあります。
ただし、事件の時に被害者や目撃者に気付かれたかもしれないと思っていたが実際は気付かれておらず、被害届も出ていなかったというケースもあり、自首しなければ発覚しなかったのに自首したせいで検挙されることになったというケースも少なくありません。しかも先ほど述べた盗撮事案では、そうした場合、警察でも被害者が誰なのか特定できないことも珍しくないため、検挙されたが示談できないという状況になってしまうケースもあります。
そのため、自首すべきかどうかの判断は簡単ではありません。
もちろん、犯罪行為をした以上、自首するのが道義的には正しい選択ですが、現実問題としては簡単に決め切れるものではありません。詳細は後で述べますが、やはり弁護士に相談する必要性が高いといえるでしょう。
弁護士に相談が必要な場合
ここまで、防犯カメラで特定される方法や、特定された場合に自首の検討が必要になるということを紹介してきました。ここでは、どのような場合に弁護士に相談すべきなのかを紹介していきます。
警察から連絡がきた場合
警察に「防犯カメラの映像に君が映っている」と連絡があった場合や、「一度警察署で話を聞きたい」と連絡があった場合には、既に事件化されているので、一刻も早く弁護士に相談した方がよいでしょう。なお、既に警察に発覚している以上、自首は成立しません。
この場合の弁護活動は、被害者が警察に被害届を既に出している可能性が高く、また、防犯カメラ映像がある時点で嫌疑不十分で不起訴になる可能性は低いため、示談交渉がメインになるでしょう。犯罪被害者との示談交渉を加害者本人がするのは現実的に難しいため、不起訴を狙うためには弁護人の選任がほぼ不可欠でしょう。
自首すべきか迷っている場合
自首すべきか検討されている方もやはり、とにかく早く弁護士に相談した方がよいでしょう。中村国際刑事法律事務所では、弁護士が自首に同行し身柄を拘束されないよう弁護活動を行う、自首同行を行っております。
自首について、刑法では、次のように規定されています。
刑法第42条
罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる。
この条文からもわかるとおり、自首には、先ほど述べたような逮捕回避の可能性を上げることや不安を解消するだけでなく、罪を減軽することができるという法律上のメリットもあります。
ただし、「捜査機関に発覚する前に自首したとき」と明記されているため、犯人が誰か警察が特定した後に自首してもこの条文は適用されません。
そのため、自首するのが遅くなればなるほど減軽を受けられなくなる可能性が高くなってしまいます。
最終的に自首するにしてもしないにしても、判断は迅速にされた方がよいですが、自首に伴う様々なメリット・デメリットを一般の方がきちんと検討することは容易ではありません。刑事事件の経験豊富な弁護士に相談する必要性が高い状況といえます。不安が大きい方は、少しでも不安を解消するという意味でも、弁護士に相談することを推奨します。
弁護士に相談した結果、自首を決意された方は、自分で出頭するか弁護士に同行してもらうかどちらか決めることになります。
もちろん、自首は弁護士についてきてもらわなくとも、1人で出頭することも可能です。ただし、弁護士に依頼すれば、弁護士作成の逮捕回避を求める上申書を提出することや、他にも「これは回避してほしい」という要望を自分で警察に言うのではなく、弁護士を通じて頼むことができます。また、わざわざ自分で弁護士を付けてまで自首しに来ているのであれば、逃亡や証拠隠滅はしないだろうと警察に信用してもらいやすくなるため、そういった意味でも逮捕回避の可能性を上げることができます。
自首して逮捕されなかったとしても、事件を起こしている以上、在宅捜査は続き、また呼び出されて取調べを受けることになります。被害者がわかっているケースでは、示談交渉も必要になってきます。そのように在宅捜査が継続する中、自分一人で対応するのは限界がありますし、示談交渉が必要になった場合、特に性犯罪では弁護士が付いていなければ、被害者の連絡先を教えてもらうこと自体困難であり、そうなれば事実上示談交渉は不可能です。
せっかく弁護士に相談し、自首を決意されたのであれば、できれば自首同行とその後の弁護活動を弁護士に依頼することが望ましいでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。防犯カメラによる犯人特定は、技術の向上や設置台数の増加により、増改傾向にあります。
事件を起こしてしまい、防犯カメラによる犯人特定がご不安な方は、早急に弁護士にご相談ください。それぞれの事案に応じた最善策を提示させていただきます。
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当事務所は、刑事事件関連の法律相談を年間3000件ものペースで受け付けており、警察捜査の流れ、被疑者特定に至る過程、捜査手法、強制捜査着手のタイミング、あるいは起訴不起訴の判断基準や判断要素についても理解し、判決予測も可能です。
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