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通常より高額で示談した場合量刑に影響するのか弁護士が解説

被害者のいる犯罪で示談が量刑に影響を与える犯罪類型はどのようなものか?

示談とは、民事上の紛争を裁判によらず当事者間で解決する契約のことを指します。被害者のいる犯罪では、加害者である被告人の罪を裁く刑事裁判とは別に、被害者が加害者から受けた損害の賠償を求める民事裁判が提起されることがあります。

しかしながら、民事裁判が提起される前に(あるいは提起されてしまったとしても)、当事者間での示談交渉は、加害者は量刑事情として有利に、被害者にとっては裁判を自ら提起する手間がなくなるという相互にインセンティブがあるため、多くの事件で行われています。

示談において重視されるのは、加害者が被害者に対してどのような被害回復行為を為すか、そして被害者が加害者を宥恕(許すと同義)しているかの2点であると言えます。このうち、被害回復行為の量刑への影響力は、当該犯罪行為によって侵害された法益の回復の程度との関係によって異なり、法益の回復に大きく影響する場合には量刑への影響も大きくなり、法益の回復に対する影響が小さい場合には量刑への影響も小さくなると言えます。

示談の成立により、処分や量刑に大きく影響を与える犯罪類型は、窃盗罪(刑法235条)や詐欺罪(刑法246条)、(業務上)横領罪(刑法252条、253条)等の財産犯が挙げられます。理由は後述します。

逆に示談が量刑にあまり影響を与えない犯罪類型はどのようなものか(児童、未成年が被害者の犯罪も)

では、逆に示談が量刑にあまり影響を与えない犯罪類型とはどのようなものでしょうか。まず、殺人罪(刑法199条)等の生命犯、強制性交等罪(刑法177条)等の身体犯が挙げられます。後に述べる財産犯とは異なり、被害回復が困難であるからです。つまり、殺人罪のように生命が奪われてしまえば、2度とその生命が元に戻ることはなく、また、身体犯の場合にも、特に性犯罪の場合には事後的にPTSDなどの精神的なダメージを負うなど、犯罪行為がなされる前の状態に戻ることは不可能に近いからです。

もっとも、生命・身体の侵害によって侵害される法益は生命・身体に限らず、必然的に被害者によって担われている経済的、社会的な価値も侵害されるため、結果として財産的な法益も損なわれると言えます。そのため、示談によって前述のような被害弁償をすることは、全く影響を与えないわけではありません。

次に、公然わいせつ罪(刑法174条)等の風俗犯です。風俗とは、その社会において健全なもの・善良なものとして広く承認されている行動様式や生活秩序のことを指す言葉であり、故に風俗犯は、個人的法益ではなく、社会的法益の侵害を罪とするものであるため、被害者が存在し、示談によって被害弁償を行ったとしても、その法益侵害の全てを回復することが観念できないため、示談は処分や量刑にあまり大きな影響を与えないと言えます。

最後に、児童や未成年が被害者となる犯罪(例えば児童買春・児童ポルノ防止法違反)が挙げられます。大抵の場合、未成年が被害者である場合、示談交渉の当事者となるのは法定代理人である被害者の父母です。被害者とその両親とでは人格が違うため、示談をしても本人に対して被害弁償がなされたと言えない場合があります。また、示談の際に作成した示談書に例え宥恕の文言があったとしても、未成年者がその意味を正しく理解しているかは疑問視されます。

更に、被害者が未成年の場合には、「被害児童らの受けた性的被害結果はもとより、精神的苦痛も相当に大きく、被害児童らの将来に悪影響を及ぼすことが強く懸念される」(福岡地裁小倉支部令和元年12月3日判決)、「将来にわたって被害者の心身の健全な発達に悪影響を及ぼすことが懸念される」(千葉地裁令和元年11月11日判決)等、成人への犯罪の被害に加えて、将来の健全発達に影響を与えかねないことが加味されているが、この点は示談により被害弁償を行ったからと言って被害回復がなされるわけではないと言えます。以上の点から、児童や未成年が被害者となる犯罪の場合には、示談が処分や量刑に大きな影響を与えないと考えられています。

なぜ財産犯における示談は量刑に影響を与えるのか、またその程度は?

何故財産犯における示談は処分や量刑に大きく影響を与えるのでしょうか。
その理由は単純で、示談を通して被害物品の返還や金銭で被害弁償することにより、当該犯罪行為によって侵害された法益を回復させることが容易であり、また、その回復の程度も高く、被害後速やかに示談が成立し、被害弁償が為された場合のように、犯罪行為がなされる前の状態にまで回復させることも可能であるからです。

したがって、示談により被害弁償が行われれば、不起訴処分や、起訴されたとしても執行猶予となる可能性が高くなります。また、上記より、財産犯においては被害弁償によって被害回復をすることが処分・量刑に与える影響が大きいため、例えば窃盗の被害者が大型店であり、その系列店の方針で示談交渉ができない場合にも、供託(民法494条1項1号)をすることにより、被害弁償がなされたと同じ効果を期待できます。

もっとも、財産犯であったとしても、例えば重要文化財などの代替性をもたないものが被害品である事例や、手口の悪質性・常習性などにより、示談にかかる被害弁償を行ったからと言って必ずしも軽い処分や量刑になるというわけではありません。しかしながら、上記の例を持ってしても、他の類型の犯罪と比べれば被害回復が容易であることは間違いありません。したがって、財産犯を犯してしまった場合には、一刻も早く被害者と示談交渉をし、被害回復を行うことが、弁護活動において非常に重要であると言えます。

性犯罪は、示談成立がどのように量刑に影響を与えるか

性犯罪の中でも、身体犯の性的自由の侵害である強制性交等罪や、強制わいせつ罪(刑法176条)では、前述の通り、財産犯と比べれば、示談の影響力は小さいと言えます。しかしながら、完全には難しくとも、治療費等の実費の被害弁償や、被害者への精神的苦痛に対して慰謝の措置として示談金を支払うことにより、被害回復を観念することができることから、決して無意味ではありません。

更に、かかる犯罪は個人的法益を侵害するものですから、示談をすることによって、被害者が加害者を許し、厳罰を求めないという気持ちになることも多々あります。性犯罪では、量刑において被害者の被害感情が重視されるため、示談によって被害者から宥恕されれば、それだけ処分や量刑も軽くなる可能性が高くなります。

逆にいえば、被害弁償を一切せず、被害者の被害感情が激烈なものであれば、それが量刑に反映され、実刑の可能性も高くなるということです。性犯罪においては、被害回復と同じくらい、被害者の被害感情や処罰感情の程度が考慮され得るといえ、この点で財産犯と大きく異なるといえます。

いわゆる示談金相場よりも顕著に高額な示談金で示談した場合、量刑に影響するのか

では、性犯罪において、いわゆる示談金相場よりも顕著に高額な示談金で示談した場合、量刑に影響するのでしょうか。
この点、示談金を高額にすることで、量刑を軽くすることができてしまうと、刑をお金で買うことに繋がり、資産の有無で量刑に差異を設けることは妥当ではない、という考え方もあります。

しかし、特に相場よりも顕著に高額な示談金で示談する場合というのは、被害者からの強い要請によることも少なくありません。刑罰には、世間だけではなく、被害者の処罰感情を満足させる事を通じて、被害者が私的制裁を加える事を防止する目的・機能があることから、被害者の要請を受け、顕著に高額な示談金を支払うことにより、国家が被害者に代わって応報を加える必要性もそれだけ減少するといえ、量刑が減軽されることもあり得るといえます。

また、被害者の被害感情や、加害者の反省の程度は目に見えるものではなく、客観的に評価しづらい側面があるため、示談金の額という客観的に評価が容易であるものを根拠として量刑を決定すべきであるという考え方もあり、顕著に高額な示談は、相場程度の示談と比べて減軽に傾く可能性は否定できません。

通常より高額で示談した裁判例

以下では、性犯罪において、通常より高額で示談した裁判例を紹介します。

強姦未遂、強要未遂、強姦、強制わいせつ、強要被告事件の被害者1名に対し、1000万円で示談した事例(横浜地裁横須賀支部平成28年12月15日判決)

被告人が、被害者に対して、警備員を装い、万引きの疑いがあると脅迫しそれを被害者が通う大学に通報すると脅して畏怖させわいせつ行為を働き、後日わいせつ行為の動画を公開するなどと脅して姦淫したり、行う義務のない事をやらせようとした。その他別の被害者への書く義務のない万引きした旨の誓約書を書かせるという強要を行った。

量刑及び理由

懲役5年(求刑: 懲役6年)
まず、その手口は、…誠に卑劣かつ狡猾な犯行である。(被害者)…の精神的打撃は甚大であって、当然のことながら、(被害者)やその家族の処罰感情は今なお峻烈である。その動機も、…あまりにも身勝手なもので、酌量の余地は全くない。…犯情は相当悪質というべきであ…る。

以上によれば、被告人の刑事責任は相当重いというべきであるが、他方で、被告人が、公訴事実を争わずに反省の弁を述べていること、(被害者)に謝罪文を書いて被害弁償として1000万円を支払い、示談を成立させていること、(別の被害者)にも謝罪文を書いていること、前科がないこと、妻や知人らが出廷して被告人のために証言していること等、被告人のために酌むべき一般情状もあるので、これを考慮し、主文の刑を定めた。

強制わいせつ被告事件の被害者ら4名に対し、総額2300万円の被害弁償をした事例(名古屋地裁岡崎支部 令和元年6月3日判決)

被告人が、保育士という立場に乗じて、当時3歳から4歳であった被害者ら4名に対して自己の陰茎を被害者の陰部に押しつけたり、被害者らの口にくわえさせたり、被害者らの陰部をなめたりするなどの強度のわいせつ行為に及んだ。

量刑及び理由

懲役9年(求刑: 懲役12年)
本件各犯行は、…極めて卑劣な行為であるところ、…その犯情は相当に悪質というほかはない。…本件各犯行が被害者らの今後の成長に与える悪影響も強く懸念されるところであり、保育士として信頼していた被告人により自分の子どもが被害を受けたことを知った各被害者の親の処罰感情も極めて厳しい。

以上によれば、被告人の刑事責任は相当に重く、本件が刑の執行を猶予するのが相当な事案とは到底認め難く、被告人に対しては長期の実刑をもって臨むことが相当である。

他方、被告人は、被害者らに対して総額2300万円の金銭弁償を行い、うち(被害者1名)との間では民事的示談も成立させた上で、本件各犯行につき事実関係を全て認め、反省の情を示していること、被告人の妻が今後の監督を約束しているほか、被告人が社会復帰後において精神科医師による治療等を受けることが予定されていることで、被告人の今後の更生に結び付く事情もうかがえること、被告人にこれまで前科前歴がないことなどの事情も認められるので、これらの被告人のために酌むべき事情も考慮して量定した。

まとめ

いかがでしたでしょうか。このように、どのような犯罪類型であっても、被害者の存在する犯罪においては、示談の成立が大なり小なり最終処分や量刑に影響します。罪を犯してしまい、被害者と示談したいが方法が分からない、又は被害者から法外な請求がされているが到底支払えない、示談をしたいが被害者から自分とは会いたくないと言われてしまっていると言った悩みがある方は、まずは弁護士にご相談ください。

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