刑事事件の処分を決める判断要素というのは、犯行動機、計画性、犯行態様の悪質さ、結果の重大性といった犯行前ないし犯行時の諸事情のほか、犯行後の情状も大きな考慮要素です。その最たるものは示談で、その成否が刑事処分内容を大きく左右します。法理論的に言えば、犯行後の事情は、行為者の責任を減少させることがあり、寛刑の契機となり得るのです。
刑事事件の多くは特定された被害者がおり、認め事件の場合、その被害者との示談交渉が弁護活動のメインになります。
しかし、示談交渉が事案の性質上できない、あるいは事案の性質上示談交渉ができても被害者に示談の意思がない事案もあります。こうした事案の場合、示談に代わって何かできることはないのでしょうか。その代表例が、贖罪寄付と供託です。
今回は、贖罪寄付と供託とは何か、また示談との違いについて、代表弁護士・中村勉が解説します。
贖罪寄付とは
贖罪寄付とは、罪を償う気持ちを表明して一定の団体・機関に対して寄付行為をすることをいいます。贖罪寄付をすると証明書を発行され、その証明書を検察官や裁判所に提出すれば、情状を考慮してくれます。
贖罪寄付がよく行われる事案は、被害者のいない薬物事犯や道路交通法違反の事件であったり、贈収賄の事件だったり、または被害者がいても示談金を一切相手が受け取らない上に住所が分からないなど供託もできない事件です。
贖罪寄付の効果
一言でいえばよい情状になります。起訴前に贖罪寄付をすれば、検察官に評価され、起訴猶予になる可能性を上げることができます。起訴後に贖罪寄付をすれば、裁判官に評価され、懲役刑でも執行猶予が付いたり、罰金刑にとどまる可能性を上げることができます。
ただし、贖罪寄付をしても、被害者に対する直接の被害回復がなされたわけではなく、また、被害者が刑事処罰を求めないという意思表明をしてくれることもありませんので、贖罪寄付の効果は示談ほど大きくはなく、贖罪寄付をしたから起訴猶予や執行猶予になるとは断言できません。そのため、弁護士は、依頼者に対する説明に注意する必要があります。
弁護士が「贖罪寄付すれば起訴猶予になるよ」と説明したから贖罪寄付をしたのに、罰金刑になってしまった、あるいは、弁護士が「贖罪寄付すれば執行猶予になるよ」と説明したから贖罪寄付したのに、実刑になってしまったと揉めてしまうこともあり得ます。
もっとも一般的には、検察官や裁判官は、贖罪寄付があるときには量刑を軽めにしてくれる傾向があるため、仮に起訴猶予や執行猶予にならなかったとしても、贖罪寄付自体が全く無駄になるとも限りませんし、起訴猶予や執行猶予をどうしても勝ち取りたいからできることを少しでもしたいという方は、無理のない範囲でやってみてもよいでしょう。
供託とは
被害者が示談金の受領を拒否している場合、被害者の代わりに法務局に損害賠償相当額の金銭を寄託するという供託制度を利用することができます(民法494条)。
もっとも、債務の履行地の供託所は被害者の住居地(債務の履行地)が管轄なので、被害者の住所が分からないと供託制度を利用することができません(民法495条1項、484条1項)。
供託の効果
支払いを行ったのと同じ効果が生じ、被害弁償債務が消滅します(民法494条1項)。
しかし、被害者が刑事処罰を求めないという意思表明はないので、示談ほど有利な情状にはなりません。あくまで示談成立を目標にし、できることを尽くしてもどうしても被害者が示談に応じてくれなかった場合の最終手段と考えた方がよいでしょう。
贖罪寄付と供託の違い
贖罪寄付と供託は、どちらも被害者が刑事処罰を求めないという意思表明はなく、示談ほど有利な情状にならない点は共通しています。
しかし、贖罪寄付は直接の被害者に被害回復がなされないのに対し、供託は直接の被害者に被害弁償したのと法的には同じ効果が生じる点で両者は大きく異なります。したがって、贖罪寄付と供託のどちらをすべきか迷うときは、まずは供託を検討し、供託もできない場合は贖罪寄付を検討するという順番になるでしょう。
贖罪寄付・供託と示談の違い
贖罪寄付や供託は、先ほどのとおり、どちらも被害者が刑事処罰を求めないという意思表明はないため、示談ほど有利な情状にならず、あくまで示談が成立しなかった場合の代替手段と考えるべきです。
特に、被害者の処罰意思が重視される性犯罪などでは、贖罪寄付や供託の効果は窃盗や横領などの財産犯の事件に比べればさほど高くありません。そのため、弁護士は事案の性質もよく考慮したうえで、贖罪寄付や供託をすべきか検討する必要があります。
贖罪寄付の方法・手順
贖罪寄付は一般的に弁護士を通じて行われます。
一般的な方法・手順は、まず、贖罪寄付をする慈善団体等を決めて、依頼者が弁護士に寄付金を預けます。その後、弁護士がお預かりした寄付金を慈善団体等に寄付し、証明書を取得します。そして、その証明書を、検察官あるいは裁判官に提出します。
贖罪寄付の一般的な金額
先ほどのとおり、贖罪寄付は示談も供託もできない場合に検討する手段なので、実際には薬物事犯やスピード違反のような道路交通法違反の事案でよく使われます。そのため、被害金額がそもそもない場合が多いため、いくら寄付すべきかがわかりにくいのですが、反省を深めていると評価される必要があるので安すぎる金額では意味がなく、示談や供託ほど効果は大きくないのであまりに高すぎる金額は推奨できません。したがって、数十万円くらいが一応の目安になり、それ以上はお金に余裕があってどうしても起訴猶予や執行猶予が欲しい方は検討する、ということになるでしょう。
ただ、これはあくまで一応の目安にすぎませんので、実際の寄付金額は、刑事処分を受けることによる不利益や自分の財政状況も踏まえてよく弁護士と相談すべきです。
もし被害金額がわかる場合はそれを基準にすればよく、また、違法は犯罪収益を吐き出す目的でするならば自分が得た金額を基準にすればよいでしょう。
贖罪寄付が行われた解決事例
当事務所で取り扱った事例で、贖罪寄付が行われたものを一部ご紹介します。
- 電磁的公正証書原本不実記録・同行使の公判事件で日本財団に75万円を贖罪寄付し、執行猶予を獲得した事件
- 特殊詐欺の公判事件で被害弁償に加えて自らが得た違法収益15万円を犯罪被害者支援センターに贖罪寄付し、執行猶予を獲得した事件
- 大麻密売の控訴事件で自らが得た違法収益約500万円を日本財団に贖罪寄付し、6か月減軽された事件
贖罪寄付を受け付けている団体
ご参考として、贖罪寄付を受け付けている団体を一部ご紹介いたします。
- 日本弁護士連合会(日弁連)
- 各都道府県の弁護士会
- 日本司法支援センター(法テラス)
- 日本財団
- 犯罪被害者のNPOやNGO、支援団体 など
まとめ
いかがでしたでしょうか。贖罪寄付や供託は、示談に比べて効果が弱いものの、示談ができない場合、結果的にするかしないかはともかく、検討はすべき情状弁護の手法といえるでしょう。
しかし、するかしないか、するとしても具体的にいくらにするか、どう手続をすればよいかを1人で決めるのは難しいことです。贖罪寄付や供託を検討されている方はぜひ刑事事件に強い弁護士にご相談ください。あなたにとって最善の方法を一緒に考えましょう。