あなたやあなたの身近な人が、刑事事件を起こして被害者を生み出してしまった場合、更生の第一歩は、被害者に対して、誠実な謝罪の意思を伝えることから始まります。
往々にして、犯罪をするその瞬間、犯人は、自分の犯罪によって、相手(被害者)がどれ程に深い傷を負うか、どれ程にその後の生活も平穏に過ごせなくなるのか等について、思いが及んでいない場合が殆どです。もし被害者の気持ちが最初から分かっているのなら、そもそも人を傷付けてしまうような犯罪行為はしないはずだからです。
しかし、犯罪をしてしまったあなたや身近な人が、もし、今からでも罪を悔い、少しでも被害者の方にお詫びを伝えたいと思うのなら、その思いを誠実かつ失礼の無いよう被害者の方に伝えるために、謝罪文を作成するいう方法があります。以下、謝罪文を作成する場合の注意点などを中心に解説してまいります。
謝罪文と刑事事件
謝罪文を被害者の方に届ける場合には、後述の通り、いくつか注意点があるので、よく準備をすることが必要です。結果として、被害者の方に謝罪文を受け取ってもらえたり、示談がまとまった場合などには、刑事事件の処分が不起訴となったり、処分が軽くなったりする場合があります。
ですが、このような「自分(犯人)のため」という意識の下では、被害者の方に読んでいただけるような謝罪文を作成することは中々困難かもしれません。
謝罪文を書く場合には、「自分(犯人)の処分を軽くしたい」から書くのではなく、「被害者の方は自分(犯人)の行為のせいでどのような苦痛を受けただろうか」「そのような苦痛を被害者の方に与えてしまったことを、今、自分(犯人)はどう思うのか」などといった、あくまで被害者の方の痛みや苦しみを思い、そのような苦痛を与えてしまったことに対するお詫びをお伝えするために、謝罪文を書きたいと思ったはずです。
遅ればせながら罪に向き合うことを決めたからには、そのような初心を決して忘れてはならないのです。
なぜ謝罪文という形式なのか
なぜ、直接会った上の謝罪ではなく、謝罪文という書面の形を取るのでしょうか。中には、「本当に罪を後悔しているので、被害者様の元へ赴き、誠心誠意謝罪させて頂きたい」との念に駆られる犯人も居ます。
被害者の方との人間関係や事件の性質などにもよりますが、原則としては、事件後、犯人側(犯人やその家族、友人など)は、被害者の方に直接接触することは回避するべきです。後述する通り、被害者の方からすれば、犯人やその家族が直接会いに来るということ自体、犯罪で受けた心身の傷を思い出してしまったり、「また何をされるのか分からない」という新たな恐怖心を抱いてしまう可能性があります。
そのため、原則としては、犯人側に属する場合、被害者の方へ直接に接触するべきではないといえます。そこで、せめてもの謝罪の意思を表す手段として、謝罪文という形式があるのです。
謝罪文の内容
謝罪文を作成する場合、まず内容について、被害者の方に不快な思いをさせるような文面にしないことが必須です。すでに犯罪自体によって被害者の方は深く傷付いておられます。そのような被害者の方を、謝罪文によって更に傷つけてしまうことは、無意味であるだけでなくむしろ有害でしかありません。
どのような内容ならば被害者の方をこれ以上傷付けないかは、弁護士などの第三者から客観的な添削を受けることで明確となります。したがって、謝罪文を作成する場合は、必ず弁護士などの第三者のチェックを受けることが重要となります。
謝罪文の形式
謝罪文の形式面については、文面を丁寧に記載し、読みやすい文字で書くことが大切です。誠意ある謝罪の意思を真摯に伝えたいのならば、文字は丁寧に記載し、読みやすい文字で記載することが重要となります。
決して綺麗な文字が書けないなどと悲観する必要はありませんが、きちんと心を込めて書くならば、時間をかけてゆっくり丁寧に記載するよう心掛けるべきといえます。
謝罪文の注意点・してはいけないこと
謝罪文をお渡しする前に、必ず注意すべき点があります。それは、そもそも謝罪文を渡して良いか、必ず弁護士などの第三者を通じて被害者に確認することです。
被害の程度等によっては、そもそも謝罪文など受け取りたく無いという場合も少なくありません。被害者の方からすると、謝罪文を受け取る行為自体、犯罪の被害がフラッシュバックしてしまう等し、更に苦痛が増えてしまうという場合があり得るのです。したがって、謝罪の意思を伝えて良いか、謝罪文を渡して良いかは、必ず被害者の意思を確認してから判断することが重要となります。
また、この場合、犯罪をした者やその家族が直接に被害者の方に確認を求めようとするのは、被害者の方からすると「次は何をされるかわからない」という更なる恐怖を覚えるおそれがあり、また、裁判所や捜査機関などからも、犯人が被害者を脅そうとしている等とみられてしまうおそれがあります。
被害者の方に不要の誤解を与えないためにも、このような意思確認は、必ず弁護士などの事件に直接関係しない第三者が行うべきといえます。
謝罪文の届け方
上記で、意思確認は第三者がすべきと書きました。これは、意思確認の場面だけでなく、謝罪文を渡す場面でも同じことが言えます。謝罪文を被害者の方に渡すのは弁護士などの第三者とし、原則として、犯人や犯人の家族は、事件後は被害者の方に直接接触しないことが大切です。
前述の事前の意思確認も同じですが、原則として、これらの被害者の方との接触は、弁護士などの事件に直接関与していない第三者が行い、犯人やその家族が被害者の方と直接に接触を行うのは回避すべきです。
被害者の方からすれば、犯人やその家族に直接会うこと自体、犯罪を思い出したり、「会ったらまた何をされるか分からない」等の恐怖を抱く可能性があるからです。また、犯人側の人間がどんなに真摯な謝罪を伝えようとしても、被害者の方から見れば、「この人は犯人の味方だから犯人に都合良いことしか言わないだろう」との考えがどうしても拭えない場合もあります。折角の誠実な謝罪も、正確に伝わらなければ意味が無いので、このように事態を悪化させてしまうリスクのある行為は避けるべきといえます。
また、謝罪文を渡す場合には、謝罪文だけではなく、状況に応じ、せめてものお詫びとして、償いとしての示談金(損害賠償金)を予め工面しておくことも重要といえます。もちろん謝罪文を書くという行為自体、犯人側は誠実な反省の意味で書くことと思います。ですが、被害者の方から見ると、謝罪文だけ手渡された場合に、「紙切れだけで被害を無かったことにせよとでも言うのか」などといった、不快感や不信感を抱いてしまう可能性も少なくありません。
金額をいくらにすべきかは、刑事専門の弁護士と相談すべきですが、まずはせめてものお詫びとして、償いとしての示談金を用意するよう出来る限りの方策を尽くすべきといえます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。一度犯してしまった罪をなかったことにすることはできませんが、自らの罪を恥じ悔いている場合には、謝罪文という形で、被害者の方の苦痛や、自らの犯罪の罪深さに、正面から向き合い、言葉に表すことが、改悛の道の一歩となるのです。