刑事事件に関する報道で「被告人」「被告」「被疑者」「容疑者」等、耳にする単語が何種類かあると思いますが、それぞれの違いを意識したことはありますでしょうか。以下、順に代表弁護士・中村勉が解説してまいります。
被告人とは
被告人とは、犯罪の疑いをかけられ、検察官に起訴された人のことを指します。起訴される前の疑いをかけられた人は「被疑者」といい、起訴されると、被告人という立場に変わります。そして、判決が確定し、刑事裁判が終わった段階で、被告人という立場ではなくなります。
「被告人」と似たような言葉に、「被告」というものがあります。通常、「被告」とは、民事事件において訴えられた人のことをいいます。
報道ではよく、逮捕された人は「容疑者」と呼ばれ、その後起訴された人は「被告」と呼ばれていますが、いずれも刑事訴訟法上の言葉ではありません。正確には、起訴された人は「被告人」といいます。
起訴されて被告人になったら
被告人となれば、刑事裁判を受けることになります。刑事裁判の場合は、基本的に弁護人がつかなければ裁判をすることができません。弁護人をつけなくてもよい任意的な弁護事件もありますが、そのような事件においても弁護人がついていないケースはまれです。
弁護人には、私選弁護人と国選弁護人の2種類があります。以下より、それぞれのメリット・デメリットを紹介します。
私選弁護人 | 国選弁護人 | |
---|---|---|
メリット | 刑事事件に強い弁護士等、自由に弁護士を選べる。 | 被疑者段階から、勾留決定前や身柄拘束されていない事件(在宅事件)においてもつけることができる。 基本的に費用がかからない。 |
デメリット | 費用がかかる。 | 弁護士を自ら選ぶことはできない。 被疑者段階の場合は、勾留決定後、身柄拘束されている事件しかしかつける事ができない。 また、被疑者段階の場合は、身柄拘束が解かれた後は国選弁護人の任務はその時点で終了し、たとえ処分保留となっていても弁護人がいない状態になってしまう。 |
私選弁護人とは
私選弁護人は、自身や家族等が契約し、弁護人として選任した弁護士を指します。
契約には費用がかかりますが、依頼する弁護士を自由に選べるので、その事件の分野に精通している弁護士を選ぶことができます。
国選弁護人とは
国選弁護人は、文字通り、国が選んだ弁護士を指します。被告人が経済的理由等で私選弁護人をつけることができない場合に、国がその費用で弁護人を選任することで、被告人の弁護人依頼権(日本国憲法37条3項)を実質的に保障するのが国選弁護制度の本来の趣旨ですので、基本的に費用がかかりません。
しかし、被告人は自ら国選弁護人となる弁護士を選ぶことができません。一旦ついた国選弁護人と相性が合わず、弁護士を変えたいという場合には、別途私選弁護人を選任する必要があります。私選弁護人を選任すると、国選弁護人は自動的に解任されます。
被告人の権利
日本国憲法37条は、次の権利を被告人に保障しています。
- 公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利(1項)
- 証人審問権・証人喚問権(2項)
- 弁護人依頼権(3項)
弁護人依頼権を保障している日本国憲法37条3項の後段では、「被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。」とされており、これが上述した被告人の国選弁護制度の直接の根拠となっています。
これらの権利の他にも、被告人には黙秘権(刑事訴訟法291条4項、日本国憲法38条1項)等の重要な権利が与えられています。
刑事裁判の流れ
ここでは、被告人となった方が経験する、刑事裁判の第一審の通常の流れを説明します。
冒頭手続き
①人定質問
出廷している被告人が人違いでないことを確認するため、裁判官が被告人に対し、氏名、生年月日、住居、本籍、職業等を尋ねます。この時に、起訴状を受領しているかどうかも尋ねられることが多いです。
②起訴状の朗読
検察官が起訴状を朗読します。
③黙秘権の告知
裁判官が黙秘権の告知を行います。
④被告人・弁護人の陳述
起訴状記載の公訴事実につき、間違いがないか、被告人、弁護人の順に聞かれます。事実を争う場合には、ここで意見を述べることになります。
証拠調べ
⑤冒頭陳述
検察官が証拠によって証明すべき事実を陳述します。
裁判員裁判以外では弁護人による冒頭陳述は必要的ではないため、ほとんど行われません。一方、通常の裁判において弁護人は裁判所の許可を得て冒頭陳述をすることができます。
⑥証拠調べ請求、相手方の意見陳述、証拠の採否決定、書証・物証の取調べ
まず、検察官が証拠調べ請求を行います。
次に、弁護人は裁判所から当該証拠調べ請求に対する意見を求められますので、書証の同意・不同意、物証・人証の異議あり・異議なし等の意見を述べます(意見を記載した「証拠意見書」という書面を提出した上、「証拠意見書記載のとおりです。」とのみ言うこともあります)。
裁判所は、弁護人の意見も踏まえて証拠の採否を決定します。一部、後述の⑦や⑧を終えるまで、決定を留保することもあります。
その後、採用された書証・物証の取調べを行います。検察官が書証については朗読又はその要旨を告知し、物証については展示します。
以上の手続きが終わった後、今度は弁護人が証拠調べ請求を行います。その後は同様の流れになります。簡易な認め事件(自白事件)では、弁護人が被告人質問の実施のみ求め、証拠調べ請求は行わないこともあります。
⑦証人の取調べ(証人尋問)
証人の取調べが請求され、採用決定された場合には、証人尋問が行われます。
まず、裁判官が証人に名前を尋ねます。生年月日、住居、職業等については、通常、「事前にご記入いただいている証人出頭カード記載のとおりでよろしいですね?」等と確認されます。
次に、証人が「良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います。」と書かれている用紙を読み上げ、宣誓を行います。裁判官は、証人に対し、宣誓通りに本当のことを証言するよう告げ、宣誓をした上で虚偽の証言をすると偽証罪(刑法169条)として処罰されることがあることを告知します。
偽証罪の告知が済んだ後、まず、取調べを請求した当事者が質問をし(主尋問)、次に相手方が質問をします(反対尋問)。その後、事件によっては再主尋問、再反対尋問を経て、裁判所が必要に応じて質問をします。
⑧被告人質問
まず、弁護人が被告人に質問し(主質問)、次に、検察官が被告人に質問します(反対質問)。その後、事件によって再質問・再反対質問を経て、裁判所が被告人に質問します。
なお、被告人には黙秘権がありますので、証人尋問の際のような宣誓はありませんし、被告人が虚偽の供述をしても偽証罪は成立しませんので(刑法169条)、偽証罪の告知はありません。
弁論手続
⑨論告・求刑
検察官が、事実と法律の適用について、意見を述べます(論告)。また、検察官が有罪を主張するときには、量刑、すなわち懲役又は禁錮何年に処すべきかや罰金何万円に処すべきかといった意見も述べます(求刑)。
⑩最終弁論
検察官による論告・求刑に対応する形で、弁護人においても意見を述べます。
⑪最終陳述
被告人が意見を述べます。何も述べなくてもよいですが、認め事件の場合には、謝罪や反省の意を述べる例がよく見られます。
結審・判決
上記⑪まで終わると、結審し、判決が言い渡されます。
判決は、別途期日を設けて別日にされることが多いですが、証拠調べにほとんど時間がかからず、かつ、執行猶予付きの判決が予想されるような簡易な事件ですと、「即日判決」といって、被告人の最終陳述後にすぐ判決が言い渡されることもあります。
言い渡された判決は、その翌日から起算して2週間以内に被告人・検察官のいずれも控訴しなければ確定します。
起訴前後の身柄
被疑者段階で身柄を拘束されたまま事件が進み、起訴された場合、その後はそのまま被告人としての身柄拘束が続き、原則として判決が出るまで身柄が解放されないこととなります(実刑判決の場合には、そのまま身柄拘束が続きます)。
しかし、被疑者段階と異なり、被告人段階では、裁判所に対し保釈請求という手続を取ることが出来ます。
保釈とは、裁判が続いている中でも、一定の条件をつけて一時的に身柄解放をする制度です。保釈をされたとしても裁判は続き、被告人という立場も変わりません。保釈請求は、弁護士がすることが一般的です。
保釈の条件
大前提の条件として、保釈保証金の納付があります。
その他の条件は具体的な事件内容によって変わってきますが、一般的に以下のような条件が多く見られます。
- 裁判所の許可なく住居を変更しない。
- 召喚を受けたときは、必ず定められた日時に出頭する。
- 3日以上の旅行をする場合には、事前に裁判所から許可を得る。
- 逃げ隠れしたり、証拠隠滅と思われるような行為をしない。
- 被害者、目撃者及びその他事件関係者に対し、直接又は弁護人を除く他の者を介して一切の接触を行わない。
まとめ
いかがでしたでしょうか。ここでは被告人となった場合に経験するであろう事柄についてひと通り見てきました。
被疑者段階から弁護人がついているものの相性が悪いと感じている方、弁護人をつけずにこれまでご自身で警察や検察とやり取りをしてきたけれども起訴されてしまった方は、弁護士にご相談ください。