本コラムは弁護士・中村勉が執筆いたしました。
義勇兵への志願、罪に問われる?|私戦予備・陰謀罪について弁護士が解説
在日ウクライナ大使館はこれまでに、ゼレンスキー大統領がウクライナ兵と共にロシア軍と戦う有志のボランティアを各国に呼び掛けたことを公式FacebookやTwitter等のSNSの投稿で報じ、応募に関する問い合わせを同大使館で受け付けるとする等、今回のロシアによる侵攻を巡って外国人の義勇兵を募りました。
各社報道によると、令和4年3月1日時点で、日本からは約70人の志願があったようです。
もっとも、義勇兵としてロシア・ウクライナ間の戦闘に参加することは、日本の刑法の私戦予備・陰謀罪に当たる可能性があり、日本政府は現在、志願者に対して自制を呼びかけています。なお、日本政府の要請により、上記のSNSの投稿は現在では削除されています。
私戦予備罪に関しては、2019年、2014年に過激派組織「イスラム国」(IS)に戦闘員として参加するためにシリアへ渡航する準備をしたとして、警視庁公安部が私戦予備容疑で当時北大生だった男性など5人を書類送検しています。その後、全員不起訴となっているものの、警視庁公安部は送検時、起訴を求める厳重処分の意見を付していました。
私戦予備・陰謀罪とは
普段耳にすることはほとんどない罪名ですが、私戦予備・陰謀罪は殺人罪や傷害罪など基本的な犯罪が定められている刑法の第93条に定められている罪です。
刑法第93条(私戦予備及び陰謀)
外国に対して私的に戦闘行為をする目的で、その予備又は陰謀をした者は、三月以上五年以下の禁錮に処する。ただし、自首した者は、その刑を免除する。
刑罰は3月以上5年以下の禁錮刑となっています。罰金はありません。
刑法上「国交に関する罪」(刑法第4章)として定められていることからも想像がつくところではありますが、この罪は、日本の国際関係的安全を図るために定められています。すなわち、「私的に戦闘行為をする目的」とは、国家の意思とはかかわりなく、自己の意思で個人的に外国に対して武力行使を行う目的を意味しますが、そのような目的による戦闘行為であっても日本の国際的立場や国家の存立を危うくするものと考えられるからです。
「予備」とは、準備行為のことをいいます。ここでは、戦闘行為のために必要な武器や資金の調達、兵員の募集などが想定されます。
「陰謀」とは、二人以上のものが謀議・画策を行うことです。
数年前、いわゆる「共謀罪」をめぐる与野党の攻防が激しく行われ、結果、平成29年6月にテロ等準備罪を定める組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案が成立するに至りました。
テロ等準備罪は、対象犯罪の実行の着手前の行為を罰するものであり、実際に犯罪の実行の着手に至らなくても成立しますが、私戦予備・陰謀罪も同じように、実際に私的な戦闘行為をするに至らなくても、その準備行為や謀議行為をするだけで成立します。
なお、私的な戦闘行為の実行を未然に防止するという刑事政策的観点から、自首をした場合には刑が免除されることになっています(刑法第93条ただし書)。
既に義勇兵に志願してしまった人は私戦予備・陰謀罪に問われる?
まず、今回の義勇兵の志願者は、ロシアに対して個別の戦闘行為を行う目的で志願したわけではないでしょう。既に存在するロシアとウクライナという主権国家間の戦闘行為において、一方当事者であるウクライナの義勇兵として参戦することに志願しているのです。
このような参加形態による戦闘行為は、私戦予備・陰謀罪でいう「私的に戦闘行為をする」には当たらないと解釈する余地もありますし、先述した「日本の国際関係的安全を図るため」という本罪の趣旨からすれば、当然に当たると解釈すべきとの考え方もあり得ます。
いずれにしても、実務上も学問上も解釈が固まっていないのは確かです。
なお、令和4年11月11日付け報道によれば、日本政府関係者は、ウクライナ東部における戦闘で20代の日本人義勇兵1名が同月9日に死亡したことを確認したとのことです(出典: NHKニュース)。