詐欺罪は古典的な犯罪類型の一つで、大昔も今も詐欺による犯罪が絶えることはありません。人を騙すという行為は人間が持っている悪徳の一つで、金銭欲から来る犯罪ですので、それに対する刑罰も軽くはありません。そして、ここ数年のコロナ禍で、詐欺はますます横行しています。
近時、多くなっているのが飲食店等に対する持続化給付金をめぐる詐欺罪です。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、持続化給付金が支給されることになりましたが、給付金支給をめぐって虚偽の書類を作成し、実際には影響していたにもかかわらず、休業していたとしてその損失補填を求め、金銭をだまし取る態様がそれです。それでは、この犯罪類型について量刑や弁護活動のポイントなどを代表弁護士・中村勉が解説します。
給付金詐欺とは
給付金とは、病気や災害(コロナ禍の損失を含む)など一定の事由が発生した場合に、その損失を補填したり、被災者の経済的再生等を目的としたりして給付される金銭等を指します。各種給付金の支給規程に該当する理由がないにもかかわらず、この理由があるものと偽って申請をし、現金等の給付を受ける態様の詐欺を指します。
ちなみに、給付金という言葉自体は、国や地方公共団体から給付される公金と民間の保険会社から給付される金銭等を問いませんが、後者は一般に「保険金詐欺」と呼ばれることが多いため、以下において、給付金詐欺とは、前者の公金に対する詐欺のことを念頭に置いて説明いたします。
この持続化給付金の支給要件の中に、①「2019年以前から事業により事業収入(売上)を得ており、今後も事業を継続する意思があること」②「2020年1月以降、新型コロナウイルス感染症拡大の影響等により、前年同月比で事業収入が50%以上減少した月があること」というものがあります。
持続化給付金詐欺の場合、学生やアルバイトあるいは会社員であり、①の要件を満たさないにもかかわらず、架空の事業実態を仮装して、個人事業主として申請を行うパターンが非常に多いです。
その他に、元々、職種的に新型コロナウイルスの感染拡大の影響をほとんど受けず、売り上げ等の悪化が単なる営業不振であり②の要件を満たさないにも関わらず、これが新型コロナウイルスの感染拡大が原因であるかのように申請し、給付金を得るというパターンもあります。
給付金詐欺の量刑
給付金詐欺とは、各給付金の支給規程に該当する事由が発生していないにもかかわらず、これが発生したものとして虚偽の申請を行い、これに基づき現金等の給付を受ける態様の詐欺のことをいいます。
この種類の詐欺は、以前から天災等が発生した場合に問題にはなっていましたが、昨今新型コロナウイルスの拡大に伴って、広く世間で問題として認知されるようになりました。
例えば、持続化給付金で、個人事業主の場合は、最大100万円を受け取ることができる場合、これを詐取したとなると、被害額100万円の詐欺罪ということになり、被害額は高額ですから、放置すれば逮捕・起訴され、比較的重い判決が想定できます。しかしながら、このような場合であっても、逮捕前に自首をした上、受領した給付金を速やかに返還すれば、逮捕回避・不起訴処分が期待でき、仮に起訴されたとしても執行猶予付き判決が期待できます。ただし、自分1人が不正受給したわけではなく、給付金詐欺を複数人に紹介して報酬をもらっている指南役の場合は、自首したとしても逮捕や起訴を回避するのは難しいかもしれません。
給付金詐欺における弁護活動のポイント
給付金詐欺の場合もグループでの犯行が多いですが、何人もの個人に対して連絡する投資詐欺や特殊詐欺と異なり、国に対する1回きりの行為であることが多いため、被害金額の合計が個人で返せないほど莫大な金額になるケースは、投資詐欺や特殊詐欺に比べれば相対的に少なく、全額の被害弁償が比較的容易です。ただし、給付金詐欺の場合は、国が被害者となるため、示談という形式を取ることが困難です。そのため、返金手続をすることになりますが、給付金の種類によっては刑事処分が決まるまで返金を受け付けてくれない場合もあります。
例えば、実際にあった事案ですと、キャリアアップ助成金は受け付けてもらえませんでした。そのような場合は、供託(民法494条)することで、実質的な被害弁償を図ることが考えられます。ただし、供託は通常の弁済に比べて手続が煩雑であり、あまり経験がなく、消極的な弁護士もいます。きちんと手続がわかっている弁護士を選ぶことも重要でしょう。
刑事処分が決まる前でも返金を受け付けている種類の給付金(持続化給付金など)でも、申請者以外の返金は難しいかもしれません。
その場合は、申請者本人やその弁護人と共同して返金手続を進めることも考えられます。
給付金詐欺事件に強い弁護士をつけるメリット
詐欺で前科をつけないためには
一般的に、詐欺罪の初動の弁護活動は、事件化する前に被害者と交渉し、被害届を出さない・告訴しないことを約する内容の示談を成立させることを目指すことですが、給付金詐欺のように被害者が国である事案の場合は、このような内容の示談は困難ですので、早急に返金手続をすることが重要です。返金手続については当事務所にご相談ください。
事件発覚のおそれ・逮捕のおそれが相当程度高い事案の場合は、逮捕回避の可能性を上げるために自首も検討すべきでしょう。
給付金詐欺で逮捕されたら
給付金の詐欺罪で万が一逮捕された場合、まずは勾留回避の意見書を提出して勾留回避を目指し、もし勾留されてしまった場合は準抗告申立書や勾留取消請求書を提出して、身柄解放活動をすることが考えられます。
給付金詐欺で刑を軽くするためには
詐欺罪は他人の財産を騙し取る財産犯ですから、被害結果のメインは金銭的被害になります。
起訴状記載の公訴事実に争いはないが、量刑をできる限り軽くする情状弁護の場合、被害結果の回復が大きな情状になりますので、何よりもやるべきことは示談ということになりますが、国が被害者の場合など、示談が困難なケースの場合は、仕方がないので、返金手続をすることになります。
給付金詐欺の事例
受給対象者でないのに偽り受給
受給対象者でない学生・主婦・サラリーマン・無職の方などが、個人事業主などと偽り、申請・受給する行為は紛れもない詐欺行為であり犯罪です。
冒頭で取り上げた男子大学生も、実態のない個人事業主としての架空の確定申告や売上を記入し、持続化給付金を詐取したと報道されています。
コロナが原因ではないのに受給
持続化給付金制度は、先に見たように、コロナにより打撃を受けた事業者などを支援する目的です。そのため、コロナ以外の原因により減収した場合には受給対象となりません。したがって、減収の原因がコロナ以外であるにもかかわらず本給付金を受給した場合にも詐欺罪が成立します。
二重受給
申請・受給は1人1回までです。したがって、持続化給付金の受給対象者になるとしても、2回以上申請・受給してしまうと詐欺罪が成立します。
売上の不正操作
持続化給付金の額は、前年度に比する減少率に対応して増額されます。したがって、本来の減収率を偽って申請・受給することも詐欺罪となります。
「簡単取得」などとうたう申請手続代行業者を利用
SNSなどのインターネット上では、手数料等を取り給付金の代行申請を請け負う業者が多数見られます。中には、書類の改竄などを行い、本来受給資格がなかったり、満額もらえない状況であっても、満額の給付を得られるよう宣伝したりする業者もいます。
このような業者を通じた申請であっても、本来受給できないはずの給付金を受給した場合には詐欺罪が成立する可能性があります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は持続化給付金・特別定額給付金を狙った詐欺について説明いたしました。
簡易な手続が設けられた目的は上述の通り感染症拡大に打撃を受けた事業者・国民の支援です。給付金を狙う詐欺は、このような真に助けを求める方々の得るべき給付金を奪い、さらに自分の将来や社会的信用をも失いかねない重大な犯罪であるのです。