皆さんは、「結婚詐欺」という言葉をおそらく一度は聞いたことがあると思います。
2009年には「婚活」という言葉が流行語にノミネートされ、近年は男女の生涯未婚率が上昇し、晩婚化がささやかれています。
そのような社会情勢を反映して婚活パーティーやマッチングサービスが流行する中、結婚詐欺師による結婚詐欺被害が増えています。今回は結婚詐欺がどのような罪にあたるのかについて見てみましょう。
以下、結婚詐欺の手口や罰則について弁護士・山口亮輔が解説します。
結婚詐欺とは
「結婚詐欺」という用語そのものは広く知られていますが、「結婚詐欺罪」という犯罪は法律上には存在しません。
結婚詐欺は、特殊詐欺、投資詐欺、保険金詐欺などと同様、「詐欺罪」の一種であるといえます。
結婚詐欺の手口
では、結婚詐欺の手口はどのようなものか見て行きましょう。
近年、結婚詐欺師は、婚活パーティーやマッチングサービスに参加してターゲットを探している傾向にあります。
結婚詐欺師は、出会いの場では本性を現さず、半年以上の期間は普通の恋人としてお付き合いが進み、肉体関係を持つこともあり、結婚を前提としたお付き合いをすることが多いです。仕掛けの段階でターゲットに逃げられないために、何かにつけて奢ってくれたり、プレゼントをくれたり、全身をブランドもので揃えているなど、わざと羽振りが良いフリをしていることも多々あります。
しかし、結婚詐欺師は自分の身元を特定できる情報はあまり明かしません。中には偽名を使う人もいます。結婚を前提にお付き合いをしているはずにもかかわらず、「両親に挨拶したい」と伝えたとしても「両親が病気で倒れた」などと理由を付けて、お付き合い以上の関係には至りません。
そうして、相手のことを信用させ、または結婚を焦らせた段階で結婚詐欺師は実行に移します。お決まりの『急にお金が必要になったパターン』です。例えば、「今すぐにでも結婚したいけど、両親が病気で倒れて治療費が必要になった」、「親族にお金を貸していたら逃げられて生活費に困っている」、「事業資金のためにお金が必要」などとうそを言い、相手からお金を借りようとします。
結婚詐欺師は、結婚願望のある男女に対して、「お金を貸してくれればすぐに結婚できる」という期待に付け込んで借りるお金も最初は少額であったものの、何かにつけて金額がどんどんと増えていくことがあります。
そして、ある程度のお金を借りた段階でお金を返すことなく、ある日突然いなくなり、連絡もつながらない状態になるケースが多いです。
あえて借用書を書くケースに注意
結婚詐欺の中には、お金を借りる際に借用書を書くことがあります。これは、借用書があることでお金を借りる際に、「お金は借りたもので後で返すつもりだった」、「騙す意思はなかった」と弁解して警察に対して「お金を返す意思がある」と主張することができるからです。
結婚詐欺で該当する罪と罰則
結婚詐欺は詐欺の手口のひとつであり、刑法第246条に規定されている詐欺罪に問われます。
刑法第246条(詐欺)
人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
詐欺罪が成立するためには「人を欺いて、錯誤に陥らせ、財物を交付させ、これらについて因果関係があること」が必要となります。詐欺罪は以上の要素がすべての行為が備わっていないと、既遂として成立しません。
欺くためのうそがない場合、うそはあったものの見破ったために錯誤に陥らなかった場合などの状態では詐欺罪とはならず、錯誤に陥った場合でも手持ち資金が無いために財物を交付しなかった場合には未遂となります。結婚詐欺が成立する要件として特に重要なのが「人を欺いて」(欺罔行為)です。「人を欺いて」とは、相手方が真実を知っていれば財物を交付しなかったといえるような重要な事項を偽ることを言います。
たとえば「結婚式を開くために資金が必要だ」と伝えて、相手が蓄えた財産からその資金を用意させた場合を考えます。
当初からそもそも結婚する意思も結婚式などを開くつもりもなく、物品の購入や借金の返済などに充てようと考えていたのであれば、通常は財物を交付しないと考えられますので、財物を必要とする重要な事項を偽っているといえますので、「人を欺いて」といえます。
前記のケースで、資金を用意してもらったものの、やはり結婚する気がなくなり婚約を破棄したといった場合は、たとえその資金を別の用途に使ってしまったとしても結婚詐欺は成立しません。
なぜならば、当初は結婚のための資金に充てる意思のもと相手に対して金銭が必要である旨伝えており、事実を偽っているわけではないからです。
ただし、後日、相手方から資金の返済や結婚の進捗状況の確認を求められた際に、資金の返済を猶予し又は免除してもらうために「ブライダル業者が倒産した」などと虚偽の事実を述べた場合には、「人を欺いて」に当たる可能性があります。
そうすると、結婚詐欺においては、最初からだますつもりだったことを証明しなければ詐欺罪の立件は困難であることといえます。
結婚詐欺事件では同種の手口を用いたかどうかによって立件可能性が変わる
先ほど述べたように、結婚詐欺事件では、「当初は結婚するつもりだった」との弁解を崩すことは難しく、「最初からだますつもりだった」と立証する必要があるため、立件が難しい犯罪であるといえます。
それでは、どのような事実が認められれば「最初からだますつもりだった」と立証できるのでしょうか。
結婚詐欺事件で立件されているケースの多くは、複数人被害者がいることが挙げられます。
結婚詐欺師の多くは、婚活パーティーやマッチングアプリなどのサービスを利用し、ターゲットを物色して複数人と同時に連絡しています。我が国においては重婚が認められていませんので、複数人に対して「結婚資金が必要である」と伝えて、金銭を求める事実が認められれば「最初からだますつもりでうそをついた」と推認することができるのです。
また、結婚は一般的には「入籍」と言われるように、婚姻届を役所に提出して新たな戸籍を作成し、お互いに人生のパートナーとして、配偶者に対して同居・扶助・協力義務、貞操義務などの法律上の義務を負うほか相続権を有します。
そのため、結婚にあたって、パートナーの身元を明かさないまま結婚に至ることは稀なことといえます。そして、結婚を前提として資金の提供を求めているにもかかわらず、虚偽の身分証明書を提示するなどして身元を偽ったり、親族への紹介を執拗に拒んでいたり、親族が存在するにもかかわらず「親族は既に他界した」などと虚偽の事実を述べていたりするなどの事実もまた「最初からだますつもりでうそをついた」と推認することができるのです。
このように資金を必要とする事情についての文言のほか、他にも同種手口を用いたことがあるかどうか、身元を偽ったかどうかなどの様々な事実が認められると「当初は結婚するつもりだった」との弁解が崩れ、「最初からだますつもりだった」と立証することができるのです。
結婚詐欺で逮捕されたら
過去の交際相手との間で結婚に向けてお話が進んでいたものの、性格や価値観の不一致などから交際関係を解消し又は婚約を破棄したところ、過去の金銭トラブルから刑事事件に発展した場合は、弁護士にご相談ください。
弁護士が交際期間中の結婚成立に向かう経緯、交際関係や婚約を解消するに至った経緯、金銭問題が生じた経緯などから、犯罪として詐欺が成立するかどうかを吟味し、捜査機関に対して弁解を主張します。また、早期の身柄釈放のために、金銭問題が現に存在する場合には、相手方との示談も視野に入れた弁護活動をする必要が生じます。そのため、もし結婚詐欺として逮捕された場合には、弁護士にご相談ください。
結婚詐欺の事例・判例
事例1
婚活アプリで知り合った女性に結婚をにおわせ、「空き巣に入られて会社の金を盗まれた」などの嘘を言い、現金50万円をだまし取ったという容疑で、警視庁は詐欺容疑で東京都在住の50代男性を逮捕した。なお、この女性を含む数人からも、約4千万円をだまし取ったとみて調査が進められている。
事例2
自分を海上保安庁の職員などと偽り結婚するつもりがない女性と式を挙げた後、現金2000万円をだまし取ったとして、40代会社員の男性が逮捕された。
女性と結婚する気がないのに式を挙げ、仕事のトラブルで訴えられたなどのうそを言い、女性から2000万円をだまし取った疑いがある。
なお、男性はその後、別の女性と婚姻届を出していた。調べに対して、容疑の一部を否認している。
事例3
結婚できると信用させ、婚活パーティーで知り合った女性から投資やトラブル解決名目で約390万円をだまし取った容疑で、警視庁は詐欺容疑で、住所不定の40代男性を逮捕した。なお、男性は自身を有名国立大の講師などと身分を偽っていた。
警察によると、男性は「身に覚えがないことはない」と供述。警察はこの女性を含めた7名から被害相談を受けており、被害総額は約3900万円に上るとみられ、調査が進められている。
判例
初犯で騙し取った金額が少額の事例(名古屋地方裁判所令和2年8月12日判決)
婚活パーティで知り合った女性に実在する裁判官の名を騙り、うその結婚話をもちかけ、現金20万円をだまし取ったという事例。
その動機には「女性が自分のことを職業で見ているようで反感を持ち、金をだまし取って鬱憤を晴らそうと思った」などと述べているものがある。(懲役2年執行猶予3年)
初犯であるが、だまし取った金額が多額の事例(岐阜地方裁判所平成28年7月6日判決)
婚活パーティで知り合った被害者2名に対し、いずれも結婚を前提とした交際を装い、将来結婚すれば車が共有のものになるなどと述べて自動車購入代金名目で金銭を詐取したという事例。
被告人に前科前歴はないが、被害金額370万円と高額で被害弁償が一切なされなかったため、被害者らの処罰感情が厳しい。また被告人が本件各犯行を否認して不合理な弁解に終始し、反省の態度が見られないことも考慮すると、実刑はやむをえないと判断された。(懲役2年)
再犯でだまし取った金額が少額の事例(神戸地方裁判所平成13年12月27日判決)
被告人は3名の被害者に対し生活費や遊興費あるいは借金の返済資金等ほしさに、被害者Aに対しては独身であると偽った上、資産家であるように見せかけ、結婚したいなどと申し向けながら、すぐに返すなどと欺いて借金を申し込んで金員を詐取した。被害者Bに対しては、偽名を名乗って設計事務所を経営しているなどと偽った上、虚偽の儲け話を持ちかけて新幹線回数券を詐取した。被害者Cに対しては、偽名を名乗ってテレビのプロデューサーをしているなどと偽った上、調査名下等にクレジットカードを詐取するや、すぐさまそのクレジットカードを使用して銀行等の現金自動預払機等から現金を窃取し、あるいは被害者の隙を狙ってキャッシュカード等在中財布を窃取し、その被害者がアルバイト先から給料の支払いを受けたころを見計らいあるいは郵便局の定額貯金を解約させて通常貯金に入金させた上、窃取したキャッシュカードを使用して銀行や郵便局の現金自動預払機から現金を窃取したという事例。
過去に被告人は、窃盗、有印私文書偽造、同行使、詐欺、占有離脱物横領等でそれぞれ処せられて服役した前科があり、その中には本件と同種の犯行態様のものが含まれていた。
被害の総額が720万円余りと相当に多額であり、被害者Cに対しては、被害(起訴外のものもある。)弁償の内金として80万円が支払われているものの、被害者AおよびBに対しては全く被害弁償はなされておらず、これら被害者らの被害感情には厳しいものがある。
そして、被告人は、被害者AやBに対する犯行について、公判段階になって自白を翻し不合理不自然な弁解を重ねて、自己の刑事責任を免れようとしているだけでなく、被害者らに対する侮辱的な言動までをもしていて、真摯な反省悔悟の情は窺えないことなどを考え併せると、犯情は悪く、被告人の刑事責任は相当に重いとされた。(懲役4年)
再犯でだまし取った金額が多額の事例(横浜地方裁判所平成15年6月4日判決)
結婚相談所において知り合った11名の被害者らに対し、自己が資産家であるように装った上、種々虚偽の事実を申し述べ、金員の借用を申込み、これを信じた被害者らから金銭を騙し取り、あるいはキャッシュカードを騙し取り、同カードを用いて金融機関から現金を引き下ろし窃取するなどして総額1億5000万余りをだまし取ったという事例。
その動機は慣れ親しんだ贅沢な生活を維持し、ホストクラブ等での豪遊を続ける金を得るためであり、中には経済的な余裕がないことが明らかな者からも消費者金融で借入させてまでだまし取っていた。
また、被害弁償はほとんどされておらず今後の弁償の見込みも乏しい。被害者らの処罰感情はいずれも峻烈である。被告人は過去にも同様の手口による詐欺事犯を起こして懲役4年6月の実刑判決を受けていた。(懲役9年)
まとめ
いかがでしたでしょうか。結婚詐欺は、「結婚したい」という男女の結婚願望に付け込んだ卑劣な犯罪です。
被害者は財産的な損害もさることながら、人の心も奪われて一種のトラウマを植え付けてしまう可能性もあるものです。
しかしながら、当初は順調に結婚に向けて進んでいた話も、男女のちょっとした気持ちの不一致から金銭問題が大きく発展してしまうこともあるのです。
そのため、交際関係及び金銭問題が円満に解消せず、結婚詐欺として疑われた場合には、弁護士に相談して対応を検討することをお勧めします。