TwitterやInstagramなどのSNSの普及、マッチングアプリの一般化によって、見知らぬ異性が知り合い交際や性交渉に発展する機会は格段に増加しました。これに伴い、大人と未成年がインターネットを通じて知り合い、金銭を対価として性的な行為に及ぶ事例も急増しています。
経済的に自立していない未成年に対して金銭の誘惑を利用して性的行為に誘引するというのは許されることではありませんが、相手の年齢を確認して性行為に及んだものの、実は未成年であったという相談も多くあります。
この記事では、児童買春とはどのような犯罪なのか、児童買春で逮捕されるとどうなるのか、また、弁護士に相談するタイミングやメリットについて、代表弁護士・中村勉が解説します。
児童買春はどのように捜査されるか(捜査の実際)
児童買春は、買春対象者である未成年の子供が深夜徘徊、盛り場徘徊、ホテル街徘徊で補導されることで発覚することが多いです。そのような子供は、Twitter等のSNSを介して性交渉の相手を探すことがほとんどであることから、補導を端緒に児童の申告からそうしたTwitter等が解析され、次々と芋づる式に容疑者が逮捕され、摘発されるというパターンが多いのです。
そのほかにも、児童の言動やお金周りを不安に思った保護者が、例えば児童の携帯を確認するなどして買春行為が発覚し、捜査機関へ通報される場合もあります。いつ・どのような端緒から発覚するかは予測できませんし、警察が端緒を掴めば、捜査は極秘裏にかつ時には相当な時間をかけて行われますから、忘れた頃に警察が突然家に来て逮捕されることがあり得ます。
児童買春事件に身に覚えがあるなら、それぞれの事情に応じてどんな方策を採ることができるか、この種事犯に精通した弁護士にいち早く相談すべきです。立件を未然に防止するため被害児童(の保護者等)との示談や、急な身柄拘束を出来る限り防ぐため自首を検討した方がいい場合もありましょう。
児童買春とはどういう行為を言うのか
「児童買春」とは、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」(児童買春・児童ポルノ禁止法。以下、「法」という。)に定められ、刑事処罰の対象となる行為です。同法は、平成8年の「児童の商業的性的搾取に反対する世界会議」において、日本が東南アジアにおける児童買春の加害者等として国際社会から強い非難を浴びたことをきっかけに、平成11年に成立・施行された法律です。(公益財団法人日本ユニセフ協会HP参照)
この法律にいう「児童買春」は、児童自身、児童に対する性交等の周旋をした者若しくは児童の保護者等に対償を供与し、又はその供与の約束をして、その児童に対し、「性交等」をすることを指しています(法第2条2項)。したがって、対償の供与もその約束もせずに性交等をしても、この法律には該当しません。
ただし、児童福祉法、青少年保護育成条例違反等他の法令に触れることがありますので、他に該当する可能性のある罪名等については後述します。
「性交等」とは、性交・性交類似行為だけでなく、自己の性的好奇心を満たす目的で児童の性器等(性器、肛門又は乳首)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることを含みます。
この法律における「児童」とは、18歳に満たない者のことです(法第2条1項)。この法律では、児童一般の健全な育成を保護法益としています。
「児童」は性別に関係ないので、男児でも女児でも対象となり得ますし、同性に対する行為についても、対象が「児童」である限り罰則の対象となります。例えば、男性が男児に対償を供与するなどして性交等を行えば、児童買春に該当します。
本罪の成立には児童の合意がないこと(児童に対する暴行・脅迫等)は要件とされておらず、児童の「合意」があっても成立し得ます。そして、児童買春の刑罰は、5年以下の懲役又は300万円以下の罰金(法第4条)であり、相当に重い犯罪と言えます。
対償が金銭ではなく、食事やプレゼントの場合はどうなるのか
児童買春は、上記のとおり、児童自身、児童に対する性交等の周旋をした者若しくは児童の保護者に対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童と性交等をした場合に成立します。
「対償」とは、当該児童と性交等をする見返りとしての経済的利益を指しますから、金銭だけでなく、食事やプレゼントの場合でもそれが経済的利益に当たる以上成立し得ます。
相手の年齢を知らなかった場合はどうなるのか
児童買春は、故意犯ですから、相手方が児童(18歳に満たない者)であることを知らなければ成立しません。ただし、「知らなかった」と弁解しさえすれば無罪放免となる訳ではありません。
そのように弁解したとしても、「もしかしたら児童に当たると思っていたが、それでも構わないと思って性交等をした」場合はいわゆる未必の故意が認められますし、上記の弁解にかかわらず、児童の容姿、着衣(制服等)、言動その他供述以外の事情から客観的に上記の故意が認定され、処罰されることもあり得ます。
相手の誘いに乗った場合はどうなるのか
自分から児童に対して買春行為を促すことは当然に児童買春に該当し、悪質性も高いことはもちろんですが、上記のとおり、強制性交罪のように暴行・脅迫によることや児童の合意がないことはこの罪の成立要件とはされていません。例えば、児童がSNSで「パパ活」の募集をかけていたから、その誘いに乗って合意の上で行為に及んだとしても、児童買春に該当します。ですから、そのような児童の誘いに乗ることは禁物です。
児童買春で逮捕される可能性が高いケース
児童買春は、逮捕せずに在宅のまま捜査されることが多いです。
しかし、場合によっては逮捕されることもあります。どのような場合に逮捕されるかは、一概には言えませんが、対象児童の年齢・人数、児童買春に至る経緯、対償の多寡・内容、性交等の内容・状況・回数、周旋者・児童の保護者等の関与の有無、行為者の供述状況等のほか、行為者の生活状況、逃亡のおそれ、その他の一般的事情が総合的に考慮され、逮捕されるか否か、捜査機関が決定します。
児童買春を行ったすぐ後でなくとも、数日後や極端に言うと数年後でも逮捕に至るケースもあり得ます。実務感覚で言うと、複数の児童を相手に買春行為を繰り返したような事案は逮捕される可能性が高いです。
児童買春で逮捕を回避するにはどうすれば良いか
示談や自首をすれば、必ず立件・逮捕を防げるとまでは言えませんが、自ら罪を認めて示談や自首をすることにより、罪証隠滅や逃亡のおそれがないとして逮捕を免れたり、そうでなくとも下記のとおり検察官の処分や裁判に有利に働くこともあります。弁護士が事前に相談を受けて自首に同行すれば、予め逮捕の必要性がない理由を整理し、監督者を立てるなどした上、捜査機関に対し、意見書を作成して提出したり、理を尽くして不逮捕の説得をしたりして、身柄拘束の可能性を少しでも下げることが可能です。
児童買春で逮捕されたら弁護士にご依頼を
もし児童買春で逮捕された場合、いち早く弁護士に接見を要請し、できる限り早く身柄拘束が解かれる方策を相談すべきです。さらに、逮捕事実が身に覚えがないなら、その疑いを解消する方策をも相談すべきです。
逮捕されると、48時間以内に検察官に事件が送致され、勾留されるかどうかが決まります。ここまでで最長72時間の身柄拘束をされることになります。早朝に突然警察が家にきて、そのまま逮捕されると、会社勤めの場合最低3日間の欠勤を余儀なくされます。さらに、勾留が決定されると、決定の日から10日間、その後に勾留延長が決定されると更に原則10日までの間勾留され、要するに最大で原則20日までの間、検察官が捜査を尽くして処分を決定することができるまで、身柄を拘束されることになります。23日間も欠勤が続けば、会社を解雇される可能性も高くなります。
また、医師や教員といった有資格者の場合は、実名報道される危険性が高いため、大きな不利益を被る可能性が高いです。児童買春で逮捕されたら、あるいは逮捕される前でも、できる限り早く弁護士に相談して対策を練っておくことが、社会生活への悪影響を最小限にする重要なポイントです。
弁護士に依頼した場合になされるであろう弁護活動としては、以下のとおりです。
身柄解放活動ができる
逮捕・勾留が決定すると、最大で原則23日間の身柄拘束がなされます。その後も、略式請求・罰金となった場合は格別、公判請求(正式裁判の請求)されれば、保釈が認められない限り、勾留が継続します。身柄拘束による社会生活への悪影響は甚大です。また、被疑者に対する取調べ等の捜査は毎日粛々と続いていきますので、勾留されて外部との交通や情報を制限されている被疑者にとって、時宜に応じた適切なアドバイスを受ける十分な機会が失われるおそれもあります。
被疑者段階の勾留期間は、上記のとおり期間が限られ、長いようですぐに経過しますから、その間に迅速かつ適切なアドバイス、示談交渉等の弁護活動が十分になされず、事情がよく分からないまま、公判請求等の思わぬ重い処分が下るということも皆無ではありません。当初から刑事事件に精通した弁護士に依頼するなどして慎重に、しかしながらできるだけ早期に、頼れる弁護人を決める必要があります。
示談交渉ができる
児童買春による公判請求や実刑判決を可及的に避けるためには示談交渉は必須でしょう。
示談が成立し、特に示談条項中に被害児童(の親権者)の宥恕文言(犯人を許し、処罰を望まない意思表示)がある場合は、不起訴も視野に入りますし、不起訴とはいかなくても、略式請求・罰金が狙えたり、公判請求されても、保釈、求刑される懲役刑の長さ、懲役刑に執行猶予が付されるか否かなどの判断に有利に斟酌される期待が持てます。残念ながら、示談をすれば絶対に起訴されない、罰金でとどまる、又は有罪判決を受けても絶対に執行猶予が付くとまでは言えませんが、少なくとも被疑者・被告人に有利な情状となり得ることは確かです。
児童買春の示談交渉は、被害児童本人ではなく、被害児童の保護者(親権者)との交渉となり、往々にして被害感情が峻烈なので、示談交渉が困難を極めることも少なくありません。同種の事案とその示談交渉の経験豊富な弁護士を選ぶことが重要です。
懲戒解雇の可能性を下げることができる
児童買春で逮捕されると、上記のとおり最大で原則23日間の身柄拘束がなされ、長期の欠勤を余儀なくされますから、一般に解雇のおそれが高まります。前科がつくだけでなく、懲戒解雇により職まで失うことになると、今後の社会復帰も困難となりかねません。
公務員や、医師や教員といった有資格者の場合には、その資格に関する法律の定めに従って懲戒処分を受ける可能性があります。例えば、医師であれば、医師法7条1項、4条3号により、罰金以上の刑に処せられた場合には戒告、3年以上の医業の停止または免許の取消しの処分を受けることになりかねません。
地方公務員の場合であれば、実刑に処せられると資格を失い失職することとなり、執行猶予が付いたとしても執行猶予期間が満了するまで資格を失います(国家公務員法38条)。また、罰金刑であったとしても、「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合(同82条)に該当するとして免職、停職、減給又は戒告の処分を受ける可能性があります。
このような不利益を軽減するために、刑事事件の経験豊富な弁護士への相談が必要となります。刑事弁護士に依頼すれば、上記した身柄解放活動、示談交渉等時宜に応じた適切な弁護活動が行われ、早期の釈放、不起訴処分、略式・罰金による釈放、保釈、執行猶予付判決等を獲得することにより、あるいは、職場との連絡や交渉により、職場からも寛大な対応を引き出せる可能性もあります。職場には職場のルールや考え方がありますので、職場との連絡・交渉が成功するとは限りませんが、可能な限り社会復帰を妨げないための弁護活動を行うことが可能です。
再犯防止策を講じることができる
どんな犯罪でも再犯防止策を講じ、二度と犯罪に手を染めずに真っ当に社会復帰することは極めて重要なことですが、児童買春その他の性犯罪においては、それをやめることができずに常習化していき、あるいは既に常習化しており、性依存症と診断される状態に陥ることも少なくありません。
そうした状況において再犯を防止するには、家族等周囲の者の指導・監督だけでなく、専門の医師等による治療、カウンセリング等を受診することが有効です。それにより、自らの行動及び内心と向き合い、性犯罪に手を染める理由・引き金等を自らえぐり出し、性犯罪を繰り返さない方策を自ら学び取ることが可能となります。弁護士は、そのような専門的な対応への橋渡しや、治療、カウンセリングの状況の証拠化等をサポートします。
児童買春に関連する他の犯罪
最後に、児童買春に関連するほかの犯罪について解説します。18歳未満の児童と性交等をした場合、児童買春だけでなく、他の犯罪に該当する可能性もあります。
児童福祉法違反
18歳未満の児童に影響力を行使して淫行をさせることを処罰の対象としています。教師、親その他逆らえない関係の大人が児童に対して性交等を行った場合に成立しやすい犯罪です。当該児童に対償を供与等することは、この罪の成立要件とはされていません。この法律に違反した場合、10年以下の懲役刑もしくは300万円以下の罰金刑が科されます。
青少年保護育成条例違反
18歳未満の児童と性交等をした場合、上記同様当該児童に対償を供与するなどしなくても、各都道府県で定めた青少年健全育成条例違反に該当する可能性があります。東京都では、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます。
監護者わいせつ及び監護者性交(刑法第179条)
18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした場合は、刑法第176条・同法第177条と同様の罪となります。
まとめ
近年SNS等インターネットによる情報発信手段が普及し、誰でも簡単に情報を受発信できるようになったことなどから、未成熟な児童が「パパ活」などと称して売春行為に手を染め、相手方もこれを安易に利用して買春し、児童を自らの性的欲望の犠牲とするなどの事件が後を絶たず、社会問題化しており、捜査機関も、警告の意味も込めて検挙を躊躇せず、裁判においても厳罰化の傾向にあります。
これまでお話ししてきたように、児童買春は、相当な重罪であり、逮捕・勾留、公判請求、実刑等のリスクも相当高いものがあります。また、そもそもこの法律は、性的搾取及び性的虐待により侵害される児童の権利の擁護等を目的として制定された法律であり(法第1条)、児童一般の心身の健全な成育という公的な法益を守るためにあるとの考え方があり、そうだとすると、性交等の被害児童(の保護者等)と示談さえすれば処罰を免れることができるとは必ずしも言えません。
本罪はそもそも決して軽い罪ではない上に、当該児童だけでなく児童一般の権利擁護の観点もあることにかんがみると、簡単に不起訴や罰金が狙える事案でもありません。児童買春を軽く考えることなく、一刻も早く弁護士にご相談の上、迅速かつ適切な対応をお取りいただく必要があります。
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当事務所は、刑事事件関連の法律相談を年間3000件ものペースで受け付けており、警察捜査の流れ、被疑者特定に至る過程、捜査手法、強制捜査着手のタイミング、あるいは起訴不起訴の判断基準や判断要素についても理解し、判決予測も可能です。
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