会社にとって従業員は宝です。なくてはならない存在です。
でも、その従業が刑事事件に巻き込まれると、事案によっては会社の存立を危うくする事態にもなりかねません。経営者にとって、上司にとって、従業員が刑事事件で逮捕されるということは他人事ではないのです。
従業員が逮捕されたとき、会社はどのような場面に直面するのか、代表弁護士・中村勉が解説します。
従業員の逮捕報道について
逮捕されると、まず懸念されるのが報道です。もし、逮捕容疑が当該会社の業務に関連した犯罪である場合には、新聞記者等が会社に電話し、詰めかけ、毎日のように、取材を求めてきます。事件の内容や会社の規模によっては、テレビや新聞で報道される可能性があります。
このとき、会社側がメディアの取材に応じなかったり、対応が遅れてしまったりすると、状況が悪化する等のおそれもあります。また、記者会見をする必要が出てくる場合もあるでしょう。
会社自体に対する捜査について
それだけではありません。会社自体が警察や検察庁による捜査の対象となることがあります。例えば、従業員が会社内で違法薬物を所持していた場合、会社のハードディスク内にわいせつデータを保管していた場合などのような事件では、会社に対する捜索押収はもちろんのこと、犯罪当時の当該従業員のアリバイや勤務態度、人柄等を捜査するために同僚や上司、場合によっては役員の参考人取調べが行われることがあります。そのような場面に直面したときには、迅速に会社の顧問弁護士または刑事事件を扱う弁護士と相談すべきでしょう。
特に、刑事事件の扱う弁護士であれば、捜索押収の範囲や任意提出に応じるか否かの判断、役員等が任意取調べに応じるべきか否かの判断について、その経験に基づいて適切な助言ができますし、警察や検察庁に対し、会社の利益を考えて正当に交渉することができます。
マスコミ対応について
一方で、会社独自に真相を解明する必要があります。直ちに弁護士を入れた内部調査委員会を立ち上げ、対警察・検察庁との連絡窓口を一本化すると同時に会社関係者からヒアリングを実施して会社独自の調査をし、事件の見通しと再犯防止策を策定しなければなりません。
さらに、マスコミ対応も委員会と広報部が中心になって行い、記者会見を実施すべきかどうか、実施するとしてどのような記者発表となるかも判断しなければなりません。
従業員が個人的な事件で逮捕されたら
従業員が勤務時間外に個人的なことで事件を起こしたときは、全く異なる対応となります。基本的に、従業員の個人的な事件に会社は無関係です。また、通常、個人的事件で会社名が報道されることもありません。
しかし、 殺人事件や職場内の恋愛感情のもつれからくるスキャンダラスな殺人等の事件や世の中を震撼させる重大事件にあっては、週刊誌による掘り下げた記事、あるいは、ネット時代ですからブロガー等による興味本位な記事によって、逮捕された方の私生活のみならず、勤務先情報などもネット掲載されることがあります。
さらに、従業員が逮捕されることで業務に穴を空けてしますこともあり、やはり、会社関連犯罪と同様に、情報収集と何らかの対応が必要になります。
従業員が逮捕されたときに会社がすべきこと
従業員が逮捕されたと知った場合、まず必要なことは情報収集です。従業員がどのような事件で逮捕されたのか、事件の内容を確認します。事件の内容によっては、会社に使用者責任が生じて損害賠償義務が及ぶ可能性もあり、事件の内容を確認することはとても重要です。
報道や人を通じた連絡の場合、事実とは異なる可能性もあり、事件について認めているのか、認めていないのか等、本人の意向を確認することも重要です。
また、逮捕されたというだけで、本人がその罪の真犯人であると断定することはできません。逮捕後に嫌疑不十分で釈放となるケースや、実際は冤罪であったというケースもあります。
従業員が逮捕されたら、すぐに連絡がつくのか
従業員が逮捕されたら、すぐに連絡がつくのでしょうか。結論から言うと、従業員(被疑者)が釈放されるまでは自由に連絡をとることは難しいです。携帯電話も押収されます。逮捕後すぐに連絡をとる方法としては、おそらく弁護人経由で連絡をとることになるでしょう。
逮捕された場合、72時間の間に勾留請求をされるか、釈放されるかが決まり、その間は会社関係者は勿論、家族でも接見(面会)ができません。接見できるのは基本的に弁護士のみです。一方、勾留請求が認められ、勾留が始まった場合、「接見禁止」がついていない限り、会社関係者や家族でも面会することができます。
但し、面会には数十分程度の時間制限があり、また警察の係官立会いのもとで行なわれるので、詳細を話すことは難しいかもしれません。弁護士であれば警察の立ち会いなくして本人と話をすることができます。
このような弁護士を介した情報収集により、今後の捜査の見通し、身柄拘束期間の見通し、さらに処分内容の見通しについて把握します。今後、従業員は起訴されるのか不起訴になるのか、また身柄拘束期間によって、会社がとるべき対応が変わってきます。
従業員が逮捕されたら、解雇できるのか
従業員が逮捕された場合、その従業員を解雇できるのでしょうか。もし逮捕された原因が私生活上の出来事であれば、会社は無関係で、原則的には懲戒解雇の対象にならないと思われます。
しかし、それでも場合によっては会社が批判されたり、会社の社会的な評価に影響を及ぼすリスクがあります。よって、就業規則において、従業員の犯罪行為が懲戒解雇事由とする会社は多いでしょう。
しかし、従業員が逮捕された時点ですぐに解雇ができるわけではないので、注意が必要です。判例では、有罪判決を受けた従業員を解雇した際、後に解雇の効力が否定されたというものもあります。
従業員の有罪判決が確定した、または、刑事責任を負うことは免れたが犯罪行為は認めているなど、十分な根拠のある段階になってから、適切な処分を進めるべきでしょう。
懲戒解雇事由にあたることが判明した場合であっても、解雇は、懲戒処分の中で最も重い処分にあたり、その有効性は慎重に検討されるべきとされています。また、懲戒には、減給、戒告、降格、休職命令など、解雇以外の処分もあり、解雇を選択することが解雇権の濫用にあたり無効とされる場合もあり、事件内容によって、どのような処分が望ましいか十分に検討する必要があります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。従業員が逮捕されたら、会社の社会的評価や信頼に影響が及ぶかもしれません。また、会社自体に損害賠償義務が発生する可能性もあるので、決して看過することはできません。従業員が逮捕され、対応や今後の体制作りにお悩みのご担当者は、是非弁護士にご相談ください。