空き巣、万引き、スリ、ひったくり、車上荒らしや事務所荒らし…、一口に窃盗と言っても、様々な種類があります。窃盗事件は財産が脅かされる罪ですが、空き巣は、財産に加えて、生活スペースまでも脅かす可能性がある犯罪行為です。
以下、空き巣で逮捕された場合の流れや、刑罰がどうなるのかといった疑問点を代表弁護士・中村勉解説いたします。
空き巣はどのような罪となるのか
「空き巣」とは言っても、法律上そのような名称の犯罪が存在するわけではありません。「空き巣」とは、いわばその窃盗の態様に付けられた名前です。それでは、空き巣はどのような罪に該当するのでしょうか。
住居侵入罪・建造物侵入罪
まず、空き巣は、住居権者や管理権者の許可を得ることなく、無断で住居や建造物に侵入するものですので、住居侵入罪ないし建造物侵入罪が成立し得ます。
住居侵入罪・建造物侵入罪は刑法第130条に定められています。刑罰は「3年以下の懲役又は10万円以下」となっています。
刑法第130条
正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
窃盗罪
次に、空き巣は、住居・建造物に侵入した上で、金品を盗むものですので、窃盗罪が成立し得ます。
窃盗罪は刑法第235条に定められている罪です。刑罰は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」となっており、住居侵入罪より、重い刑罰が定められています。
なお、空き巣目的で住居や建造物に侵入し、物色したものも、金目のものが見つからず何もとらなかったような場合には、窃盗未遂罪(刑法第243条、第235条)が成立し得ます。その場合には、刑が減軽されることがあります(刑法第43条本文、刑法第44条)。
刑法第235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
刑法第243条
第235条から第236条まで、第238条から第240条まで及び第241条第3項の罪の未遂は、罰する。
刑法第43条
犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
刑法第44条
未遂を罰する場合は、各本条で定める。
このように空き巣には、住居侵入罪/建造物侵入罪及び窃盗罪(又は窃盗未遂罪)という二つの犯罪が成立し得ます。
なお、住居侵入/建造物侵入にあたって、ドアの鍵を壊したり、窓ガラスを割ったりした場合には、建造物等損壊罪(刑法第260条)や器物損壊罪(刑法第261条)も成立し得ます。
刑法第260条
他人の建造物又は艦船を損壊した者は、五年以下の懲役に処する。よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。
刑法第261条
前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
空き巣の刑罰はどのようなものになるか
空き巣に住居侵入罪と窃盗罪の両方が成立するとして、刑罰はどのようになるのでしょうか。
刑法では、犯罪の手段である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する旨定められています(刑法第54条1項後段)。すなわち、ある犯罪を目的として、その手段として別の犯罪が行われた場合には、これらの犯罪のうち、より重い刑を定めている犯罪の刑によって処断されることになるのです。このような関係にある犯罪は「牽連犯」と呼ばれています。
刑法第54条1項
一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。
空き巣は、窃盗の目的のために住居に侵入するという行為をするものであるところ、当該住居侵入行為は窃盗という目的たる「犯罪」の「手段」であり、住居侵入罪という「他の罪名」に触れます。したがって、空き巣における窃盗罪と住居侵入罪は牽連犯になります。
そして、上述したとおり、窃盗罪と住居侵入罪とでは、窃盗罪の方が重い刑罰が定められていますので、窃盗罪の刑罰である「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」により処断されることになります。なお、空き巣には様々な態様のものがあり、事案によって悪質性の程度も変わってきますので、この刑罰の範囲内において、どのくらいの刑が相場かというのは一概にはいえません。同種前科の有無や被害弁償の有無等によっても大きく変わってきます。
空き巣の見張り役も処罰対象となるのか
空き巣は、一人で行われるケースもあれば、複数人で行われるケースもあります。
複数人で行われる場合には、一部の人は住居に侵入して窃盗行為を行い、もう一部の人は住居には入らず、見張り役として外で待機し、住人や近隣住民等に自分らの行為が発覚しないようにするための体制がとられることが多いでしょう。このような場合、見張り役は住居には侵入しませんし、窃盗行為も自ら行っていませんが、処罰されるのでしょうか。
刑法は、「二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。」としています(刑法第60条)。「すべて正犯とする」とは、互いが行ったすべての行為について責任を負うものとするという意味です。
刑法第60条(共同正犯)
二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
また、「共同して犯罪を実行した」というには、犯罪の実行を共謀していれば足り、必ずしも共謀者全員が犯罪の実行行為そのものを行ったことは必要ないとされています。
したがって、見張り役も、実際の実行行為者と空き巣行為をすることを共謀していた場合には、実際の実行行為者と同様に住居侵入罪と窃盗罪が成立するとされ、同じように処罰されることになります(この場合の見張り役は「共謀共同正犯」と呼ばれます)。
もっとも、見張り役としての行為が当該空き巣行為を成功させるためにどれほど重要であったかや、実行行為者との間の主従関係、見張り役として得た利益の程度等によっては、共謀共同正犯ではなく、刑法第62条1項が定める幇助犯に当たるとして、減刑した刑が科されることもあります(刑法第63条)。
刑法第62条1項(幇助)
正犯を幇助した者は、従犯とする。
刑法第63条1項(従犯減軽)
従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。
空き巣で逮捕されたら
空き巣は通常、目撃者がおらず、犯人の同一性が問題となるので、基本的に逮捕されるものと思っていた方がよいでしょう。また、ほとんどの場合で最大23日間の勾留がされます。もっとも、近頃、各所において防犯カメラ・監視カメラの設置が増加していますので、犯人の同一性があまり問題とならないケースも見られるようになりました。そのようなケースでは、被害額の大小や被疑者の認否、被疑者の家族による監督の可否等他の様々な事情も考慮の上、逮捕がされない可能性や仮に逮捕されても、勾留や勾留延長を回避できる可能性もあります。
また、そのようなケースでなくても、早期に示談や被害弁償をすることで、早期の身柄解放に繋げられる可能性があります。ご家族が空き巣で逮捕された場合には、すぐに弁護士に相談するようにしてください。
空き巣で不起訴や執行猶予付き判決となる可能性
空き巣は比較的悪質性が高い犯罪類型といえます。特に、住居に対する空き巣ですと、被害者には財産的損害が生じるのみならず、自分の留守時に他人に住居に侵入されたことに対する恐怖感や嫌悪感が生じますし、事件後は住居内で空き巣犯に遭遇する可能性なども考え不安に駆られるはずです。住居という本来であればくつろげるはずの空間を奪ってしまうのです。
したがって、万引き事案と比べると、不起訴や略式罰金で終わる可能性は低くなります。
もっとも、被害者との間で示談ができていたり、上記のような被害感情に配慮した相当額の被害弁償ができていたりする場合には、その他再犯可能性等の事情も考慮の上、不起訴や略式罰金で終わる可能性も十分に考えられます。
同種前科があると、公判請求は免れない場合が多いですが、その場合でも、示談や被害弁償の事実は重要です。示談や被害弁償に加え、心から反省していることや再犯防止のための対策が十分に取られていること等がアピールできれば、執行猶予付き判決が得られる可能性も十分にあります。
空き巣事案は上述した通り、比較的悪質性が高く、被害者の被害感情も強いものと考えられます。したがって、被疑者本人が捜査機関を通して被害者から連絡先を教えてもらえる可能性は非常に低いので、弁護士をつけずに示談を締結することはほぼ不可能です。
また、反省の態度の見せ方にも工夫が必要となり、再犯防止のための対策についても、個別具体的な事案によって、どれほどのものが必要になってくるかは変わってきます。空き巣の事案で不起訴処分や執行猶予付き判決を目指したいのであれば、空き巣や窃盗事案に強い弁護士に依頼し、その助言に従って対応するのがよいでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。空き巣にどのような犯罪が成立し、どのような刑罰が科されるのか、また、不起訴処分や執行猶予付き判決を獲得できる可能性はあるのか等、お分かりいただけたかと思います。
空き巣のケースでは、その悪質性を十分に踏まえた弁護活動が重要になってきますので、ぜひ、刑事事件に強い弁護士にご依頼ください。