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略式手続を弁護士が解説

一口に「刑事裁判」というと、法廷の真ん中に立った被告人と、その両脇の弁護士と検察官、彼らを見下ろすように座る裁判官、という4人の登場人物をイメージする方が多いでしょう。ドラマや映画でお馴染みのように、検察官が被告人の犯罪を追及し、それに対して被告人と弁護人が釈明や反論を行い、最終的に裁判官が両者の主張の合理性を証拠に基づいて吟味して結論を下す、というのが刑事裁判のあらましです。

このように検察官サイドと被告人・弁護人サイドが互いに対等な立場で主張をぶつけ合うのが正式な刑事裁判のかたちです(専門的には「当事者主義」といいます)。上に挙げた登場人物以外にも、事件の「目撃者」として法廷に呼ばれる証人や、裁判の行方を見守る傍聴人も正式な刑事裁判ならではのキャストと言えるでしょう。もっとも、日本で起きているすべての刑事事件が正式なかたちの裁判によって裁かれているわけではありません。むしろ、ドラマや映画のなかで繰り広げられる刑事裁判の光景は少数派です。
こちらの記事では、以下、「略式手続」について、弁護士・高田早紀がご説明していきます。

略式手続とは

略式手続は、簡易裁判所が、検察官の請求により、公判手続を経ることなく、検察官の提出した証拠を審査することによって一定額以下の罰金又は科料を科する簡易裁判手続です。これは、文字どおり「簡略なかたち」の手続であり、おおざっぱな言い方をすると「裁判を書面だけで済ませてしまう手続」です。

令和3年度犯罪白書「検察庁終局処理人員総数の処理区分別構成比」によると、令和2年度の公判請求率は9.8%であり、検察官受理事件の10%にも満たないとされています。(出典: 令和3年犯罪白書 2-2-4-1図)

刑事事件の中には、不起訴処分とならなかったとしても「略式手続」という正式な裁判とは異なる形式の裁判によって処分されている事件があります。上記犯罪白書によると、令和2年度の略式命令請求率は21.5%であり、検察官受理事件の約5分の1が略式命令による処分により、罰金または科料となっていることがわかります。

略式手続の利点とは

略式手続においては、検察官の請求のもと、簡易裁判所が、検察官から提出された証拠をもとに裁判をすることになります。この裁判は、法廷という公開の舞台によらず(専門的に言えば「公判を開かず」)、非公開の書類審査だけで処分を決定するものです。さきほど「傍聴人」というキャストが出てきましたが、略式手続は書面による裁判であり、非公開なので、傍聴することはできません(そもそも観るべき舞台が設けられません)。

なお、元々すべての国民には「公開の裁判を受ける権利」が憲法で保障されています。しかし、犯罪事実について争うつもりがなく、罰金や科料となることについて異存がない場合、あえて公開の法廷に立ちたくはないと考える方もいるでしょう。公開の法廷に立ち、傍聴人らの前に立つことを苦痛に感じたり、犯罪事実が法廷で公開された場合、仕事や学校生活等日常生活への影響を気にしたりすることは当然のことです。自身の裁判が公開されることによる、ご家族に対する影響も気になることと思います。

略式手続を承諾し、いわば被疑者・被告人側が公開の裁判を受ける権利を放棄することによって、公開の法廷に立つことなく裁判を終えることができます。また、通常の公判手続に比べると、略式手続は簡易かつ迅速に進みますので、早期終結につながります。そのうえ、訴訟関係人及び裁判機関の時間・労力・費用の節減等のメリットもあります。

ただし、略式手続においては、裁判所の判断の前提としてどのような証拠があるのか、被告人側には示されません。また、書面による審査方法であるため、被告人側が証人に対し反対尋問を行うことができません。このように、略式手続にはデメリットもあるため注意が必要です。

略式手続はどのような場合に採用されるのか

どんな刑事事件も見境なく書類審査だけで簡便に処分されてしまってはもちろん大変なことになりますので、「略式手続」を行うことができる刑事事件は法律で決められています。具体的には、刑事訴訟法461条により、課される処分が「100万円以下の罰金又は科料」となる法律違反(簡易裁判所が処分をするような事件)において、略式手続が選択されることがあるのです。実例を挙げれば、自動車運転中のスピード違反や、小競り合い程度の暴行事件迷惑行為防止条例違反事件等です。

さて、いくら上記のような犯罪であっても、すべての場合に略式手続が採用されるわけではありません。略式手続が開始されるには次のような条件が設けられています。すなわち、「法律違反をした本人(被疑者)が、略式手続が行われることに同意していること」です(刑事訴訟法461条の2第1項)。つまり、憲法で保障されている公開裁判を受ける権利を、被疑者自ら放棄することが必要なのです。

摘発された法律違反が「略式手続」の対象である場合、その取調べを担当する検察官は被疑者に対してそのことを知らせ、被疑者に略式手続について説明をしたうえで、略式手続開始に同意するかどうか確認を行います。そこで被疑者が同意をすれば、略式手続が開始されることになります。

ここで注意しなければならないのが、「略式手続開始の同意」には、被疑者が自ら有罪を認めていること、つまり検察官によって今回追及されている法律違反を争わないという状態が前提になっているという点です。もし、被疑者の方で「今回検察官に追及されている件は事実無根で、自分は無罪だ」、あるいは「たしかに法律違反はしたが、検察官の指摘はかなりオーバーで事実と異なっている」といったような認識を抱いているのなら、略式手続の開始には同意すべきではない、ということになるのです。

略式起訴とは

まず「起訴」とは、検察官がある事件について刑事裁判を開くことを裁判所に求める行為です。つまりこの行為によって、冒頭に述べた法廷というステージが裁判所に設けられ、キャストたちも各々の役割を果たしていくことになります。なお、正式なかたちの刑事裁判は終了するまでにだいたい数か月以上を要し、ケースによっては、被告人はその間ずっと身柄を拘束されることになります。

一方、「略式起訴」とは上述した「略式手続」の請求、書面審査だけの実施を裁判所に求めることを指します。この際、検察官は略式手続の請求と同時に、対象となっている事件の証拠一式も裁判所へ送ります。検察官から請求をうけた裁判所は、事件について審査をし、形式的・実体的訴訟条件を具備し、かつ、事件の実態が略式命令をするのに適法かつ相当であるときは、「略式命令」を発します。

正式な刑事裁判であれば、事件の証拠は起訴後しばらく経ってから開かれる公開の法廷(公判)において改めて時間をかけて吟味されることになるのですが、「略式」命令手続の場合は、この手続の開始後すぐに証拠が評価され、2週間以内には結論(処分の内容)が決定されます。

略式命令とは

検察官による起訴に対して、簡易裁判所が公判手続を経ることなく、非公開で罰金または科料を科す刑事手続を「略式手続」といい、これにより裁判所が下す命令を「略式命令」といいます。「判決」という言葉は裁判における結論として有名ですが、略式手続においてこの言葉は登場しません。略式手続の結論は「略式命令」という言葉で表されます。

略式手続の開始に同意した被疑者は、検察官がその手続開始を裁判所に求めてからおおよそ2週間以内に、「略式命令」という書面(略式命令書)を裁判所から交付(郵送か手渡し)されます。略式命令書には、命令の内容(罰金の金額)と命令の原因となった法律違反の内容が記載されており、命令を受けた人(被疑者)はそれに従って処分を受ける(指定の罰金を納める)ことになります。

このとき、一度は「略式手続」の開始に同意したものの、「やっぱりこの命令には従えない」などと不服が生じた場合には、2週間以内であれば「正式裁判」を改めて開くことを求めることができます。正式裁判の請求により判決が確定した場合は、略式命令はその効力を失います。一方、略式命令が確定した場合には、確定判決と同様の効力が生じます(刑事訴訟法470条)。

略式命令の請求は、検察官によって起訴と同時になされますが、その対象は、簡易裁判所の管轄に属する事件で、100万円以下の罰金または科料を科す場合に限定されます。略式手続は非公開であり、その点で憲法が被告人に対して保障している「公開裁判を受ける権利」が放棄されることになります。そのため、被疑者は予め検察官から、このような略式手続の性格、また、通常の公判手続による審判を受けることも可能であることの説明を受け、略式手続をとることに対して異議がない旨を書面で明らかにする必要があります。

略式手続コラム「待命式略式命令手続」

道路交通法違反に対しては、特別に「待命式略式命令手続」という方式があります。ご説明したとおり、略式手続は公判を受ける権利の放棄と引き換えに行われます。公開の裁判を回避することで、長期間の刑事手続を受けることによる心理的負担の軽減に加え、傍聴人からみられることを避けることができますし、平日の時間を公判のために割くこともなくなり職場や学校への影響も最小限に抑えることができるなど、社会生活上の負担を抑えることができます。

その略式手続のなかでも、最も時間のかからない手続とされているものが、「待命略式」あるいは「在庁略式」です。通常、罰金の金額等が記載されている「略式命令書」は、ある程度の時間をかけて郵便で被疑者(問題を起こした本人)宛てに送られますが、この「待命式略式命令手続」ないし「在庁略式」は、本人を裁判所へ出頭させて命令書を「手渡し」で交付します(本人が逮捕されている場合もこの方式がとられることがあります)。

命令書を受け取った本人がそのまま当日中に検察庁で支払い手続を済ませれば、1日ですべての手続を終え、事件を迅速に終結させることができます。

略式手続のメリットとデメリット

ここまで略式手続の説明をしてきましたが、改めてメリットとデメリットを整理して確認してみましょう。

略式手続のメリット

  • 公開の裁判を行わないまま事件を終結させることができ、心理的負担が軽減される
  • 社会生活への影響を最小にできる
  • 事件を迅速に終結させることができる

略式手続のデメリット

  • 書面による審理のため、裁判官に直接言い分を伝える機会がない
  • 証人尋問の機会がない

まとめ

「略式手続」によることで、公判に比べ負担なく速やかに手続を終えることができ、社会生活への影響を回避できます。しかし、「略式手続」の「簡易・迅速性」というメリットは、さきほども述べたとおり、公開裁判を受ける権利を放棄して初めて得られるものです。判断に迷われた場合は、一度弁護士にご相談ください。

また、略式手続によって公開の法廷での裁判を避け罰金や科料となったとしても、これは前科に当たります。誰しも前科をつけたくないと思うのは当然のことです。そもそも犯罪に心当たりがない、警察から誤解を受けている、前科をつけたくない、という場合には、不起訴処分を目指した活動や、正式裁判の請求を視野に、一度刑事事件に精通した弁護士に相談してみるべきでしょう。

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経験豊富な弁護士がスピード対応

刑事事件は初動の72時間が重要です。そのため、当事務所では24時間受付のご相談窓口を設置しています。逮捕されると、72時間以内に検察官が勾留(逮捕後に更に被疑者の身体拘束を継続すること)を裁判所に請求するか釈放しなければなりません。弁護士へ依頼することで釈放される可能性が高まります。また、緊急接見にも対応しています。迅速な弁護活動が最大の特色です。

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