「果たし状。深夜、高架下で決闘だ!」
いかにも漫画でありそうな一場面ですが、この決闘の申し込み、実はこれだけで、「決闘罪」という罪が成立する可能性があります。さらに、この申し込みに対して、「わかった。決闘だ!」と申し込みに応じても、それだけで、決闘罪が成立する可能性があります。
このように実際に決闘をしていなくても、決闘罪という罪は成立する可能性があるのです。
この記事では、この聞きなれない決闘罪について、一体どのような罪なのか、もし決闘罪で逮捕されてしまったら、どうすればいいのかを、解説いたします。
決闘罪とは?
「決闘罪」はそもそも刑法に規定された罪ではなく、明治22年(1889年)に制定された「決闘罪ニ関スル件」という法律に規定されてされたものです。この法律は、明治時代に、西欧文化が流れ込んできた際に、西欧型の決闘の風習がわが国でも広まるおそれがあったため、その弊害を除去し、社会の治安を維持するため、決闘を禁止するという目的で制定されました。
決闘とは
過去の判例(最高裁昭和24年3月16日)によると、「決闘罪」における「決闘」とは「当事者間の合意により相互に身体または生命を害すべき暴行をもって争闘争する行為」を意味するとされています。この、「当事者間の合意」という部分が重要で、2人以上の人物が、事前に日時や場所や条件を合意して初めて、決闘ということができます。ですので、事前に約束をせず、いきなり殴り合いとなった場合は、それは「喧嘩」であり、「決闘」ではないのです。
決闘罪にとわれる行為とその法定刑
「決闘罪二関スル件」は全6条で構成されており、決闘を行った者以外の人についても処罰する条文があります。以下、詳しく紹介します。なお、現在の刑法が施行されたときに規定された、刑法施行法により、「重禁錮」とされているものは「有期懲役」に変更され、また罰金附加は廃止されています。
第1条
決闘ヲ挑ミタル者又ハ其挑ニ応シタル者ハ六月以上二年以下ノ重禁錮ニ処シ十円以上百円以下ノ罰金ヲ附加ス
決闘を挑んだ人や、その申し込みに応じた人について処罰する条文です。挑むとは日時や場所について条件を提示し決闘を申し込むことであり、その方法は口頭、果たし状などの手紙、メールなど、どのような方法でもよいとされています。法定刑は6か月以上2年以下の懲役となっています。
第2条
決闘ヲ行ヒタル者ハ二年以上五年以下ノ重禁錮ニ処シ二十円以上二百円以下ノ罰金ヲ附加ス
実際に決闘を行った人を処罰する規定です。法定刑は2年以上5年以下の懲役と1項の場合と比べて重いものとなっています。
第3条
決闘ニ依テ人ヲ殺傷シタル者ハ刑法ノ各本条ニ照シテ処断ス
決闘の際に、相手を怪我させてしまったり殺してしまったりした場合には刑法に規定されているより重い罪により処罰されることとなります。例えば、相手を怪我させてしまった場合には傷害罪が成立する可能性があり、法定刑は15年以下の懲役又は50万円以上の罰金となります。さらに、殺意を持って相手を死亡させてしまった場合には、殺人罪が成立する可能性があり、法定刑は、死刑又は無期懲役、若しくは5年以上の懲役となります。
第4条
1 決闘ノ立会ヲ為シ又ハ立会ヲ為スコトヲ約シタル者ハ証人介添人等何等ノ名義ヲ以テスルニ拘ラス一月以上一年以下ノ重禁錮ニ処シ五円以上五十円以下ノ罰金ヲ附加ス
2 情ヲ知テ決闘ノ場所ヲ貸与シ又ハ供用セシメタル者ハ罰前項ニ同シ
決闘の立会人となった人や立会人となることを約束した人(1項)、決闘をすることを知りながら決闘のための場所を提供した人(2項)を処罰する規定です。法定刑は1カ月以上1年以下の懲役です。このように決闘に関わる人全員が決闘罪により処罰されることになります。
第5条
決闘ノ挑ニ応セサルノ故ヲ以テ人ヲ誹毀シタル者ハ刑法ニ照シ誹毀ノ罪ヲ以テ論ス
決闘に応じないという理由で人の名誉を傷つけた場合は、刑法の名誉毀損罪で処罰することを定めた規定です。名誉棄損罪の法定刑は3年以下の懲役若しくは禁錮、または50万円以下の罰金となっています。
第6条
前数条ニ記載シタル犯罪刑法ニ照シ其重キモノハ重キニ従テ処断ス
決闘がきっかけで上記の刑罰よりも重い罪を犯してしまった場合は、決闘罪でなくより罪状が重い罪の刑罰が適用されることとなります。
プロレスやボクシングなどについて
決闘罪の規定を読むと、格闘技、例えば、プロレスやボクシングは「決闘」にあたるから、プロレスラーやボクサー、さらには審判にまで決闘罪が成立するのではないかと思った方もいるかもしれません。しかし、1回試合を行っただけで、決闘罪として逮捕されてしまうとなると、スポーツとして成立しませんよね。当然、決闘罪が成立することはありません。刑法第35条において、「正当な業務による行為は、罰しない」とされています。
確かに、プロレスやボクシングは「決闘」にあたりますが、それがスポーツの範囲内で行われている限りにおいては、「正当な業務による行為」として、処罰されることは無いのです。
決闘罪で逮捕された事例について
今まで見てきたように、明治時代に制定されたマイナー法律である決闘罪ですが、この決闘罪により逮捕されたという事例は最近でも存在します。
暴力団同士の決闘
京都市において、暴力団組員のAが無職Bの知人とトラブルになり、Bがそのトラブルの仲介に入りましたが、それに腹を立てたAがBに対して「ぶち殺したろか。一人で来い」と決闘を挑み、それに対してBが「受けて立つ」と応じました。そして、A、B、そしてAと同じ暴力団組員のCが決闘をし、その結果Bが鼻の骨を折るなどの怪我をしました。この決闘により、ABCの3人ともが決闘罪により逮捕されました。
A,Cはもちろんですが、鼻の骨を折るなどしたBも決闘罪で逮捕されています。既に申し上げた通り、決闘罪では、決闘を受けて立った時点で罪が成立し、決闘の勝ち負け、怪我の軽重に関係なく、決闘に参加した全員に成立します。
少年グループによる決闘
逮捕された少年は市内の少年グループのリーダーであり、自分を中傷する内容の動画を別のグループに所属する少年がインターネット上にアップしたことに腹を立て、少年に電話し「口切ったんだからやれや」と決闘を挑みました。そして、2人は所属するグループからそれぞれ二十数人ずつの仲間を集め、公園で決闘しました。挑んだ側のグループが鉄パイプや金属バットを用い、けが人が複数出たという事件です。
中学生25人による決闘
対立する不良中学生グループが、決闘した事件です。この事件では各グループがリーダー格3名を選出し、それぞれが「タイマン」をはり、残りのメンバーは集団で喧嘩をすることを取り決め、26歳の男性立ち合いのもと決闘をしたというものです。これにより、中学生25人そして立ち合いをした男性が逮捕されました。既に申し上げたように、決闘罪は実際に決闘した人だけではなく、かかわった人全員に成立するものなのです。
このように、決闘罪は不良グループや暴力団関係者の抗争の場合に適用されることが多いようです。そして、「決闘罪」という名前自体が珍しく、適用されることも少ないため、決闘罪で逮捕されてしまうと、決闘罪とはどのような罪かということと併せて、報道機関に報道される可能性が高いといえます。上にあげた例からもお分かりの通り、未成年の場合は、本名は伏せられますが、成人の場合、実名報道をされる可能性が高くなってしまいます。
もし決闘罪で逮捕されてしまったら?
警察に逮捕されてしまうと、逮捕(最大48時間)→勾留(10日もしくは20日)→刑事裁判(未成年は家庭裁判)といった流れで手続が進行していきます。もっとも、逮捕されたら必ず裁判の手続きまで進むわけではありません。万が一、ご家族や友人の方が決闘罪で逮捕されてしまった場合の対処法について、下記でお話しいたします。
真摯に反省する
決闘罪のような刑事事件を犯した場合であっても、事案が軽微なものであったり、初犯で、本人が反省をしていたりといった場合に、警察官が悪質で重大な事件ではないと判断すれば、微罪処分として扱われて、その後の刑事手続きを受けずに、数日の拘束で直ぐに釈放してもらえる可能性があります。
この微罪処分になるかどうかは、警察官が判断することですので、取調べの際は、しっかりと反省している様子を見せましょう。決闘罪は、実際の逮捕された例でもあったように、怪我を負わされた人、立会人にも適用されます。そのため、自分が逮捕されてしまったことについて納得いかない人もいるかもしれません。しかし、決闘罪は決闘に関わったというだけで成立するのです。まずは、決闘に関わったという事実についてしっかり反省するようにしましょう。
弁護士に相談をする
逮捕された場合、誰でも1回無料で弁護士に相談できる当番弁護士制度というものがあります。そこで、弁護士に今後の手続の流れや、今後のアドバイスを受けることができますので、ぜひ活用してください。ただし、相談できるのは1回ですので、その後も弁護士のアドバイスが必要であるときは、私選弁護士を依頼することを検討ください。
示談する
相手に怪我をさせ傷害罪に問われている場合は、罪が確定する前に示談をすることで刑罰を軽減できる可能性が高まります。しかし、元々決闘をするような関係性であることからすると、本人同士の示談交渉をしても、話がこじれる可能性があります。また、手続きの流れによっては、本人同士が接触自体禁止されることもありえます。そのため、このような場合は、示談交渉に慣れた経験豊富な弁護士を通し、相手方と示談交渉をするということを検討してみてください。
決闘罪の量刑相場とは?
決闘罪だけで起訴されることはほとんどなく、多くの場合傷害罪として起訴されたり、又は余罪とともに起訴されたりします。以下では、傷害罪ではなく、余罪も含むが決闘罪により起訴された場合の量刑について、お話しいたします。
福岡地裁 平成15年3月6日
暴走族のリーダーであるAが暴走族のメンバーと共に、対立する暴走族と決闘をしたという事案です。この事案では、Aが他に恐喝罪でも起訴されているものの、Aは懲役3年6か月となっています。Aは暴力団のリーダーで、決闘の首謀者として中心的な役割を果たしていたことについて、裁判所は重く受け止めています。
東京地裁八王子支部 平成6年12月26日
Aは愛人Bと13年に渡り不倫関係にありましたが、Bは男性Cと親しくなり、Cと結婚する意志を固めました。このことをAに伝えるとAは激怒し、Cに「お前、おれと命をかけて勝負するか。」と申し向け、これに対してCは「上等だ。すぐ来いよ。待ってるから。」と答えました。そして、決闘の際に、Aは刃体の長さ約一八・三センチメートルの文化包丁一丁を持参し、殺意を持ってこれでAがCを刺したがCは死亡しなかったという事件です。この事件で裁判所は、決闘による殺人未遂の場合は決闘罪と殺人未遂罪の両罪が成立するとしました。もっとも、AはCの出血を見て、心配してCを自車に乗せて病院まで搬送し救助したことや、Cとの間に示談が成立していることなどを考慮して、懲役3年執行猶予4年となりました。
福岡地裁小倉支部 昭和35年7月20日
BがAに対し「今夜9時に海岸で話をつけてやる」などと暗に決闘をすることを示唆し、これに対してAはその時間に日本刀を持参し、同じく日本刀を持参したBと相互に切りあいをしたという事案です。Aは決闘罪、そして銃砲刀剣類等所持取締令違反に問われ、懲役1年6か月となりました。
まとめ
いかがでしたでしょうか。決闘罪はあまり聞いたことがない罪だとは思いますが、実際に逮捕された例もあり、また適用される範囲も広い罪なのです。くれぐれも決闘をしないだけではなく、決闘自体に関わらないようにしましょう。