捜査段階における殺人未遂の弁護活動を解説します。
ニュースで殺人未遂という言葉を聞くと、殺人未遂は重罪であり、長い間刑務所で服役する必要があると考える人が多いのではないでしょうか。確かに、殺人未遂の中には、手口が悪質・凶悪であり、懲役刑が重くなる犯罪もあります。
しかし、殺人未遂と言っても、凶悪なものから考慮されるべき事情があるものまで様々な態様があり、殺人未遂に問われた場合には、自らのケースの特徴等を理解した上で、適切な対応をする必要があります。特に逮捕後の初動捜査への対応が重要であり、具体的には、「故意」に関するディフェンスです。
以下、殺人未遂罪について、元検事の代表弁護士・中村勉がこの点を中心に解説していきます。
殺人未遂とはどのような犯罪か
そもそも殺人未遂という犯罪は、簡単にいえば、人を殺すつもりで殺そうとしたが死に至らなかった場合、あるいは、死亡との因果関係が否定された場合に成立します。
具体的には、殺すつもりで相手の腹部に包丁を突き刺したが、重傷を負ったにすぎず、死に至らなかった場合が挙げられます。
また、殺人未遂の刑期は、死刑または無期もしくは5年以上の懲役となっていますが、任意的に刑の減免ができます(刑法199条、203条、43条)。任意的に刑が減軽されれば、5年未満の懲役になる可能性があります。
なお、時効については、殺人罪の場合は公訴時効期間が無期限となりますが、殺人未遂の場合には、25年と刑法、刑事訴訟法で定められています。
殺人未遂の成立要件
殺人未遂が成立するためには、簡単にいえば、殺意があること及び人が死亡する危険性がある態様の行為を行うことが必要となります。
殺意について
殺意とは、文字通り、殺害する意図をいい、様々な要素を考慮して判断されることになります。殺意には、殺害する意図だけでなく、死んでも構わないという程度の意図であった場合も含みます。
具体的には、四肢以外の身体部分に対する攻撃であるか(四肢以外の身体部分に対する攻撃は、死亡する危険性が非常に高いといえるため。)、四肢以外の身体部分に対する攻撃であることを認識しているか、攻撃の態様が執拗であるか、行為後に被害者を置き去りにしているか、等を総合して判断されます。
なお、殺意が認められない場合でも、別途傷害罪等が成立する可能性が有ります。
人が死亡する危険性がある行為について
具体的には、刃物で人の身体を刺した場合や人の頭部を鈍器で執拗に殴打する場合をいいます。
殺意が認められる場合であっても、およそ人が死亡する危険性が認められない態様の行為には、殺人未遂は成立せず、傷害罪等が成立するにとどまります。
殺人未遂罪の捜査プロセスについて
殺人未遂が発生すると、行為の外形的事実に注目して初動捜査が始まります。
傷害罪ではなく、殺人未遂罪で逮捕されるケースというのは、第一に凶器がポイントとなっています。もし、用いた凶器が殺傷能力ある、例えば包丁、拳銃などであれば、行為者の内心や行為時の言動如何にかかわらず、警察は殺人未遂罪で逮捕します。
教科書的に考えると、殺人の故意なのか、傷害の故意なのか、脅迫の故意なのか、あるいは犯罪的な故意がなく、単なる冗談で包丁を振りかざしたのか、初動捜査ではよくわからない場合でも、とにかく外形的な行為の性質、凶器の種類で、殺人未遂とされて逮捕されるのです。
これには事情があって、もし警察が最初から軽い罪名である傷害罪や脅迫罪で逮捕したなら、その路線で捜査をすることになりますので後になってより重い罪名つまり殺人未遂罪に被疑事実を変更するのが困難となるからです。被疑者供述も傷害罪につき認めて取調べが進行していたのに突然殺人未遂になってしまうと頑なに否認することにもなりかねません。
そこで、警察は最初は大きく網をかけ、殺人未遂罪で逮捕をし、その後、もし故意の存在に疑義を生じれば、検事は罪名を傷害罪に落として起訴をする、そういう運用になっているのです。
取調べにおける「故意」に関する供述の重要性
凶器等の外形的事実を基に殺人未遂罪で逮捕された後、取調べが始まります。既に凶器も確保、証拠保全され、現場も実況見分がなされ、外形的事実は把握されつつある中で、取調べの中心はもっぱら主観面つまり殺そうとしたのかどうかです。
この罪が成立するためには故意すなわち殺意がないといけないのです。しかし、これは行為者の主観面のことですから捜査官は被疑者の頭の中に入って記憶の履歴を割り出す訳にもいかず、口から出てくる言葉に依存することになります。そこに、誘導、誤導、強制の契機があるのです。
例えば、「どうしてあんなことをしてしまったのだろう」という後悔の念が先立ち、自己を責める気持ちが強ければ、「殺そうとしたんだろう」という捜査官の誘導についつい乗ってしまい、「はい、本当に申し訳ないことをしました」と答え、それが供述調書に記載されて署名指印すれば、殺人未遂罪の有罪証拠になってしまいます。
逆に、包丁などの殺傷能力の高い凶器で何度も切りかかり、明白な殺意があったにもかかわらず、自己保身から「私があの人を殺そうなんて考えたこともない」と答えたならば、反省の情がないとして重く処罰されかねません。
このように、取調べにおける故意のやり取りは、その後の刑事裁判の方向性を左右する重大場面となるのです。ここに、弁護士を必要とする大きな理由があります。
殺人未遂罪における弁護士による取調べへの対応
殺人未遂罪で逮捕されると直ちに取調べが始まります。正確に言えば、逮捕直後に被疑事実に関する弁解録取書がとられ、これについて被疑事実に関する取調べが始まり、更に、検察庁に事件送致後は検事による弁解録取そして取調べも並行して行われます。
残念ながらわが国では弁護士の取調べの同席は認められておらず、多くの事例では正式に弁護士が就く前に被疑者は無防備に取調べに協力し、弁護士によるアドバイスなくして供述調書が作成されてしまい、公判の雌雄が決せられてしまうこともあるのです。ですから、何よりも大切なことは早く弁護士を就けることです。
弁護士が就くことで、捜査段階での取調べに対して様々な効果が期待できます。
- 周囲を「敵」に囲まれていた被疑者が、自己の絶対的な味方である弁護士の存在によって勇気づけられる。
- 弁護士は初回接見において、被疑者から事件の概要を聞くことで、瞬時に事件の争点や法律問題を把握し、適切なアドバイスを与えることができる。
- 殺意の有無が微妙な事案にあっては黙秘権行使を助言し、自白の強要などを回避することができる。
- 威圧的、脅迫的な取り調べが明らかになれば、弁護士は、警察や検事に対して抗議し、準抗告による勾留却下を求め、あるいは、勾留開示制度を利用して、捜査の問題性を裁判官に訴えることができる。
- 上記の違法な取調べで供述調書が作成されてしまった場合、被疑者からその状況を聞き出し、接見報告書としてまとめ、後の公判に提出することで供述調書の任意性や信用性を弾劾することができる。
- 弁護士でなければできない被害者との適切な示談交渉を進めることができる。
- 家族等のメッセージを伝え、身柄拘束下の不安な心理状態を少しでもよくすることができる。
以上のような効果が期待できるのです。
当事務所で実際に扱った殺人(未遂)事件の解決実績を一部ご紹介します。
まとめ
このように、外形的事実だけで立証が可能な他の犯罪、例えば薬物犯罪や万引きなどと異なり、主観面の立証が要となる殺人未遂罪にあっては、捜査段階が何よりも重要であり、弁護士の存在が不可欠であることがお分かりいただけたと思います。お身内が殺人未遂罪で逮捕されたり、本人が殺人未遂容疑で出頭を求められたりしたときには、できるだけ早く弁護士にご相談ください。
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