先日、山梨県内の県道脇内の古屋で行方不明となっていた女子生徒の遺体が発見され、容疑者を死体遺棄罪容疑で逮捕したという事件がありました。
捜査関係者によると、容疑者のうち一人は「小屋の中で殺害した」と供述しており、警視庁は今後、殺人容疑でも調査が進められるようです。
今回、この事件における今後の見通しや、死体遺棄罪および殺人罪の定義・量刑とともに弁護士が解説いたします。
死体遺棄罪の定義・量刑
死体遺棄罪とは、刑法第24章「礼拝所及び墳墓に関する罪」の中に規定された犯罪で、この章には、社会の習俗的な価値観やそれに対する人々の畏敬の念を保護する趣旨の規程が用意されております。
具体的に、死体遺棄罪を定めた刑法190条は以下のように定めています。
死体損壊等
第百九十条 死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三年以下の懲役に処する。
ご覧のとおり、死体遺棄罪は、「死体」を「遺棄」することで成立します。その法定刑は3年以下の懲役のみです。この他、法令に則った手続きを経ず、「死体」等に物理的な変更を加えて損傷・破壊した場合には、本条により死体損壊罪が成立します。
先に述べたように本条は、社会の習俗的な価値観やそれに対する畏敬の念を保護する趣旨で設けられており、「遺棄」とは、このような社会通念上の葬祭と認められる方法によらないで、放棄する行為を広く含みます。
したがって、故人の死亡の事実を隠す目的で、死体を移動させ、特定の場所に放棄する場合だけではなく、死体を特定の場所で放置する行為を含みます。とはいえ、故人とは何のかかわりもなく、道端で死体を偶然発見しただけの人物には、死体遺棄罪は成立しないと考えられています。
なぜなら、放置するという態様の「遺棄」は、死体をあえて移動させて発覚を困難にする場合と比べて、実行行為が不明確であり、処罰される対象が特定されにくい側面があります。そこで、偶々通りかかったような人物は、故人に対して、社会通念上の葬祭をする義務が認められませんので、このような人物については、例え死体を放置したとしても死体遺棄罪は成立しないと考えられます(このような類型を専門的用語では「不真正不作為犯」と言います)。
以上のように、死体を放置する態様の遺棄については、少なくとも故人との関係等を考慮し、社会通念上の葬祭を行うことが義務付けられるような人物によって行われることが必要であると考えられます。逆にいえば、法令により故人の死亡を届け出る義務がある親族等が、家族が死亡しているのを知りつつあえて死体を放置した場合には、死体遺棄罪が成立する可能性が高いと言えるでしょう。
なお、死体遺棄罪は故意犯ですので、行為者において、対象となる人物が「死亡しているのではないか」という程度の認識は必要となります。
小屋で殺害し、死体を移さず放置した場合、死体遺棄罪は成立するのか
以上を前提に、この場合に死体遺棄罪は成立するでしょうか。
例えば、他の場所で、故人が死亡しているところ、死体を移動させて、放棄したような場合には、問題なく死体遺棄罪が成立すると考えられます(行為者自らが殺害した場合を含む)。
一方で、自ら人を殺した人物が、その死体を移動させることなく放置した場合に、死体遺棄罪が成立するか否かについては、検討が必要です。
それは、自ら人を殺した人物が、被害者の葬祭をすることが一般的に期待することができず、社会通念上の葬祭をする義務が認められないのではないかと考えられるからです。判例も、殺人犯人が被害者の死体を現場にそのまま放置する行為は、犯人が特に葬祭の義務を有する者でなければ、「遺棄」にはあたらないと判断しております(大判昭8・7・8集12-1195)。
したがって、冒頭の事例でも、被疑者が小屋で被害者を殺害し、単に死体を放棄しただけですと、死体遺棄罪は成立しない可能性があります。ただし、単に放置するだけではなく、死体を同一建物内の便所に引きずり込み、戸を釘付けにしたような場合(再犯昭29・4・15集8-4-471)や洋タンス内に入れ、これに目張りしたような場合(東京八王子支判平10・24判タ995-282)にはそれぞれ死体遺棄罪の成立を認めた判例がありますので、このような事実が存在すれば、殺人犯自らが死体を放置した場合でも、死体遺棄罪が成立する可能性があります。
殺人罪の定義・量刑
死体遺棄罪の事例として多いのは、高齢の親の年金を受給し続けるため、家族が親の死亡を届け出なかった等の場合です。
しかし、それ以外の場合では、殺人犯が自らの犯行発覚を免れるために、死体を山や海に投棄する場合が多いようです。このような場合は、最初の逮捕罪名が死体遺棄罪の場合であっても、後の取り調べ等により、殺人罪の嫌疑が浮上するケースが多く見受けられます。
殺人罪は以下のとおり、刑法199条に定められています。
殺人
第百九十九条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
その構成要件(犯罪が成立するための条件)は、字のごく「人を殺した」ことです。有法定刑は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役になります。有期の懲役刑となる場合は、特別の加重事由がない限り、20年が限度とされますので、有期の懲役刑が言い渡される場合には、5年以上20年以下の範囲で懲役刑が言い渡されることになります。
懲役
第十二条 懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、一月以上二十年以下とする。
弁護士による今後の捜査見通し
死体が発見された場合、被害者の行動から逆算することにより、被疑者に死体との関与を認めることは比較的容易であると考えられます。しかし、被疑者が殺人を行ったか否かの事実については、死体の損傷状況等から犯行態様や犯行時刻を特定する必要があり、そのような客観的証拠から、当該被疑者が殺人を行うことが可能であったか否かを調べる必要があります。
また、同時に、当事者の関係性を調べあげて、犯行動機等もある程度解明した後でなければ、殺人罪での逮捕に踏み切ることはできません。
一方で、これらの事実は、死体遺棄罪の捜査とも重なる部分が多いので、死体遺棄罪で逮捕した後に、殺人の嫌疑が固まれば、殺人罪で再逮捕するという流れになることはよくあります。
冒頭の事例では、被疑者両名は現在、死体遺棄罪の容疑で逮捕されているようですが、報道によると被疑者のうち一人は自らが被害者を殺害した事実について認めているようですので、この人物については、今後、殺人罪での再逮捕が予想されます。一方で、もう一人の被疑者については、そのような供述をしている訳ではないようです。こちらの被疑者については、当該被疑者が殺人の実行行為にどれだけ関与したか、他方の被疑者との間で殺人の共謀が認められるか否かが問題になると思われます。
ただ、事案の重大性や当事者相互の関係性等を考えれば、結論としては、当該被疑者についても早期に殺人での再逮捕に踏み切り、捜査を進めていく可能性があると思われます。
死体遺棄の成立に疑義ある場合においても、この事実は処分保留にし、殺人の自白等に基づき直ちに殺人で再逮捕する可能性があります。そうでないと犯罪が成立しない違法な勾留下での殺人の自白の証拠能力が問題になるためです。
まとめ
以上のとおり、この記事では冒頭の事例で死体遺棄罪が成立する可能性について説明しました。事件については、今後の経過を見守ることが肝要であると思われます。