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わいせつ事件での冤罪逮捕の問題を解説

昨今、整体やマッサージ店等での不同意(強制)わいせつ事件が多発しています。整体や鍼灸、マッサージなどの施術を伴うサービス業では、個室あるいは密室空間で行われることが通例です。カメラなどもない、いわゆる2人だけの空間ですので、「同意があったのかどうか」やそもそも「わいせつな行為をしたかどうか」といった意思や行動を客観的に確認する方法がありません。

このような事件では、たとえ事実を否認していても、被害者の言っていることが信用されて冤罪で逮捕されてしまうことがあります。そして、その後もやっていない証明ができないままに無実の罪で起訴され、有罪となってしまう可能性があります。

今回はこのような不同意(強制)わいせつ事件とそれに伴う冤罪問題について、弁護士・中村勉が解説してまいります。

不同意わいせつ(旧強制わいせつ)事件とは

「わいせつ」とは、いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものというと判示されています(最判昭和26年5月10日)。

不同意(強制)わいせつ行為の具体例としては、強いて接吻する行為や、被害者の意思に反して乳房、尻等に触れたり、指を陰部に挿入したりする行為等があります。人の体に触れて施術をする業界は、その性質上、一歩間違えれば、不同意わいせつ罪を疑われて刑事事件になりかねないリスクがあります。
それでは、最近多発している整体やマッサージ店等での不同意(強制)わいせつ行為に対して、どのような刑罰が科され得るのか、見ていきましょう。

強制わいせつ(旧強制わいせつ)事件に関する刑罰

整体やマッサージ店等における事件では、整体師等の施術者が不同意(強制)わいせつ罪に問われる例が多く見られます。

不同意わいせつについては刑法176条で規定されています。整体やマッサージにおける事案では、患者に正当な施術と誤信させてわいせつ行為が行われる例が多く、刑法176条2項「行為がわいせつなものではないと誤信をさせ、…わいせつな行為をした者」として処罰されるケースが多くなります。
刑罰は「6月以上10年以下の懲役」となっており、罰金刑は定められていませんので、起訴される場合には公判請求(公開した法廷における審理を求める起訴)が行われることになります。

刑法第176条1項
次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
刑法176条2項
行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。

不同意(強制)わいせつ罪は、未遂罪も処罰されます(刑法第180条、第176条、第178条1項)。

刑法第180条(未遂罪)
第176条から第178条までの罪の未遂は、罰する。
刑法43条(中止犯)
犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。

被害者に懇願されたために中止した事案では、刑の減軽又は免除が必要的になる中止犯が認められております。
ちなみに、不同意(強制)わいせつ罪を含む刑法上の性犯罪は、平成29年の法改正で親告罪から非親告罪になりました。
親告罪とは、被害者やその親族等の告訴権者からの告訴がなければ、検察官が当該事件の被疑者を起訴することができない犯罪のことをいいます。改正以前、これらの罪が「親告罪」であった理由は、公判において被害状況を明らかにされる被害者の感情やプライバシー保護を重んじていたためとされています。すなわち、被害者によっては、性犯罪の被害に遭ったことを周りに知られたくないという方がいますので、その気持ちに配慮されていたのです。

しかし、被害者にとっては逆に告訴するか否かの選択が迫られることにより精神的負担を感じたり、告訴することにより加害者から報復を受けることを恐れてかえって告訴しづらくなったりすることが問題視され、これらの性犯罪は非親告罪に改定されました。そのような経緯がありますので、非親告罪とされた現在でもなお、これらの性犯罪の事案では、その起訴・不起訴の判断にあたり、被害者の感情はそれなりの比重をもって考慮されているものと考えられます。

強制わいせつ事件と判決例

次に、実際に起きた整体やマッサージ店、病院等での強制わいせつ事件とその判決例をみていきましょう。

Ⅰ 平成28年8月~9月、整体師の被告人が自ら院長を勤めていた東京・銀座の整体院で20代と30代の女性に対し、それぞれ施術だと思わせて胸を触る等のわいせつ行為をした。平成29年、準強制わいせつの罪に問われていた東京地裁は、懲役2年6月、執行猶予4年(求刑懲役2年6月)の判決を言い渡した。
被告人は、小顔や骨盤矯正の施術に定評のある整体師として、テレビや雑誌に取り上げられていた。裁判官は「整体師としての信頼に乗じた卑劣な犯行であり、被害者は男性に体を触られることに恐怖を感じるようになる等、現在も精神的苦痛が続いている」と指摘。一方、執行猶予判決とした理由に、被害者と示談が成立していること等を述べた。

Ⅱ 平成22年4月~平成25年12月、自ら経営するオイルマッサージ店の女性客5人に対して暴行し、強制性交や強制わいせつの罪に問われていた被告人に対し、最高裁第1小法廷で裁判長は、平成30年、被告の上告を棄却する決定をした。懲役11年とした一、二審判決が確定した。被告人は公判で「合意があった」と無罪を主張したが、一審宮崎地裁判決は「抵抗を著しく困難にし、わいせつ行為に及んだ」と指摘。二審福岡高裁宮崎支部もその指摘を支持した。

Ⅲ 平成27年5月30日、被告人が整体師として開業した整体院に来た被害女性(19歳)の施術中に馬乗りになり、勃起した陰茎を押し付けた。さらに、乳房をもみ、下着の中に直接指を入れて強制わいせつをした。裁判長は判決理由として、被害女性がうつぶせ状態でうたた寝をしていることに興じ、馬乗りになった状態で勃起した陰茎を押し付けたり、さらに胸をもんだり下着の中に指を入れ陰部を直接触る等悪質で卑劣な犯行であり、情状の酌量の余地はないとして、懲役1年6月の判決を言い渡した。
しかし、その一方被害女性に対して示談金100万円を支払っていること、被告人本人が反省していることや自己が経営している整体院を閉店して再犯防止に努めていること等を酌量して執行猶予3年を付けた。

Ⅳ 長野県の病院に勤務していた医師の被告人は、平成28年12月、入院していた10代の少女の体を触ったとして、準強制わいせつの罪に問われていた。裁判で弁護側は「客観的証拠がない」等として無罪を主張、一方検察側は「卑劣な行為」として懲役3年を求刑した。
結果、平成29年の判決公判で長野裁判所の裁判長は、「被害者の証言等は不自然でなく、信用を左右するものではない」と述べ、「犯行は身勝手で、計画性は強くないことを考慮しても悪質性が高い」として、懲役2年の実刑判決を言い渡した。

Ⅳ 平成22年から23年にかけて 、自宅等で「合宿治療」と称して少女らを宿泊させ、睡眠導入剤等を飲ませて抵抗できない状態にさせ、体を触ったり、写真を撮影したりする等したとして、準強制わいせつ等の罪に問われていた元警察官で整体業の被告人の判決が平成24年、釧路地裁帯広支部であった。
裁判官は「被害者らの人格を蹂躙(じゅうりん)し、動機に酌量の余地は全くない」等として、求刑通り懲役6年を言い渡した。

冤罪とは

冤罪とは、無実であるのに犯罪者として扱われることをいいます。不同意(強制)わいせつ事件等の性犯罪の捜査においては、被害者や目撃者の供述を重視して捜査される場合が多いことから、被害者らが犯人を見間違える、勘違いする等の事情により、誤認逮捕が生じるケースが考えられます。

整体やマッサージ店、病院で起きている不同意(強制)わいせつ事件の中には、施術する側が実際に治療の一環として行ったつもりでも訴えられてしまったり、金銭的な目的で訴えられてしまったりする場合があります。

整体やマッサージ店等での不同意(強制)わいせつ事件は、痴漢と同じで、顧客が被害を訴え出たら、整体師・マッサージ師側はやっていない証拠を出さない限り、犯人扱いされてしまいがちです。監視カメラで施術シーンを撮影していれば事実がハッキリすると言い得ますが、それでは盗撮騒動になりかねず、新たな問題が勃発することになります。
冤罪を証明することは非常に難しいのですが、以下のようなケースがあります。

平成31年2月20日 東京地裁判決

2016年に乳腺外科医師が手術直後の女性患者の胸をなめた等として準強制わいせつの罪で逮捕・起訴された事件。検察側は「極めて悪質」「被害者の処罰感情は厳しく、社会的影響も大きい」等として懲役3年を求刑。弁護側は、女性の訴えは麻酔の影響による「せん妄」がもたらした「性的幻覚」等と主張し、無罪を主張していた。

公判が再開されるのを前に、「乳腺外科医師冤罪事件の真相を知る会」(外科医師を守る会主催)が開かれた。足立区の病院で同年5月10日に起きたこの事件は、千住警察署から警視庁捜査一課主導の捜査となり、8月25日の逮捕までの間、被告人を執拗に尾行しゴミの中から家族のDNAを採取したり、病院職員全員の名簿や病院長室にあった多数の資料を押収したりする等、およそ「わいせつ事案」とはかけ離れた捜査手法が問題視された。

弁護団を代表し、事件の経緯と1年5カ月間に及んだ非公開の「期日間整理手続」の要旨を紹介した黒岩哲彦弁護士は「手術直後に『ふざけんなよ、ぶっ殺してやる』等と叫んだ被害女性の発言が、全身麻酔の影響かどうかがポイント。女性は麻酔が切れていない状態で見た性的幻覚を事実だと思い込んだ可能性が高い」とし、さらに「警察・検察が被害者の胸から採取したと主張する被告人のDNAは本人のものかどうか疑わしいばかりか、そのDNAを捨ててしまっていた」と検察側の致命的なミスを指摘。公判では「犯罪とされる行為自体がなかった」ことを専門医の再実験や証言によって明らかにしていくと報告した。2019年1月8日、公判が東京地方裁判所であり、検察側は懲役3年を求刑。一方、弁護人は無罪を主張。結果として、2019年2月20日に無罪判決が言い渡された。

※外科医師を守る会…無実を訴え続ける外科医師の人権を守るためにも、医療現場に混乱や萎縮を与え、さらなる医療崩壊をもたらさないためにも、外科医師の早期釈放を求めて署名活動などに取り組んでいる。

この例のように、わいせつ事件の冤罪の争点は、被害者の証言が信用できるか否かにかかっていることが多いのです。
なお、この事案は、その後、検察官により控訴の申立てがされ、控訴審の東京高等裁判所は、令和2年7月13日、この東京地方裁判所の判決を破棄し、被告人を懲役2年の実刑に処する逆転有罪判決を下しましたが、令和5年2月、上告審において最高裁判所が東京高裁の判決を破棄して差戻し、差戻審が東京高裁に係属中です。

冤罪で逮捕された場合の弁護活動

冤罪で逮捕された場合、捜査機関の有利になるように誤導されるなどしないよう、捜査初動の段階から細心の注意を払う必要があります。
すなわち、そもそも取調べにおいてどのように受け答えをするのがよいのか、ありのまま自分の認識を話すのがよいのか、黙秘をすべきか、調書には署名押印すべきか等は事案によって変わってきます。これらの点の判断を自分でしてしまうと、知らない間に自分が不利な状況におかれ、万が一起訴された場合にも、無罪判決をとるのが難しくなってきます。

したがって、冤罪で逮捕された場合には特に、早期に弁護士に相談・依頼することが大切です。
弁護士は事案の詳細を丁寧に聞き、まず取調べの対応につき方針を決めます。黙秘をするのであれば、きちんと取調べで黙秘ができるよう練習をします。
取調官によっては、黙秘や否認をしていると、強く当たってくるようになりますので、それに耐えられるように、弁護士は頻繁に接見し、精神的にサポートします。取調官が行き過ぎた違法な取調べをするようであれば、警察や検察に抗議書を提出します。特に、黙秘や否認をしている場合には勾留を回避することが難しく、長期間身柄拘束が続くことになりますので、弁護士という味方の存在は欠かせません。
また、取調べで尋ねられたことや言われたことをヒントに、捜査機関が持っている証拠を予測し、その証拠の証明力を弾劾するためにこちら側から出せるものがないかといったことも検討します。

一度起訴されてしまった場合に無罪判決をとるのは非常に困難ですので、起訴される前の捜査期間中にできる限りのことをするのが重要なのです。
もちろん、万が一起訴されてしまった場合には、検察官からできるだけ多くの証拠の開示を受けて証拠を精査し、弁護側から出せる証拠があればそれを証拠調べ請求し、冤罪であることを説得的に示す公判活動を行います。

まとめ

今まで述べてきたように、今日多発している整体やマッサージ店等での不同意(強制)わいせつ事件では、冤罪も含めて多くの場合、刑罰が科されています。そのような事態にならないためにも、もちろんわいせつな行為をしないこと、そして冤罪に巻き込まれないようにわいせつと疑われるような行為はしないことが重要です。そして万が一自分が罪を犯してしまった、あるいは御家族が冤罪で逮捕されてしまった場合には、一刻も早く弁護士に相談しましょう。

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