交番や警察署、駅などに貼り出されている指名手配のポスターを一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
今回は指名手配とはどういう制度なのか、国際手配がどのような仕組みになっているのか、また、指名手配犯の出頭の効果、指名手配犯を見つけた場合の対応について代表弁護士・中村勉が解説いたします。
指名手配とは
指名手配とは、一般的に、所在が不明の被疑者につき、事件捜査を担当する警察署から全国の警察に向けて、被疑者の氏名や顔写真、外見の特徴、事件内容等を発信して、被疑者の逮捕を要請するものを言います。
指名手配は、国家公安委員会が警察官による捜査活動の手順について定めた規則である「犯罪捜査規範」及び同委員会が警察庁と都道府県警察、都道府県警察相互間における連絡共助について定めた規則である「犯罪捜査共助規則」に基づくものです。
まず、それぞれの関連条文を見てみましょう。
犯罪捜査規範第31条(指名手配)
逮捕状の発せられている被疑者の逮捕を依頼し、逮捕後身柄の引渡しを要求する手配を、指名手配とする。
2 指名手配は、指名手配書(別記様式第二号)により行わなければならない。
3 急速を要し逮捕状の発付を受けるいとまのないときは、指名手配書による手配を行った後、速やかに逮捕状の発付を得て、その有効期間を通報しなければならない。
4 第二十九条(緊急事件手配)の規定による緊急事件手配により、氏名等の明らかな被疑者の逮捕を依頼した場合には、当該緊急事件手配を指名手配とみなす。この場合においては、逮捕状の発付を得た後、改めて第一項の規定による手続をとるものとする。犯罪捜査共助規則(指名手配) 第七条
逮捕状の発せられている被疑者の逮捕を依頼し、逮捕後身柄の引渡しを要求する場合には、指名手配書(規範別記様式第二号)により、指名手配を行うものとする。
2 急速を要し逮捕状の発付を受けるいとまのないときは、前項に規定する指名手配書により手配した後、速やかに逮捕状の発付を得て、その有効期間を通報するものとする。
3 第五条の規定による緊急事件手配により、氏名等の明らかな被疑者の逮捕を依頼した場合には、当該緊急事件手配を指名手配とみなす。この場合においては、逮捕状の発付を得た後、改めて第一項に規定する手続をとるものとする。
これらの条文によれば、指名手配とは、基本的に逮捕状の発せられている被疑者の逮捕及び身柄の引渡しを(全国の捜査機関に)依頼する場合に行われるものであることが分かります。
また、少なくともこれらの規定上は罪名による縛りがなく、どんな事件であっても、逮捕状が出ている被疑者については指名手配される可能性があるものと言えます。もっとも、実務上は軽微な事件で指名手配まですることはないでしょう。
重大な犯罪の指名手配被疑者
警察は、指名手配被疑者のうち、特に重大な犯罪の指名手配被疑者については、以下のような「特別手配被疑者」や「重要指名手配被疑者」に指定し、捜査活動を強化しています。
1. 警察庁指定特別手配被疑者
都道府県警察が指名手配した被疑者のうち、治安に重大な影響を及ぼし、または社会的に著しく危険性の強い凶悪または重要な犯罪の指名手配被疑者であって、その早期逮捕のため、とくに全国的地域にわたって強力な組織的捜査を行う必要があると認められた者については、警察庁が「警察庁指定特別手配被疑者」と指定します。
過去には、地下鉄サリン事件等のオウム真理教関係の事件の被疑者などについてこの指定がされていましたが、現在は該当者がいません。
2. 警察庁指定重要指名手配被疑者
都道府県警察が指名手配した凶悪犯罪または広域犯罪の被疑者のうち、全国の警察を挙げて捜査をする必要性の高い者を、指名手配被疑者捜査強化月間に併せて「警察庁指定重要指名手配被疑者」と指定します。
2021(令和3)年11月時点で、殺人や強盗殺人、爆発物取締罰則違反などの被疑者13名が指定されています。
3. 都道府県警察指定重要指名手配被疑者
各都道府県警察が、凶悪事件、悪質・常習的な窃盗や詐欺などの事件の指名手配被疑者のうち、組織を挙げて捜査する必要性が高い者を、指名手配被疑者捜査強化月間に併せて「都道府県警察指定重要指名手配被疑者」と指定します。
指名手配される基準
指名手配がされるのは、基本的に、逮捕状の発せられている被疑者が逃亡等により所在不明となっており、未だ逮捕することができていない場合です。
もっとも、上述したとおり、軽微な事件について指名手配がされることはほとんどありませんので、事実上、犯罪の重大性や悪質性等も指名手配される基準の一つとなっているものと考えられます。
指名手配と国際手配
国際手配とは、国際刑事警察機構(International Criminal Police Organization )と呼んでいます。NCBは、加盟国内におけるインターポールの窓口となり、他の加盟国のNCB、インターポールの事務総局、加盟国内の関連機関との連絡等を行っており、日本では警察庁がNCBとして指定されています。
国際手配の方法としては、各加盟国のNCBから他の特定の加盟国のNCBに対してディフュージョンと呼ばれる協力要請をし、当該加盟国内でのみ手配を要請する方法と、各加盟国のNCBからインターポールの事務総局に対して国際手配を要請し、全加盟国での手配を要請する方法があります。
インターポールの事務総局を介さずに直接他の特定の加盟国のNCBにディフュージョンを送付する前者の場合には、インターポール専用の通信網を通じて行うことができ、迅速な手配が可能です。
インターポールの事務総局を通じて全加盟国での国際手配を要請する後者の場合には、具体的には、顔写真や指紋を添えた国際手配申請書をインターポールの事務総局宛てに送付し、事務総局が、手配書発行の妥当性及び宗教性や政治性の有無を検討して国際手配をすることに問題がないかどうかを判断し、問題がなければ要請された内容に沿って国際手配書を発行してインターポールの各加盟国のNCBに配布して手配します。
いずれの方法が採られたとしても、各加盟国のNCBは、それぞれの国内法に基づいて被疑者の確保のための国内手配を行います。
そして、現地の警察が被疑者を逮捕した場合、NCBは、手配書を送付した国に被疑者を引き渡します。なお、引渡しについても、現地の国内法に基づいて行われますので、犯罪人引渡条約を締結していなければ引き渡されないわけではなく、各種事案に応じて当該加盟国内において引渡しの可否が判断されることになります。加盟国のNCBから被疑者の身柄の引渡しを受けた後は、通常の国内法によって、被疑者を捜査し、裁判にかけることができることになります。
加盟国のNCBの要請に基づき、インターポールの事務総局が全加盟国に対して発行する国際手配書には、次の9種類があります。
- 逮捕手配書(赤手配書)
- 情報照会手配書(青手配書)
- 防犯手配書(緑手配書)
- 行方不明者手配書(黄手配書)
- 身元不明死体手配書(黒手配書)
- 武器等警告手配書(オレンジ手配書)
- 特殊手口手配書(紫手配書)
- ICPO国際連合特別手配書
- 盗難美術品手配書
引渡しまたは同等の法的措置を目的として、被疑者の所在の特定及び身柄の拘束を求めるもの
被疑者の人定、その所在または行動に関する情報を求めるもの
罪を犯した者で、その犯罪を他国で繰り返すおそれのある者に関する情報を提供し、各国警察の注意を促すもの
行方不明者(主に未成年)の所在の特定または自己の身元を特定できない者の身元特定のための情報を求めるもの
身元不明死体に関する情報を求めるもの
公共の安全に対し、深刻かつ切迫した脅威となる行事、人物、事物または手口に関して警告するもの
犯罪者が使用する手口、物、仕掛けや隠匿方法に関する情報を求め、または提供するもの
国際連合安全保障理事会の制裁対象である個人または団体に関する情報を提供するもの
盗難された美術品または文化的価値を有する物品を探し出すこと、また、疑わしい状況で発見された物品を特定することを目的とするもの
指名手配と自首
指名手配をされている被疑者が自ら出頭した場合、自首したとして刑が軽くなるのでしょうか。
一般的な用語法として、犯罪の発覚以前、以後に関係なく、犯人が自ら警察に出頭することを自首と呼びますが、量刑上有利に扱われうる法律上の「自首」(刑法第42条)に当たるためには、犯人が捜査機関に発覚する前にこれを行う必要があります。
刑法第42条(自首等)
罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる。
2 告訴がなければ公訴を提起することができない罪について、告訴をすることができる者に対して自己の犯罪事実を告げ、その措置にゆだねたときも、前項と同様とする。
「捜査機関に発覚する前」とは、犯罪の発覚前または犯人が誰であるかが判明する前を意味し、これらの双方が判明しているものの、犯人の所在だけが判明しない場合は含まないとされています(最高裁昭和24年5月14日判決)。
指名手配は、逮捕状が発付されている被疑者の所在が判明していない時にされるものですから、逮捕状が発付されている以上、犯罪の発覚後で、かつすでに被疑者が誰であるか判明している後であるといえ、指名手配されている被疑者が自ら警察に出頭しても、「捜査機関に発覚する前」という要件を満たさず、法律上の「自首」には当たりません。
法律上の自首には当たらなくても、量刑の判断にあたり、自ら出頭した事実が有利な情状事実として考慮されることはしばしばありますが、指名手配されている被疑者はそもそも長期間逃亡していることが多く、出頭する理由も自分が指名手配されているのを見て観念した、逃亡生活に疲れた等特に有利に評価すべきとはいえないものであることが多いでしょう。したがって、指名手配されている被疑者が自ら出頭することによって、量刑上有利に扱われることはあまり期待できません。
量刑上有利に扱われる可能性を少しでも上げるためには、指名手配される前に警察に出頭することが重要でしょう。指名手配された後であっても、なるべく早く出頭すべきです。
指名手配犯を見つけた場合
指名手配犯を見つけた場合には、警察に通報すべきです。通報した場合、事案によっては捜査特別報奨金が支払われる可能性があります。
では、指名手配犯を見つけたにもかかわらず、通報せずに見逃した場合、犯人隠避罪(刑法第103条)は成立するでしょうか。
刑法第103条(犯人蔵匿等)
罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
ここにいう「罪を犯した者」とは、真犯人はもちろんのこと、捜査が開始された後に、その罪を犯したとして捜査の対象とされている被疑者や起訴されている被告人等、真犯人である旨刑事裁判で判断される前の者も含まれると解されています(最高裁昭和28年10月2日判決、最高裁昭和24年8月9日判決)。したがって、指名手配犯も「罪を犯した者」として犯人蔵匿罪、犯人隠避罪の対象となり得ます。
次に、「蔵匿」とは、官憲の逮捕・発見を免れるべき場所を提供して犯人をかくまうことをいい、「隠避」とは、蔵匿以外の方法により官憲の逮捕・発見を妨げる一切の行為をいいます。
したがって、指名手配犯を自宅にかくまったり、指名手配犯に逃走資金等を供与したりした場合には、犯人蔵匿罪や犯人隠避罪が成立します。
もっとも、指名手配犯の所在を知りながら、通報せずに見逃すという単なる不作為は、検挙・告発等の作為義務を負う警察官等でない限り、「隠避」には当たらないとされています。そもそも指名手配犯と元々面識がない場合には、指名手配犯であると確信することまでは通常できないでしょうから、それにもかかわらず、警察に通報しないと一般人も犯人隠避罪に問うとするのはあまりにも酷でしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。ここでは、指名手配制度、指名手配される基準、国際手配制度、指名手配と自首の関係、指名手配と犯人隠匿罪の関係等について解説しました。
逮捕状が出ていることを分かっていながら行方を眩ませてしまっている人や、指名手配犯等をかくまったり手助けしたりしてしまっている人はお早めに弁護士にご相談ください。